前半戦

林田:GM

坂口絵里奈(私):チナツ

六条:サナエ

二岡:マサキ先生

吉野加奈:エリコ

夏川:ユウト


◆ゲーム中は主語を登場人物の名前で記していきます。



 GMの林田さんの宣言により、ゲームの前半戦がスタートした。といっても、マーダーミステリー初心者の私は何をどうしたらいいかわからない。まずは他の人の様子を見ていよう。

「つーかさー、犯人はやっぱりチナツで決定だよね」サナエが私の顔を見ながら言う。「はい、これで任務終了、おつかれしたー」

 え、ちょっと待って、チナツって私が演じるキャラクターのことだよね? なんで私が犯人? もう終わり?

「ど、どどどうして私が犯人なの?」

「殺害に使われた凶器よ」エリコが言った。「ミチルはチナツのカメラで後頭部を叩かれて殺されたの」

 そう、確かに、初めに配られたシナリオにそう書かれていた。でもでも。

「そういえば第一発見者もチナツだったな」とマサキ先生。「現状の情報ではきみを疑わざる得ないね」

 やばい、私いきなりめっちゃ疑われてる。私犯人じゃないのに。どうしよう。

「ちょっと待て。先入観で決めつけるべきじゃない」とユウト。「おそらくチナツは犯人じゃないよ」

 おお、ユウトさんナイス。あんたは神か!

「そうそう、私犯人じゃないです」私はここぞとばかりに両手をブンブン振って否定する。

 するとエリコが可笑しそうに笑ってこう言った。「そりゃ犯人だってそう言うでしょ」

 あ、なるほど。犯人は自分の犯行を隠し通すことがミッションなのだ。自分が犯人でないと否定することにあまり意味はない。何か証拠を見つけて証明しないと。

「じゃあ、まずは情報を整理しようか」とマサキ先生。

 全員に配られたシナリオと、キャラクターごとに個別の行動が書かれた情報を適合して、怪しい人物をあぶり出すことにする。

 犯行のあった日、午前中の授業は殺されたミチルを含め全員が参加していた。お昼休憩を挿んだ午後の授業ではミチルの姿がなかった。私ことチナツは、休憩終わりで自分のカメラが無くなっていたことに気づく。そして午後の授業の合間に行った女子トイレの中で、ミチルの遺体を発見した。凶器にチナツのものであるカメラが使われた。状況的に考えて、ミチルは昼休みのうちに何者かに殺害されたようだ。人物たちが昼休みにどういう行動をとっていたのかということが鍵になる。

「いいですかみなさん」とGMの林田さんが口を挿む。「プレイヤーは、必ずしも真実を告げる必要はありません。それは犯人に限ったことではなく。プレイヤーそれぞれに個別のサブミッションが設定されているので、それをクリアするためには嘘の発言も必要になるでしょう。ただし、のちのち嘘が発覚したことにより、発言の真偽を疑われることになるかもしれません。その辺りを考えて、発言は慎重に行いましょう」

 そうか。プレイヤーはそれぞれ水面下でサブミッションを遂行している。どんなミッションなのかは他のプレイヤーにはわからない。犯人を突き止めることと、サブミッションで得られる得点で勝敗を競うわけだから、他のプレイヤーのミッションを妨害する必要もあるんだ。ここにいる人たちは様々な思惑を持って、議論する。なるほど、難しい!

 そして先ほど確認した私が遂行すべきサブミッションの内容は、なかなかにハードである。少なくとも内気な私にとっては。

「じゃあまず、犯行当日の昼休みの行動を洗い出していきましょう」と優等生設定のエリコが仕切り出す。「私は他の取り巻きたちと一緒に、学校近くのレストランで食事をしてたわ」

 マジか? そんな陽キャ私には程遠い。

「僕は職員室で朝のうちに買っておいたお弁当を食べてたよ。それから午後の授業の準備だな」とマサキ先生。

「あたしはもちろんパリピな仲間たちとレッツパーリー! インスタ映え映え写真撮りまくってたぜい!」サナエの発言はキャラクターを誇張したものなのか、六条さんの元々の性格なのか、果たして……。

