やらかさなかった試しがない
部屋の中を沈黙が支配している。
ブラックドラゴンを倒した(と言うより消し去った)後、俺とルカは王都に戻り憲兵団に呼び出されていた。ここは憲兵団庁舎の一室だ。
「またやってしまったな」
「わ、私は悪いことしてないわよ」
俺の名前はレント、20歳。
そして俺とコンビを組んでいるのがルルカ・ルビヤール、16歳。通称ルカ。淡い金髪に赤色の目、身長は女の子にしてはちょっと高いくらいという美少女だ。
そしてそんな見た目とは裏腹に彼女はめちゃくちゃ強かった。ドラゴンを蒸発させ、山をえぐり、憲兵団に呼び出されるくらいには。
「なんであんな事をしたの。もうちょい力抑えれたでしょうに」
「いやー、山の中で周りに人もいないし、全力出していいかなーって」
そしてその結果がさっきのあれで、今のこれである。
「ドラゴンを蒸発させたのはまぁこの際いいとして、あの山を吹っ飛ばしたのはまずいってのはわかるよな?」
「わからない、と言ったら嘘になるかもしれない」
「分かってるって事でいいな」
ブラックドラゴンが住処としていた山、あそこは魔鉱石の採掘場だ。
そしてそもそもの依頼が『いつも魔鉱石を採掘している山にドラゴンが住み着いたため討伐してくれ』というものだった。
それ故に「ドラゴンは倒したけど山も一緒に消し飛ばしました」では本末転倒もいいところなのである。
「でも、でもよ、冷静考えてみたらそんなに私が悪いって言えるかしら?」
「言えるわ」
ルカは何かやらかした時、絶対に一度は抵抗を試みる。
「だって私がやらなかったらまだしばらくドラゴンはあの山にいたってことよね」
「それはそうだな」
「なら私のせいで取れなくなった分とドラゴンが居座る事で取れなくなってた分、どっちが多かったかって話にならない?」
「ならない。ドラゴンがいるせいで取れなかった分はいずれ回収できてた。時間はかかるにせよ。でもルカがやった分はもう回収できないだろ」
「ぐっ、分かったわよ。私も悪かったわよ」
「私"も"じゃなくて"が"だけどな」
「私のお目付役のレントが止めなかったせいでもあるもーん」
「めちゃめちゃ止めたわ」
「なにをしようとしたか、よりも実際なにができたか、が大事だと思わない?」
「言ってて虚しくならんのか」
そんなことを言っているうちに部屋の扉が開いた。
「よう、二人とも!今日も仲がいいなぁ!」
白髪で大柄の壮年の男が大きな声を上げながら部屋に入ってくる。
「あれ、ハーディじゃない」
「なんであんたがこんなとこに」
男の名前はハーディ・スレイマン。憲兵団の副団長だ。
俺たちが何でも屋を立ち上げる時にも世話になった人物であり、もっと言えば俺とルカが行動を共にするようになったのも彼の手引きがあったからだ。
自身は憲兵団副団長という立場に縛られているため、自由のきく俺たちによく依頼を持ってくることがあった。
俺たちはこの王都で相談所を開いている。名前はL&R相談所。Luluka&Rent。そのまんまである。
「俺たちはてっきり憲兵団にどやされると思ってたんだけど」
「まぁそのつもりで呼びつけたらしいけどな。そこは俺がなんとかしといてやったさ」
「ハーディ!ありがとう!」
「ルカ、感謝するにはまだ早いって」
俺は知っている。ハーディがこういう事をするときは、だいたい何か面倒事を持ってくるときだ。
「で、今回はどんな依頼なんだ?」
「おお、さっすがレント。話が早くて助かるな」
そして彼は依頼内容を話し始めた。
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