2章 魔王城
《
魔王がそう叫んだ瞬間、俺達の体は青白く発光しだした。
「え?なにこれ、どうなってんの⁉︎」
「俺達、光ってるぞ!」
「何が起こってるの?これは、まずいかも。」
さらに俺達4人の体は強く発光し、そしてー
気付けば、見知らぬ所に座っていた。その場所は、大きな部屋だった。赤いカーペットが引いてあり、部屋の中心奥には、大きな椅子が置いてあった。王や貴族が使うような椅子だ。そして、その向かいに4つの椅子が置いてあった。これは日本にも良くある普通の椅子だ。
「ここ、どこ...?」
「分からない。でも、なんだろう。すごく嫌な感じがする。」
「なあ、あのデカい椅子なんだ?偉い奴が座る椅子だよな?」
「ちょっと落ち着け、陸。確かにの椅子はデカいが、その向かいにある椅子を見てみろ。」
「...あれは普通の椅子だな。食卓にある感じの。」
「だろう?それに、4つって事は俺達をあそこに座らせる気だ。そして、あのデカい椅子はたぶん、」
俺が言いかけた時、部屋の扉が開いた。中に人が入ってくる。...いや、確かに人の姿だが、あの風貌、そしてオーラから察するに...
その男はあの大きな椅子に座った。
「突然この場所に転移してすまなかったな。改めて自己紹介をしよう。私はデルザイユ・アストラフ。この世界で所謂魔王を務めている者だ。」
「ずっとそこに座っているのも疲れるであろう。ここに人数分の椅子が置いてあるので、座ると良い。」
( やっぱり魔王だー! )
その男は、長い白髪を後ろで束ね、眼鏡を掛けて青白い顔をしていた。服装はなんとタキシードだ。ネクタイはキュッと締まっている。
先程魔王城(古い方)で会った時は、司祭の様な服に仮面をつけていたため良く分からなかったのだが、この男は紛れも無い魔王だ。
彼が魔王だという事を、そのどす黒いオーラが物語っている。
「どうした?席に座らないのか?」
「あ...当たり前だろ!こんな怪しい所で安心して席に着けるか!」
「む...確かにそなたの言う通りかも知れんな。ではそこに椅子を移動させよう。」
そう言って、魔王はなにかの魔法を唱え始めた。すると、即座に椅子が空中を直線移動してきた。
「これで良かろう。どうだ?」
「いや、そう言う事じゃなくて...。」
「私達は、急にここに来てしまって警戒している。だから、椅子には座れない。という事。」
亜耶香が即座にフォローを入れる。ナイスだ、亜耶香!
「成る程、そういう事であったか。これは失礼したな。この椅子は片付けさせて頂こう。」
それにしても、この魔王。ものすごく丁寧な喋り方するな〜。ちょっと見習いたいかも。って、魔王を見習いたいとか、完全にダークサイドじゃん!
椅子は塵になったかと思うと、スッと消えてしまった。
「さて、本題に入らせて頂こう。本日は、わざわざこんな辺境の地までお越し頂いて、誠にありがたく思う。質素な城ではあるが、存分に宴を楽しんで頂きたい。」
「は?」
は?
突然魔王は、歓迎の挨拶のようなものを口走った。魔王というのは、ここまで狂っている存在だったのか⁉︎
「ちょ、ちょっと待って欲しい。何を言ってるんだ?」
「何とは...どういう事だ?」
「いやだから、急にそんな事を口走ってどうしたという話だ!」
「そんな事とは...、今の挨拶の事か?もてなしの際にはああ言った挨拶をするものだと教わったのだが?」
「え、いや...。宴をやる時にその挨拶をするのは合ってるんだけど、それを俺達に言うのはおかしくないか?」
「何故だ?」
さっきから会話が噛み合っていない。魔王はいったい何を考えているのだろうか。全く考えが見え無い。
「俺達は魔王を倒しに来たんだぞ?そんな事を言われて良い気には成れないしな。」
自分で言ってから気づいた。もしかして魔王は、俺達の心を折るのが目的なのでは?と。
「良い気に成れない?成る程。機嫌を損ねてしまったのは詫びよう。しかし、対抗試合でもするつもりなのか?」
対抗試合?なんの対抗試合だ。俺達の場合は決闘とか殺し合いとか言うべきだろう。
それに、対抗試合というのは交流や合同演習なんかで行うものだ。(っていうのをネットで見た。)
「対抗試合なんかするつもりは無い。決闘だ!いや、殺し合いだ!」
「殺し合い...?ああ、どちらが多く人間を殺せるか、という事だな。残念ながら本日のプログラムにそれは含まれていないんだ。」
プログラム?プログラムだって?本気で何を言ってるんだ、この魔王は...。それに、人間ていうのは俺達の事なんだけど⁉︎同族争いをしろってか?