「俺は教室から出ずにずっとスマホでゲームしてたな」とユウト。

「チナツは?」と私はエリコに尋ねられる。

「私? えっと……」私は慌ててチナツの行動が書かれたテキストを確認する。「コンビニでお弁当買って、公園のベンチで一人で食べてました……」

 うっわ。言いながらなんだか悲しくなってくる。でも、実際の私もそんな感じ。なんだかキャラクターに親近感。

「なるほど。犯行があったのはおそらく昼休みだから、誰かが嘘を吐いていることになるわ」とエリコがまとめた。

 そうか、誰が嘘を吐いているか、見抜く必要があるんだ。怪しいのは誰だろう? まあ今のところ一番挙動不審で怪しく見える人物は私なんだけどね。

「よし、じゃあ俺、チップ払って情報を見ようかな」

 どうやらユウトが動き出すようだ。

 プレイヤーは与えられているチップを払うことにより、テーブルの上に置かれている複数のカードの中からどれかを選んで、そのカードに書かれた情報を得ることができる。

 ユウトはチップを払い、一枚のカードを受け取った。カードの情報を眺める彼にみなの視線が集中する。

「なるほどね」

 彼はニカッと白い歯を見せて笑った。一体何が書かれてたんだろう? すごく気になる。

「じゃあこの情報は、公開しちゃおうかな」

 ユウトはそう言って、情報が書かれた面を上にしてカードをテーブルに置いた。自分にとって不利になるような情報なら、公開せずに自分だけで留めておくこともできるが、そのぶん他の人間から疑いを向けられることになる。ユウトは公開することを選んだ。

 情報だから何かしらの文章が書かれていると思ったけど、どうやらそれは写真のようだ。なるほど、写真学校らしい作りである。キャラクターがアニメ調にデフォルメされた人物の写真。その写真には二人の人物が写っている。マサキ先生と、エリコだ。エリコが教卓に足を組んで座って、先生を誘惑しているように見える。なんて大胆な!

「おやおやー。これはどういう状況かなー?」

 サナエに突っつかれたエリコとマサキ先生は、バツの悪そうな顔になる。もしかして二人はデキてるの? 二人のサブミッションと何かしら関係している情報だろうか? 少なくとも、これ自体がミチルを殺害した動機に繋がるものとは思えない。後々何か関係してくるかもしれないけど。

「エリコ、あんた、わっるい女ねー。色目を使って先生に取り入ろうとするなんて」

「そ、そんなんじゃ……」さすがのエリコも歯切れが悪い。

 でも先生にあんなことするなんて、私はこのクラスで友達を作る自信がないよ。

「まあでもやっぱり、人を殺すなんて相当な動機がないとできないことだよな」とユウト。「サナエは殺されたミチルと仲が良かったんだろう? 何か知ってるんじゃないのか?」

「なに、あたしが犯人だって疑ってるわけ? あんた鼻くそね」

「鼻くそ?」普通に悪口言われたユウトは苦笑いを浮かべている。

「あたしはとにかく親友のミチルを殺した犯人をとっ捕まえてぶん殴ってやりたいの。ううん、ぶん殴るだけじゃない。ギッタッギタのブッチンブッチンにしてやるんだから」

 ギッタギタのブッチンブッチンって一体何するんだろう? 少なくとも穏やかなことではないよね。こわっ。

「そういう感情論じゃなくてさ、もっと論理的な意見を示してもらえないかしら?」とエリコ。

「なにさ、先生に色目使って点数稼ぎするビッチのくせに」

「なんだって!?」

 気に障ったエリコがあからさまに不機嫌な声を出す。あんまり煽らないほうがいいよ、加奈は怒るとホントに怖いんだから。

「まあまあ、もう少し穏やかに」二人をなだめるようにマサキ先生が言う。

「先生だってまんざらじゃない顔してたじゃん」今度はサナエの矛先がマサキ先生に向かった。

「いや、そんなつもりは……」

「ハハハハハハ」ユウトが場違いで能天気な笑い声を上げた。

 いやいや、私無理! こんな個性的な人たちについてけないよ!

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