第3話 依存しよう。

―赤い夕日に染まる東京。



俺の手をとった少年は、不安気な顔でこちらを見上げる。

安心させてあげようなんて思ったわけじゃないけれど、俺はにっこりほほ笑んで、できるだけやさしい声で囁いた。




「俺たちの肩書きは恋人だよ。忘れないでね」




その言葉に再びうなずいた表情が、なんだかとても切なくて。

俺は文字通りに、リュウくんを愛そうと思った。

大切に、大切にしてあげよう。

まるで宝物のように。お姫様のように。

君に尽くして、守ってあげよう。

そんな恋愛ごっこを、俺は求めているんだよ。









「ここが、今日から君の家だよ」



とあるマンションの前で、黒瀬さんは俺にそう告げた。

その建物は外見からしてとても高級そうな造りで、俺はなんだか気後れしてしまう。

こんなことをして、本当にいいんだろうか。そんな背徳感がいっさいなかったわけではないのだ。

だから建物の中に入るよう促されても、すくんだ足をなかなか動かすことができなかった。



「リュウくん、どうしたの?なんだか…不安みたいだね」



心配というよりは面白がっているような表情で、小首をかしげる。

悔しいが、その通りだった。

いま目の前にあるのは、今日からこの人と暮らすのだという漠然とした現実のみ。それは自分で決めたことなのだが、異質な日常に自ら踏み出すというのはやはり不安だったのだ。



【S】として歩んできた惰性の日々を手放すのが、やはり少しだけ怖かったせいもあるんだろう。



「…そんなこと、ないです」



反論してみたが、声が頼りなかった。

それが自分でも分かるからなんだか情けない。



「そう?それならいいんだけど。じゃあ中に入ろうか」

「はい」

「ちなみにこのドア、オートロックだからね。暗証番号はあとで教えてあげる」



そう言うと、彼は慣れた手つきで番号を入力する。そして開いたドアから部屋の中に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る