「話が逸れたな。そなた達の部屋は4室、全て個室だ。この城の三階に「ちょっと待った。ちょっと待った。」...どうしたのだ?」
「個室って何だ?何の個室だ?」
「無論、個人部屋の事だが?」
急に個人部屋とか言い出してるよ。...ハッ、もしかして、拷問の部屋⁉︎
俺は恐る恐る聞いてみる。
「何故、俺達に個人部屋が必要なんだ?」
「部屋は必要無いと仰るか!成る程、そういう文化なのだな。部屋の手配は取り消させよう。」
そんな文化無いわ!と心の中で突っ込んだが、そんな事を考えている場合では無い。
この魔王、マジで何のために俺達をここに連れてきたんだ?会話が途切れ、数十秒ほど考える事が出来た。
(どうなってるんだ?本当に。状況を整理したい...。)
と頭を悩ませていると、亜耶香が小さい声で、アドバイスをしてくれた。
「もしかしたら、.......」
「マジで?そんな事をある⁉︎......」
このアドバイスをもとに、俺は1つ、魔王に質問してみる事にした。
「なぁ、魔王。1つ聞いても良いか?」
「何ぞ。なんでも聞いてくれ。」
「俺達の事...何だと思ってる?」
「...そんなに酌に触る言い方だったか?以後は気をつけるので、許して欲しい。」
魔王は若干へこんでいる。どこにへこむ要素があったんだ⁉︎
「そうじゃなくて、何かの組織とか、団体とか...。」
「何かの組織と言われても...、そなた達は
『異界と繋ごう!魔王軍交流プロジェクト』
の方々では無いのか?」
「え?」
なんだそれは⁉︎
なんかヤバそうなプロジェクトだな、それ!だいたい、異界の者と交流しようとしてたのか⁉︎そんなん失敗するに決まってるだろ!
ていうか、現実世界に魔王軍はいないわ!
あと、ネーミングセンスに親近感を感じた。
問題は、返事をどう返すかだ。ここで下手に『俺達は人間だ。』なんて言えば、どうなるかは見えている。かと言って、嘘をつくのもリスクが高い。どうしたものか...。
と考え込んでいると、
「なんだそりゃ?俺達は人間だぞ、魔王倒しに来たんだ。」
と陸が言った。パーティ全員からものすごく白い目で見られる。
というか、ふざけんなああああ!
ヤバい。凄くヤバい。魔王に人間だってバレてしまった...。これは凄くまずい...!
魔王は顎に手を当てて考えている。
(コレ絶対調理の仕方考えてるよー!)
「ああ、そういう事だったのか。何だ、先に言ってもらえれば...。」
魔王は何かを納得した様だ。俺達は今も硬直している。
「異界の魔王軍は人間がやっているのだな!そういえば、異界にモンスターはいないと聞いた事がある。人間であるのも無理は無い。
驚かせてすまなかった。」
はい?
また魔王は変な方向に考えを捻じ曲げている。この男、人を疑うって言葉知らないのか?魔王軍に人間は殆どいないけど。
コレはコレで良い結果に落ち着いたが、このままコレで通すのもアリか?しかし、バレた時のリスクを考えると...。
やはり真実を話しておいた方が...。
俺は決死の覚悟で魔王に真実を告げる事にした。
「あのー、俺達は本当にただの人間なんだ。確かに俺達はその、異界から来たけど、魔王軍でも何でもない、ただの冒険者なんだ。」
言ってしまった...。
これでもう、取り返しのつかない事になってしまった...。俺は緊張のあまり、今すぐにでも失禁しそうだ。
しばらく魔王は黙り、長考した後に口を開いた。
「人間...か、成る程な。真実を話すとは、なかなか度胸のある奴だ。」
「その度胸に免じて、殺さずにいてやろう。しかし、ここに呼んでしまった以上、黙って返す訳にもいかない。お前達には労働を課そう。」
なんとか殺されずに済んだけど、労働って...。て事は、この世界に入ったら魔王城で労働しなきゃいけないのか⁉︎俺はアルバイト経験ゼロだぞ⁉︎
「それから、お前達には面接を受けてもらう。」
「は?」
「お前達がちゃんと働けるかどうかの面接だ。落ちたらもう一度受け直しだ。」
え?何?面接受けて労働って、社会人かよ。
俺まだ高校生だよ?高校生から社畜っておかしいだろ!
