脳筋少女は真面目な話に耐えきれない

 依頼を受けた後、レントたちはさっそくフレイス邸にきていた。応接間のような場所に通される。


「それでルカ、護衛の仕事に一番必要なのは何か分かる?」


「戦闘力」


 ルカは即決でそう答える。


「違う。そんなストレートな答えならわざわざ聞かない」


「ん〜、じゃあ、武力!」


「ちょっと悩んだ時間はなんだったんだよ」


「じゃあ暴力?」


「一旦パワー系から離れようか。違うよ。必要なのは、まぁ特にルカはだけど注意力だ」


「注意力?」


「そう、まあ集中力って言ってもいいかもしれない。最優先事項はとにかレイラ様を守る事だから、常に彼女の周りに気を巡らせとかなきゃならない」


「レント見て!あの壺すごい高そう!」


「聞けよ!そういうとこだよ!」


 トントン


 部屋の扉が叩かれる。部屋に入ってきたのは明るい茶髪の恰幅のいい男性だ。


「ようこそ初めまして。私セドリック・フレイスと申します。今回は依頼を受けていただき誠にありがとうございます」


 今回の依頼主でありフレイス商会会長のセドリックが椅子に腰掛けそう挨拶する。


「いえ、こちらこそ。これからしばらくよろしくお願いします」


 セドリックは貴族にしてはそのイメージにそぐわず腰の低く、態度も丁寧な人だった。さすがは商人といったところか。


「あなたがレントさん、そしてそちらがルルカさんですか。副団長殿から話は聞いております。非常に優秀な方達だとか」


「いえ、そんな事は…」


 お世辞だと分かっていても悪い気はしない。


「では早速ですが依頼のことについてのお話を」


「はい、お願いしま――」


「ちょっとトイレ行ってきていい?」


「おいいきなりぶっ込んでくるな。失礼だぞ」


「ええ、どうぞ。家のものに案内させましょう」


 ルカの失礼極まりない言動も流してくれるセドリックに感謝しつつルカを部屋から追い出し、話を進める。


「大変失礼いたしました。では話の続きを」


「守って欲しいのは私の娘のライラのことです。いかんせん実際に一度狙われていますので」


「ええ、それではライラ様の普段の行動を教えてもらえますか?」


「娘はいつも朝八時にこの屋敷を出て学校に行きます。こんなこともあったので行かない方がいいと私は思うのですが娘がどうしても行くと言って聞かなくて」


「確かに狙われるならまた登下校の時の確率は高いですね。学校の中はどうなんですか?」


「学校は貴族の子女が通っている学校ですので警備はかなり厳重です。ですが言っておけばあなた方も校内には入れると思います」


「分かりました。それ以外でライラ様が外出されることはありますか?」


「流石にそれはしばらくの間自重させましょう。危険すぎる」


「それがいいと思います。後そうだ、僕たちの他にライラ様の護衛につく人の事などを教えてもらえますか?」


「それは私の方から話しましょう」


 そう言って会話に入ってきたのは筋骨隆々でスキンヘッドの男だ。


「ハインツだ。普段はフレイス家に雇われているものを取りまとめいる。今回は一緒にライラ様の護衛を担当することになる。よろしく」


「よろしく」


 簡潔に自己紹介を終えたハインツはフレイス家の警備状況を話し始めた。


「私たちがやるべきことは大きく分けて二つ。ライラ様を守ることと今回の事件の犯人を捕まえることだ。そしてライラ様の護衛は私と私の部下二人、それと君たちの五人で行う」


「五人で、ですか。万全を期すには少ない気がしますが…」


 レントのその言葉にハインツは複雑そうな表情を浮かべた。


「言いたいことは分かる。だが他に予告状を出された方たちにも護衛をつけねばならんし、犯人を捕まえるための捜査にも人員を割く必要がある。憲兵団が動いてくれない以上、これがギリギリだ」


 ライラの護衛の数が少なければ当然危険度は上がる。しかし捜査に当たる人間が少なければ犯人を見つけるのに時間がかかり、後々に禍根を残すことになりかねない。そこの兼ね合いを鑑みての決断だったのだろう。ハインツの顔からは悔しさがにじみ出ている。


「了解です。僕たちも全力で事に当たらせてもらいます」


「よろしく頼む。あと君の相方とも話をしておきたいんだが、なかなか帰ってこないな」


 トイレに行ったルカはなかなか戻ってこなかった。


「確かに遅いですね。なにぶん動きたがりなものなので、もしかしたら屋敷の中を下見しているのかもしれないです、ハハ、ハ…」


 あの野郎早く帰ってこい!いや女だから野郎じゃないのか?


 苦しい言い訳に自分でも苦笑しながら、心の中での文句に一人ツッコミを入れる。


「すいません、ちょっと探してきます」


「家のものにも手伝わせましょう」


「ホントにご迷惑をおかけし――」


 ガタンッ


 大きな音が屋敷中に響き渡った。


「この音は…娘の部屋の方からです!」


「まさか!」


 セドリックとハインツは部屋を出て急いでライラの部屋に向かい、レントもそれを追う。


 ライラの部屋の前に着いた時、部屋の扉は開け放たれていた。


「ライラ様!」


「ライラ!」


 部屋の中に入った三人が見たのはライラの部屋で一人の男を取り押さえているルカだった。




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