L&R相談所〜脳筋少女と飼い主の俺

@danukifuru

ざまぁ成功!と思いきや

「ギャハハハハ!たった二人で!そんな装備で!しかもそんな弱そうな女連れてこのクエストに挑もうってのか!」


 目の前の男は俺たちを見てけたたましい笑い声をあげる。


「悪いわよゲイル。そんな笑っちゃあ、クフッ」


 隣の女はそういうが、結局笑いを堪えきれていない。


「まあ頑張れよ。死にさえしなけりゃいい経験にはなるだろうよ、ギャハハハハ!」


 そう言いながら彼とそのパーティーは山に入っていった。


 もうこの反応にも慣れてしまった。それに俺が弱いのは事実だ。とてもじゃないがこのクエストに挑めるレベルではない。


 今回のクエストはブラックドラゴンの討伐。クエストランクは高難易度とされるAランク。


「レント、このパン美味しいね。中のクリームがまたなんとも…」


 俺の隣にいる少女、ルカは我関せずといった様子で昼食のパンを頬張りながら俺にそう話しかけてくる。


「ルカ、もうちょっと緊張感を持って」


 そもそも彼らが笑った原因の殆どは彼女なのだ。


 防具を何も纏わず、武器も何も持っていない。そこら辺に居る町人と同じ平服といういでたちである。とてもじゃないがこれからクエストに挑む人間の格好とは思えない。彼らが笑ってしまうのも無理はなかった。


 しかし俺は知っている。彼女はこれでいいのだ。むしろこれでなければならないと言ってもいい。


「よし、じゃあ俺たちも行くか」


「ん、私はいつでも」


 昼食を食べ終わりこれから行くルートをマップで一通り確認した後、俺達もとうとう山の中に入った。


 鬱蒼と茂る木々の中を俺とルカは共に歩いていく。


「ルカ、今回こそは本当に気をつけてくれよ」


 俺はそう釘を刺す。


「うーん、自信は無いかな」


 彼女ははそう言って頬をかいた。


「絶対ダメだからな。今度やったらどれだけどやされるか分からねえんだから」


「気をつける。それよりこのクエストにもう一組来ているとはね。先に行った彼らがもうブラックドラゴンを討伐してしまってたらどうするの?」


 ルカは心配そうに聞いてくる。


「んー、まあ確かに他のパーティーと被ったのは予想外だったけど先に討伐される心配はしなくていいと思うよ」


 半ば確信に近いものが俺の中にはあった。ブラックドラゴンはドラゴンの中でも特に魔法耐性に優れた種だ。それ故に攻略するためには物理で殴れる前衛が多いパーティーの方が良い。

 しかし先に行った彼らのパーティーは前衛を張れるのはおそらくゲイルと呼ばれていた男ともう一人の合わせて二人、そして後の三人は魔道士等の後衛という比較的物理が薄い構成になっていた。


 余程の実力があればそれでも討伐できると思うが、彼らにそこまでの力があるとは思えない。


 実力的に彼らより劣る俺がこんなことを考えるのもどうかと思うが、人を見る目にだけは自信があった。


「レントがそう言うならきっとそうだ。じゃあ急がなくても大丈夫だね」


 こういうときのルカはいつも俺にこそばゆいほどの信頼を寄せてくれる。


 グアアアアアアアアアアアア


 突如としてドラゴンの咆哮が響き渡った。


「戦闘が始まったみたいだな」


「私たちも急いで行く?」


 彼らはブラックドラゴンに勝てない。だったら急いで行って加勢せてあげようかとも思ったが、先程の彼らの笑い声が脳裏によぎる。


「いや、あいつらが終わってからでいい」


「まぁ、死ぬ事はないだろうしね」


 合同でクエストをクリアした場合、報酬は山分けになる。それも嫌だった。


 断続的にドラゴンの咆哮が聞こえる。彼らは今激戦を繰り広げていることだろう。


「レント、もうすぐ着くよ。」


 そうこう言っているうちにドラゴンの巣の近くまで到達した。戦闘音も大きくなってきている。


 ガサッ


 不意に目の前の草むらから影が飛び出してきた。


 緊張が一気に高まる。


 だが、出てきたのは人間だった。それも先程のパーティーの女たちだ。


「あ、あなたたち来ていたの。はやく逃げた方がいいわ…。あいつらは私たちの手には負えない!」


 やっぱり。でも意外と早かったな。


 そんな事を思いつつ彼女らを無視して歩を進める。


「ちょっと、聞いてるの!?私たちにも手に負えなかったのにあなた達にどうにかできるわけが…」


 グアアアアアアア


 またもやドラゴンの咆哮が響き渡る。だが今度はほんのすぐ近く。そして飛び立ったドラゴンの姿は俺たちにもはっきりと視認できた。


「た、助けてくれぇ!」


 先のパーティーの五人が次々と逃げてくる。


 それを見て鼻で笑うようにルカが言った。


「まさにクマの子を散らす、ね」


「クモね。そんなクマの子が散るほどいる状況まずないから」


「わ、分かってるわよ」


 ドヤ顔で放った言葉の間違いを指摘されルカは赤面する。


「そんなことよりルカ、くれぐれも気をつけて」


「大丈夫。絶対に勝つから」


「いや、ルカの心配はしてない」


 俺がそう言い終わる前にルカはブラックドラゴンに向かって走り出した。


「ちょっとまっー」


「ちょっとあんた!何してるの!」


 先程の女が掴みかかってくる。


「なんすか」


「なんすかじゃないわよ!あんななんの装備も持ってない女の子を一人ドラゴンに向かわせるなんて!はやく呼び戻さないと…」


「ああ、そのことなら大丈夫っすよ」


「大丈夫って…あなた、はやく戻りなさ…」


「いいから、黙ってみといて」


 ルカに呼びかけようとした彼女を遮りルカに目線を送る。


 怪物にも恐れの色を一切見せず、ルカは突っ込んでいく。


 ルカの掌が赤く光った。大気中に力が渦巻き、それが全て彼女の掌に集まっていくかのような感覚を覚える。


「なんだ、あれ…」


 先程のパーティーのメンバー達がそう呟く。


「これは…ルカ、待って!危ない!」


「大丈夫だって。私頑丈だから」


「だからルカの心配はしてな…」


「ファイア」


 たった一言。その一言で視界が真っ白に染まった。


 超高温の白い炎が一帯に充満する。


「ぐわっ」「なんだこれは!」「キャア!」


 そこにいた全員が爆風で吹っ飛ばされる。


「ど、どうなった」


 顔を上げたその先にはルカの満面の笑顔があった。


 しかしその先。いたはずのドラゴンは完全に消えていた。


「またやっちまった…」


 そしてさらにその先。山そのものが半壊していた。



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