後書き
結論から述べると、病院坂久々利は両親と共に、既に旅に出た後だった。私たちはそのことを近所の住人から聞かされ、同時に一通の手紙を受け取った。
手紙は、およそ学生が書いたものとは思えないような綺麗な文字、文章で、さながら病院坂久々利の優秀さをそのまま表したようなものであった。内容を簡単にまとめると、名探偵との対決は楽しかったことと、旅行券の入手は横領の類ではなく、あくまで商店街側からの善意であるということだった。
今回の件に関して、猫目石芽衣子の公式の発言は以下の通りである。
「病院坂久々利のことだから、きっと商店街の人間の心を上手くコントロールして、旅行券を入手したのだろうが、いずれにせよそれを証明する手立てはなく、この一件に関してだけ言うならば僕の完敗である」
あれから病院坂古書店は通常通りに営業をしている。私も猫目石も相変わらず通っているが、しかし私は猫目石が病院坂久々利と言葉を交えているところを、ついぞ見ることはなかった。
ただ一つだけ言えるのは、猫目石にとって病院坂久々利はもはや行きつけの店の看板娘などではなく、特別な感情を抱く相手だということだけである。何せ猫目石はあの一件以降、病院坂久々利によって施されたブックカバーを――書籍そのものよりもむしろそのカバーの方を――大切に、大切に保管しているのだから。
後にも先にも、猫目石芽衣子が敗北したのを見たのはそれっきりであった。
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