第9話 飽きるまで、ずっと

その言葉は、どこか悲しげに耳に残る。

もう分かり切ったことだった。

俺たちは男同士で、書類上では結婚ができない。

結婚を「この人と一生いっしょにいる」という契約だとするなら、その契約を結べない俺たちには、やはりどうしても埋められない距離みたいなものがある気がする。


そして仮に形ばかりの恋人から形ばかりの結婚へとシフト出来たとしても、黒瀬さんの心がレイコに縛られていることに変わりはない。


俺はわざとツンツンした態度で言い返した。



「ハッ、冗談はやめてくださいよ」

「どうして?リュウくん、ずっと一緒にいようよ」

「ずっとなんて嘘だ。黒瀬さんが永遠なんて約束できるわけがない」



再び言い返したところで、黒瀬さんの不安気な表情はどこかに消え、いつもの薄い笑みに戻って、楽しそうに呟く。



「…さすがリュウくん、かしこいねえ。俺のことをよくわかってる」



そうだ。黒瀬アキラという人間が、恋人との甘いやりとりに流されたのだとしても、永遠なんて約束できるはずがないのだ。

俺は悔しいけどこの人を愛している。でも忘れたわけではない。

子供を騙す悪い大人。

人間の皮を被った悪魔。


…騙される愚かな子供。



「じゃあ、言い直そうか。リュウくん、俺と一緒にいてほしいな。…俺が飽きるまで、ずっと」



黒瀬さんの声が、静かな部屋の中に響く。迷いはない。俺はすぐに頷いた。



俺たちの「永遠」の約束は、このくらいがちょうどいい。

お揃いのものを身に着けて互いを縛りあったところで、それは建前に他ならないかもしれないのだから。



「黒瀬さん、愛してます」



だから、俺に飽きないでください。

最初からずっと、あなたに飽きられるのだけがこわい。

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