第5話 依存しよう。
―眠ってしまっていたようだ。
気が付いたら時計はもう八時半をさしていて、俺は、暗い部屋の中にいた。
一瞬すべて夢だったのではないかと考えたが、そんなことはあり得ない。
現にいま自分はソファに横たわっていて、その体には毛布がかけられている。
きっと、あの人がかけてくれたんだろう。
目をこすりながら、立ち上がって電気のスイッチを探した。暗闇の中、壁を手さぐりで探す。
この街の夜は明るいので、窓からは様々な光が差し込んでくる。それを頼りにして探したら、わりとすぐに見つけることができた。
「あ、あった」
スイッチを押すと、二回点滅した後に電気がついた。そのまぶしさにわずかによろめきつつ、俺はとりあえずソファまで戻る。
この広い部屋を、どう歩いたらいいのかがいまいちわからない。
置いてあるものを自由に手にとったところで黒瀬さんは怒らないだろうが、なんとなく遠慮しておくことにした。
この部屋の中にあるもの…いや、この家そのものが、俺に対してよそよそしいように思える。初めて訪れる家なのだから当然だ。それは分かってはいるが、なんだかわずかに寂しいのも事実だった。
はやく居場所がほしい。俺を受け入れてくれる居場所が。だって少なくとも今はまだ、ここに俺の居場所はない。
…それより、どこに行ったんだろう?
そう思ったとき、ちょうど物音がした。
よかった、外出していたわけではなさそうだ。
安心して、俺は音のする方へ歩いていく。あの人はどうやら風呂に入っているようだ。そのときちょうどバスルームと思われる部屋から、濡れた髪をタオルで拭きながら彼が出てきた。
「ああ、起きたの?」
「あ…すいません、俺、いつの間にか寝ちゃって」
「いいよ、疲れてたみたいだしね。それよりバスルームまでお出迎えしてくれるなんて、可愛いなあ」
「あ、いや…」
冷静に考えたら恥ずかしくなってきた。
べつにリビングで待っていてもよかったはずなのに、自分は何をやっているんだ。
黒瀬さんの気配がしたらなんだか安心して、変なことをしてしまった。
「あ、君もお風呂入っちゃったら?今日は俺の着替えを貸すよ」
「え、いいんですか」
「いいに決まってるじゃないか。そのほかにも必要なものがあれば、明日にでも買いに行けばいいからさ」
「わかりました」
頷いて、俺は彼とすれ違う形でバスルームに入ろうとした。
そのとき無造作に髪を拭いていた黒瀬さんが「あ」とつぶやいて、わざわざ振り向いてほほ笑む。
「お風呂では寝ないようにね。風邪引くから」
「なっ…分かってますよ!」
「ハハ、じゃあごゆっくり~」
やっぱり不思議な人だ。変わっているというか、なんだかつかみどころがない。
いや、むしろありすぎて、謎だ。
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