第3話 依存しよう。
―赤い夕日に染まる東京。
俺の手をとった少年は、不安気な顔でこちらを見上げる。
安心させてあげようなんて思ったわけじゃないけれど、俺はにっこりほほ笑んで、できるだけやさしい声で囁いた。
「俺たちの肩書きは恋人だよ。忘れないでね」
その言葉に再びうなずいた表情が、なんだかとても切なくて。
俺は文字通りに、リュウくんを愛そうと思った。
大切に、大切にしてあげよう。
まるで宝物のように。お姫様のように。
君に尽くして、守ってあげよう。
そんな恋愛ごっこを、俺は求めているんだよ。
◇
「ここが、今日から君の家だよ」
とあるマンションの前で、黒瀬さんは俺にそう告げた。
その建物は外見からしてとても高級そうな造りで、俺はなんだか気後れしてしまう。
こんなことをして、本当にいいんだろうか。そんな背徳感がいっさいなかったわけではないのだ。
だから建物の中に入るよう促されても、すくんだ足をなかなか動かすことができなかった。
「リュウくん、どうしたの?なんだか…不安みたいだね」
心配というよりは面白がっているような表情で、小首をかしげる。
悔しいが、その通りだった。
いま目の前にあるのは、今日からこの人と暮らすのだという漠然とした現実のみ。それは自分で決めたことなのだが、異質な日常に自ら踏み出すというのはやはり不安だったのだ。
【S】として歩んできた惰性の日々を手放すのが、やはり少しだけ怖かったせいもあるんだろう。
「…そんなこと、ないです」
反論してみたが、声が頼りなかった。
それが自分でも分かるからなんだか情けない。
「そう?それならいいんだけど。じゃあ中に入ろうか」
「はい」
「ちなみにこのドア、オートロックだからね。暗証番号はあとで教えてあげる」
そう言うと、彼は慣れた手つきで番号を入力する。そして開いたドアから部屋の中に入った。
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