「それと、個室は1人1つ、面倒なので、先ほど手配していた部屋で構わない。」
「食事は1日3回だ。昼休憩もある。出勤は朝9:00だ。退勤は16時〜17時となる。昼休憩が12時から13時までなので、午前中3時間、午後3、4時間の労働となるな。」
あれ?6、7時間で良いの?24時間労働の休み無し!とかだと思ってた...。
日本の労働基準法は『1日8時間まで』って事になってるから、結構優しめだな...。」
「仕事内容については、面接の際に説明する。今口頭で説明するのは難しい。」
「ああ、それと、お前達の部屋は3階だからな?間違えて他の部屋に入るなよ?」
3階ってどこだろう?今ここが2階か?
この魔王、結構優しいな...。
っと、そんな場合じゃ無いな。この説明が終わったら、無限ロードを抜けよう。たぶん結構良い時間だしな。
「もう一つ、しなければならない事があったな。お前達、離れていろ。」
「え?何を言って...。」
「良いから離れろ。かなり危険な作業をするのでな。」
そう言うと、魔王は何やら力を貯め始めた。魔王の周りを炎の様なものが包んだかと思うと、今度は水の様なものが覆い始め、今度は風の様なものまで纏い始めた。
さらに次々と5種類ほどの『何か』が魔王の体を覆い、ついに魔王は力を貯めるのを止めた。
「ふんっ!」
魔王が唸った瞬間、そこに円形の門が現れた。中には闇が広がっている。魔王はその中に手を入れ、光り輝く何かを取り出してきた。魔王はさらに、その発光体を2つに分裂させた。
「ハァァッ!」
片方を闇へと戻し、もう片方を地面に埋め込む。すると、円形の門は消えていった。
「今...何が起きた...?」
「これで良いはずだ。確かめる方法は...。おい、お前達。自分のステータスを開け!」
魔王に言われるがまま、ステータスの画面を開く。なんの変哲もない、ステータス表だ。魔王城に来る前と変わっていない。
「そこから、この世界の『ID』なるものを見てみてくれ。」
ステータス画面から、ID表示画面へと切り替える。そこに表示されていたのは、こんな文章だった。
「『この世界には、IDが存在していません』...だと⁉︎」
「ど、どういう事⁉︎」
「IDが無いのは、おかしい。」
「何が起きてんだ⁉︎」
魔王ただ1人が、落ち着いて立っている。
IDが無いっていうのは、どういう...?
「今起こった事を簡潔に説明してやろう。」
そう言って、魔王は説明を始めた。その時、魔王の声色が変わったのだが、気が動転していて気づかなかった。
「私が先程出したあの発光体、あれはこの世界の核だ。あれが失われれば世界は壊れてしまう。逆に、あれが存在すれば世界を創る事ができる。」
「私はあの発光体を2つに分ける魔法を使ったのだ。一つは元の世界、つまり今まで我等が居た世界。そしてもう一つは、新しく出来た、並行世界だ。」
「この世界は並行世界なので、IDとやらが無いのは当然の事。さらに言えば、お前達の意識は今、止まっている。」
「異界にある実態の意識を完全にこの世界に捕えた。お前達に急に居なくなられては困るのでな。」
「前の世界ではCPUだった人間やモンスターも、この世界では感情を持って動く。そういう風に私が改造した。それから、お前達の異界に関してだが、この世界にいる間は時が止まっているとも言える。」
「意識はここにあるが、実際に時が進む訳では無い。という事を覚えて貰いたい。以上だな。」
いや、全然簡潔じゃないよ?最後の方全く分からなかったんだけど?っていうか、この魔王今CPUって言ったよね?改造したって言ったよね?マジで何者なんだ?この魔王...。
今の文脈から察するに、コイツがやったって事なのか?というか、1番の問題は、
俺達、帰れないのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます