質問はありますか?
右手をテーブルに叩きつけ、大見得を切った六条さん。私ちょっともう引いてます。
六条さんの突然の叫びを受けて、場のほとんどの人間は呆然としていたが、一人だけくすくすと可笑しそうに笑っている人がいた。
茶髪男性の夏川さんだ。
あの六条さんの女優顔負けの迫力に動じないなんて、すごい。
「あ、六条さん、気合いを入れてキャラクターを演じてくれるのはありがたいですけど、そこまで力入れなくても大丈夫ですよ」
GMの林田さんが朗らかに言った。
「えっ、そうなの?」
六条さんは惚けたようなリラックスした表情で言った。
「では改めて。坂口さんから自分のキャラクターの名前と簡単な説明をお願いします」
ああ、また私からなのね。加奈が笑いながらチラチラとこっちを見ている。なによ、今度は立たないわよ。
「クラスの女子生徒のチナツです。サナエの友人です。クラスの中ではあまり目立たない地味なポジションだと思われます」
そう、ホントの私みたいにね。
「では続いて」
「殺されたミチルの親友のサナエだよ」私の隣の六条さんが言う。「さっきも言ったけど、絶対犯人をとっ捕まえてやるんだからね」
「僕はこのクラスを担当している先生、マサキだ」と二岡さん。「僕は今回の事件でとても心を痛めている。僕たちのクラスであのような事件が発生してしまったのだから」
うわあ、二岡さんも台詞みたいに。みんなすごいな、凝ってるなあ。
「クラス委員長のエリコです」と加奈。「まったくこんな事件、いい迷惑だわ」
加奈も高慢ちきな委員長を演じてる。もうみんなすごすぎ。私を置いてかないで。
「男子生徒のユウトだ。ミチルのことはべつに好きじゃなかったけど、犯人がやったことはやっぱり許せないよな」と夏川さん。なんだか正義感のある人みたいだ。
これで一通り紹介が終わったはずだ。
「はい、みなさんありがとうございます。性別を合わせる必要はなかったんですけど、みなさんその通りになりましたね。では早速ゲームをスタートしましょう。ゲームは前半と後半に分けて行います。その後推理をして誰が犯人かを選んでもらいます。最後に答え合わせをして、それで終了です。始める前に、何か質問はありませんか?」
「はいはーい、GMさんしつもーん!」と六条さんが手を上げた。
「はい、どうぞ」
「林田さんってば、彼女とかいるの?」
ええっ!?
「は? いや、そういうパーソナルな質問は」
だよね、だよね。びっくりしたあ。ていうかゲームと関係ないじゃん。
「なんだよけちんぼ」
「他に質問がなければゲームを始めますよ」
実は私は訊きたいことがたくさんあったけど、なんか迷惑になる気がして何も言い出せなかった。とにかく波風立たさず静かにしていよう、うんそれが一番。
最近ちょっとずつ巷で話題になってきている、マーダーミステリー。興味はあったけど、本当は来たくなかった。だって初対面の知らない人たちと一緒にゲームするんだよ。怖いなあ。まあだからこそ、人見知りを改善するという名目で、加奈に誘われたんだけど。
シナリオの登場人物になったつもりで推理を楽しむゲーム。ミステリー小説なら読んだことがあるけど、リアルな人間を相手にして話を進めるところが新鮮だ。シナリオは決まっているけど、どうやって推理を進めていくかはここにいる人たち次第。なんだかちょっとワクワクしてきた。
「ではゲームを始めましょう」
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