第8話 飽きるまで、ずっと



「ほらリュウくん、これあげる」



いつものように、マンションで夕食を終えた後。その日も黒瀬さんは、嬉しそうな顔でなにかを取り出した。



「いや、いいですって。俺、いっつももらってばっかだし…」



結局押し切られてプレゼントを受け取ることになるのは目に見えていたけど。

それでもやっぱり申し訳なくて、遠慮の言葉を口にしてしまう。

黒瀬さんはそんな俺を見て、心底おもしろそうに笑った。

何一つお返しをできていない俺にとっては、こんなことおもしろくもなんともない。



「いいんだよ、俺の自己満なんだから。リュウくんが黙って受け取ってくれれば、それで幸せなんだからさ」

「でも…」

「いいからいいから。はいこれ、ストラップなんだけど。お揃いにしたくて買ってみたんだよ」



にこにこしながら差し出してきたのは、銀色のチェーンのストラップだった。

いたってシンプルなもので、センスがいい。

ふと見れば、いつもテーブルの隅に置いてある彼の財布にはすでに同じストラップがつけられている。



黒瀬さんがくれるプレゼントの大半は、ペアものの何かだった。そういうところは、なんだか単純で可愛いと思う。

お揃いのものを持ちたがるなんて意外だけど、恋人ごっこの一貫だろうと無邪気に喜んでくれるのが嬉しくて、俺もついつい身に着けてしまうのだ。



「どうかな?」

「可愛いっすね。ありがとうございます」

「可愛いって、これが?まあ、気に入ってくれたみたいでよかったよ」



可愛いのはストラップではなく黒瀬さんだ。間違えて、うっかり考えていたことをそのまま口に出してしまった。

危ない危ないと苦笑しつつ、俺はそろそろかなと思った。

実は今日は俺からも、黒瀬さんに贈り物がある。

何かをあげるのは初めてだから、切り出す頃合いをずっと見計らっていたのだ。



「ねえ、黒瀬さん」

「ん?」

「今日は俺からもプレゼントがあるんです」

「え?なにそれ、サプライズ!?」



身を乗り出すようにして顔を輝かせている。なんだかハードルが上がってしまったような気がしなくもない。

前置きなんてせずに、すぐに渡せばよかったかな。

若干後悔をしながらも、俺はポケットから包みを取り出した。



「気に入ってもらえるかはわかんないけど…これ」



薄い青色の紙で包装されたそれを差し出す。手渡し、すぐに開けてみるように促した。



「一応、これもお揃いなんすよ。着けてくださいね!」



黒瀬さんはワクワクした表情で包みを開け、中のものを見るとさらに嬉しそうな顔になった。

出てきたのは、シルバーのブレスレットだ。

これもまたシンプルなもので、俺はどうかわからないが黒瀬さんにはよく似合うと思う。



「…っ、ありがとう!なんだろう、なんかすっごく嬉しい」

「喜んでもらえて、俺も嬉しいです」



プレゼントをもらうたび、俺もいつもそんな幸せな気持ちになっている。

その幸せを今度は感じてもらうことができて、心底嬉しかった。

黒瀬さんはすぐにブレスレットを左手につけてくれた。



「黒瀬さんって最近、何かと俺とお揃いのもの持ちたがりますよね。なんでなんすか?嬉しいけど」



いい機会だから聞いてみることにした。

そもそも、理由なんてないのかもしれなけど。

すると黒瀬さんはますますやさしい顔でほほ笑んで、話し出す。



「おかしいかなって、自分でも少しは思うんだけどね。なぜか、なんでもかんでも君と共有したくなるんだ。全部全部いっしょがいいんだよ、常にリュウくんを傍に感じていたいからかな。同じものを身につけていれば、離れていても俺のこと忘れないだろうし!」



そこでいったん言葉を区切って、わずかに切なそうな顔で呟いた。



「…いずれは同じ指輪をつけてさ、同じ苗字になりたいものだね」

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