答え合わせ

「ではこれから、犯人の投票数を発表していきます」

 GMの林田さんが宣言する。

「サナエさんが四票、エリコさんが一票です」

 そうか、みんなだいたいサナエに投票したんだ。エリコに投票した一票は、たぶんサナエのものかな。

 私のあの発言、大丈夫だったのかな? 大勢の前であんな大見得切ったの、生まれて初めてだよ。あー今思い出しても恥ずかしい。

「では私のほうからこのシナリオにおける事件の犯人を発表しますね」

 みんなが林田さんの次の言葉に注目する。

 静けさ。

「この事件の犯人は、マサキ先生です」

 えっ? 嘘?

「よっしゃあああ!」

 待っていたとばかりにサナエが大声を上げて、私は陸に上がった魚のように飛び跳ねた。

 えっ、どういうこと? サナエが犯人じゃなかったの? それになんでマサキ先生じゃなくてサナエが喜んでるの?

「状況がよくわかっていない人たちがいますので、私が説明しますね」と林田さん。「実はサナエさんには、他の人たちとは違う特別なミッションが与えられていたのです。そのミッションとは、『マサキ先生が犯人であることを特定されないこと』。サナエさんは犯人ではありませんが、マサキ先生が犯人であることを初めから知っていたのです。設定的には、マサキ先生がミチルを殺害した場面をサナエに目撃されて、サナエはマサキ先生から口封じを頼まれていたのです。つまり、投票がマサキ先生に集まらなかった時点で、チナツさんとエリコさんとユウトさんの負けは決定しています」

 サナエにはそんなミッションが。そうか、だからサナエは密談で私に「自分が犯人だ」なんて嘘を言って惑わしてきたのか。私はその罠にまんまとはまってしまった。

「では次にみなさんが与えられていたサブミッションを公表していきましょう。まずチナツさんのサブミッションは、『サナエに想いを告げること』です」

 そう、そうなのだ。どうやら私が演じたチナツというキャラクターは同姓であるサナエに気持ちがあったらしい。ゲーム内でサナエにその気持ちを伝えることが、私のサブミッションだった。それはどうにか終了ぎりぎりで達成できたものの、まさかサナエが犯人じゃなかったなんて。

「ユウトさんに与えられたサブミッションは、『チナツをデートに誘って了承してもらうこと』です」

「わあ、なにそれー」恋話好きなエリコこと加奈が嬉しそうな声を上げる。

 ユウトこと夏川さんは苦笑いしながら照れていた。

 私も彼とのあの密談を思い出して顔が熱くなる。

「続いて、エリコさんのサブミッションは、『友達を作ること』です。一見高飛車な優等生のエリコは、実は寂しがり屋で信頼できる本当の友達が欲しかったのですね」

「そう。でも、初めにあんな写真を公開されたから、ほぼ無理ゲーだったね」

 エリコの言うあんな写真とは、エリコがマサキ先生に取り入ろうとしている写真のことだ。なるほど、あれはエリコの好感度を低下させて、彼女のサブミッション、つまり友達作りの成功を妨害するための情報だったのか。

「ではここで、マサキ先生にお尋ねすることにしましょう」林田さんが言った。「マサキ先生は無事犯人と特定されることから免れました。そのミッションはクリアしましたが、もう一つサブミッションがあったはずです」

「はい、ありました。僕に与えられたサブミッションは、誰が誰に気があるかということを見つけ出すことです」

 ん? どういうこと?

「シナリオの登場人物にはそれぞれ、ある特定の人物に向いたベクトルが設定されています。その誰が誰を好きなのかを把握することが、マサキ先生に与えられたサブミッションだったのです」

 なるほど、確かに私はユウトからデートに誘われたし、私ことチナツはサナエのことが好きだった。みんなこの中で好きな人がいるということか。

「まず、チナツの好きな相手は、サナエです。チナツさんが犯人だと思いながらもサナエに想いを告白するところは、見ていて涙が出そうでした」

 うわー。今さらながら恥ずかしい。そしてサナエは犯人じゃなかったんだから、余計に恥ずかしいよ。

「エリコが好きなのはマサキ、つまり僕ですね。最初に出たあの写真が物語っています。ユウトが好きなのはチナツでしょう。彼女と密談していた様子からそれは窺えます。そしてサナエが好きなのもマサキ。これも最後にチナツが公開した写真からわかります」

「以上ですね。それで、大丈夫ですか?」林田さんが尋ねる。

「えっ? はい。今のが僕が出した答えです」

「なるほど。残念ですが、一つ間違っています」

「えっ、そうなの? 誰が?」

「エリコさんが好きな相手は、マサキ先生ではなく、ユウトです」

「えっ?」

「マサキ先生は初めの写真でエリコが先生に気があると勘違いしたようですが、実は他にユウトをうっとりと見つめるエリコの写真が情報カードの中にあったんです」

「そうだったんですか。なるほど」

「ということで――」

「うっしゃあああ!」

 サナエが隣で雄叫びを上げて、私は何度目かわからない飛び跳ねを披露した。

「あたしの一人勝ちだねー!」

「はい。今回のゲームは、サナエを演じた六条さんの勝利になります」

「えっ、ちょっと待ってください」と私は口を挿む。「サナエのミッションはマサキ先生が犯人だと特定されないことだったんですよね? じゃあ、サナエのサブミッションは何だったんですか?」

「サナエさんに与えられたサブミッションは、『ゲームが始まって一番初めに誰かを犯人と断定する発言をすること』です」

「……あ」

 私は記憶を掘り返し、結論に至った。確かサナエはゲームが始まって最初にこう言っていた。

「つーかさー、犯人はやっぱりチナツで決定だよね。はい、これで任務終了、おつかれしたー」

 あのテキトー発言にそんな意味があったなんて……。

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