厄介な依頼と厄介な相棒

「まぁ、簡単に言えば護衛だな」


 ハーディは今回の依頼についてそう言った。


「護衛!面白そうじゃない。初めてだし。うわあ、なんかやる気出てきた!」


「ルカちょっと落ち着いて。護衛対象は?」


「フレイス家のご令嬢だ」


「フレイス家か。また厄介なものを持ってきたな」


 フレイス家はこの国の下級貴族だ。しかしそのルーツは他の貴族とは根本的に異なる。


 フレイス家はもともと商人の家柄だった。そしてフレイス商会は王国一の大商会。フレイス家はその資金力にものを言わせ、貴族の地位を勝ち取った。それ故に商売敵や商家が貴族になる事をよく思わない他の貴族達からなど、あらゆる方面からの恨みをかっていた。


「まあ確かにきなくせえところではあるけどな。そんで、受けてくれるか?」


「詳細を聞かしてくれ。判断はそれからだ」


「まあいいだろ。発端はフレイス家のご令嬢、ライラ様に殺害予告状が届いた事だ」


「私もそれ貰ったことある!」


「どこでテンション上がってんだよ。確かに俺らも恨み買うこと多いけど」


 何でも屋をやっているといろいろな事があるのだ。


「いやー、なんか親近感わいちゃうなぁ」


「なんだその世界一不必要な親近感は」


 妙な食いつきを見せるルカを横目に話を進める。


「と言っても予告状はライラ様だけに出されたわけじゃねえ」


 ハーディによれば出された予告状は三枚。他にはフレイス商会の重役二人に届けられたらしい。


「こんなこと言ったらあれだけど、ぶっちゃけフレイス家が殺害予告をもらったことなんて今回が初めてじゃないだろう。何で今になって護衛の依頼をしてきたんだ?」


「んや、最初は気にも留めて無かったそうだぞ。あそこは至る所で恨みを買い散らかしてるからな。殺害予告なんてくるのも珍しい事じゃないそうだ」


 しかし事情が変わったのが三日前のこと。ライラが暗殺者に狙われたという。


「狙われたのは貴族の学校から帰る途中。魔法による狙撃だ」


「狙撃、ってことは犯人の顔は割れてないのか?」


「ない。それなりに付き添いもいたらしいんだが誰も犯人の顔を見れてねえ」


「なるほどな、それは分かった。で、それをここに持ってきた理由は?それなら憲兵団とかが動けばいい。俺らの出番はないはずだ」


「相変わらず頭が回りやがるなぁ。理由はある。この件に関しちゃ憲兵団は動きにくい」


「なんでだ。貴族を守るのも仕事だろうに」


「まぁ、普通の貴族様なら話はそれで終わりなんだがな。残念ながらそうじゃねえ。圧力だよ、圧力」


「圧力?どこからの?」


「他の貴族様達だ。フレイス家のことを気に入らねえところから文句が入った。この忙しい時に不確かな情報で憲兵団を動かすのはいかがなものか、だってよ」


「忙しいって…ああ、戴冠式のことか」


 先月、この国の国王が死んだ。それは事件でもなんでもなくただの老衰だったわけだが、近々新国王の戴冠式が行われる。そのことで憲兵団が大忙しなことは確かだった。


「でもそんなのっておかしいじゃない。ただの難癖だわ!」


 ルカが言ったことは正しい。いくら忙しいからといってこの件をほっといていいことにはならない。


「理屈でいけばそうなんだがなぁ、いかんせんフレイス家にゃ見方が少なすぎる」


 フレイス家は先代国王のお気に入りであり、貴族への昇格もそれによるところが大きかった。そして先代国王が亡くなった今、フレイス家はかなり厳しい立場に立たされている。


「分かったわ。その仕事、受けてやるわよ」


「ル、ルカ!これはもっと考えた方がいいって!」


「誰もやりたがらないんでしょ。それなら私たちがやるしかないじゃない。その子は絶対私たちが守るわ。そして犯人もとっ捕まえる」


「他の貴族たちに目をつけられるかもしれないんだぞ」


「関係ないわ、そんなもの」


「おお!さすがルカだ。で、お前はどうなんだ?レント」


「分かった、分かったよ。やるよ。くそっ、またこんな厄介事を押し付けやがって」


「いやぁ、ありがとな。報酬の方は弾んでもらえるよう言っとくぜ」


 当たり前だ。ふんだくってやる。


 一人静かにそう決意を固めた。

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