魔王軍は、本当に悪者なんですか?
仮名 永遠
1章 『インフィニティ・ロード』
そのゲーム機は、日本中を虜にした。
近年、スマートフォンの登場やPCの発展により衰えつつあったゲーム業界。そんな中、世界有数のゲーム会社『TAG』が開発したゲーム機、『バーチャルプレイス』が日本に登場した。
このゲーム機はVRを取り込んだ革新的なゲーム機で、発売タイトルの全てがVRゲームとなっていた。
VR事態はすでに発売されていたのだが、その形は頭に着けるゴーグル型で、見栄えもあまり良く無く、視点がVRとなるだけだった。
しかしこの『バーチャルプレイス』は、スイッチを押すだけで作動する。自動で脳波に干渉し、ゲーム内では自分が思った通りに動く事ができる。
そんな今までに無いシステムが好評を呼び、どんどんと売れて行った。発売数ヶ月で世界売上3億台、有名タイトルも殆どが移行、と言った形で、驚異的な販売数を叩き出したのだ。
今まで低迷していた経済も如何ばかりか回る様になり、一家に一台。というほどに売れ行きは良かった。
その要因としては、やはり『自分が思った通りに動ける』というのが大きいだろう。ゲームが下手な人でも、手軽にできる。最近では、ビジネス会議の一部として使われる事も多くなってきたらしい。
さらに、このゲーム機は『ゲーム』としての範疇に留まらず、家電製品や電子機器など様々な物に使われる様になった。
引きこもりの子供達を学校に行かせるために、『VR学校』なんて話も聞いたことがあるくらいだ。
そしてその『バーチャルプレイス』の数あるゲームの中で、最近最も勢いのあるゲームが『インフィニティ・ロード』(略称
サーバーごとに世界が分けられていて、様々な可能性のもと、色々な冒険ができる。プライベートで友人とやったり、他の世界と合同で、なんて事もできる。
時にはソロで世界を攻略してみたり、難易度をものすごく上げてみたり。
アバター設定もかなりきめ細かく作られており、自分の望む様に容姿を作ることができる。もちろん、自分の体をそのまま写す事も可能だ。
モンスターも数千種類存在し、その全てと出会うのは不可能だ、とも言われているほどだ。
RPGにしては最先端、かつ自由度もかなり高い。という事で、日本中、世界中に広まっていった。
内容としてはかなりテンプレで、勇者となって魔王を倒すために戦うという物だ。
一見普通のRPGなのに、ここまで人気が出たのは、本当に製作陣の熱意の賜物だろう。
さて、長い前置きとなってしまったがそろそろ俺の事について話そうと思う。
俺の名前は
俺は数年前、親に『バーチャルプレイス』を買ってもらい、最近は友人達と
俺だって男子高校生だ。青春を送りたい。男4人なんてのはむさ苦しくて嫌だから、ちゃんと女子も入っている。
俺の幼少期からのの友人である
ああ、幼馴染みとか言ってるけど、変な期待はしないで欲しい。アイツのことが好き、とかそういうんじゃ無い。...本当だぞ?『別にアンタの事なんか全然好きじゃ無いんだからね!』とかでは断じて無い。
いや、確かに亜耶香は美人だし、勉強できるし、髪型もポニテで俺のタイプだよ?でも、アイツは1人の友人だ。今までも、これからも。ていうか、俺は亜耶香の事語りすぎだ。なんだ?やっぱ好きなのか?
はぁ...。自問自答に嫌気が差してくる。まあ良いか、話を続けよう。
俺は2ヶ月前にサーバーを立ち上げ、4人でワールドを進めていた。みんなで集まれる機会も多いメンバーだったので、ほぼ毎日攻略をする事ができた。
因みに俺のステータスはこんな感じだ。
――――――――――――――――――――――――
名前:カズトシ
職業:魔法戦士
HP:1600
MP:1000
攻撃力:750
魔法攻撃:1000
防御力:600
素早さ:480
レベル:28
――――――――――――――――――――――――
魔法戦士というのは、魔法と攻撃の双方に長けている万能な職業なのだが、正直に言うと、地味だ。
地味故にあまり人気が無く、同じ職業の人に会った事は殆ど無い。世間一般の認識としては、『万能な役職』では無く『微妙な役職』なのだろう。
確かに、初めて
「やっぱRPGと言えば勇者、戦士、魔道士、僧侶の4代職業だよな!」
と陸が言っていた。そんなに地味なのか?4つのうち2つの職業の名を兼ね備えているんだけどな。
そんな陸の職業は『盗賊』だ。行った時は「戦士になりたい」と言っていたが、
という訳で、俺達のパーティーは平凡ながらもゲームを進めてきた。今は、ラスボスである魔王戦に向けて、魔王城近くのダンジョンでレベル上げ中だ。
ステータスを見てわかる通り、レベルが足りないのだ。目標レベルは40と言われているので、10くらいレベルが足りていない。
今日は、学校から帰った後ひたすらレベル上げ、という予定になっている。俺はゲームを起動して、∞ロードの世界に入る事にした。
「ごめん、みんな!ちょっと遅れたかな?」
「大丈夫、私も入ってきたばっかりだから。」
「亜耶香が遅れるなんて珍しいな。なんかあったのか?」
「ううん。ただ回線が悪かっただけ。」
「そうか、なら良いんだけどよ。」
亜耶香はおっとりとした声で喋る。そういう声って、なんだか気が安らぐよな。
向こうでは、すでに咲良と陸が準備を始めていた。
「おーい、一俊!早く行くぞ!」
「アンタ一応遅れてんだからね!亜耶香は良いけどアンタは早く準備しなさい!」
「俺だけ理不尽じゃ無えか⁉︎」
そんなたわいも無い会話をして、俺達はレベル上げに向かう事にした。
終盤近いダンジョンのモンスターはやはり強く、ゴブリンやオークからドラゴンやアンデッドがメインの戦闘に変わってくる。そういった時に、聖職者がいると戦い易いのも事実だ。
俺達はダンジョン内を歩き回り、モンスターを一掃した。だいぶレベルも上がり、全員40近くになる事が出来た。
「これで後、ラストダンジョンのモンスターを少し倒せば、目標レベルに到達出来るな。」
「明日、魔王倒しに行こうぜ!」
「ついに魔王討伐、長かったわね〜。」
「レベル上げもしたし、大丈夫。」
みんな、思い思いの言葉を口にしている。
(明日で表ストーリーはクリアか、裏ストーリーの攻略法でも考えようかな。)
その日は、そのまま解散する事にした。
「っ、ふぅ〜。」
俺は装置から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
現在時刻は夜の10時だ。7時からやっていたので、3時間プレイしていた事になるか。明日は普通に学校があるので、11時くらいには床に着きたい。今から風呂に入って...。
そんな事を考えていると、部屋の外から足音が聞こえた。そして自室のドアが開けられ、姉が入ってくる。
「一俊、風呂アンタで最後よ。さっさと入って来なさい。それから、上がる時は栓抜いてね。」
「分かった。今から入る所だから。」
「ゲームも程々にしときなさいよ?あんまりやり過ぎると成績落ちるから。」
「姉ちゃんもコレやってるじゃん。」
「私は良いのよ。だって大人だし。アンタは学生でしょうが。」
「姉ちゃんは俺の母さんなのか?」
「お母さんの遺伝子は受け継いでるけど?」
「ぐぬぬ...。」
姉は勝ち誇った様な笑みを浮かべたまま、部屋を出ていった。なんと腹立たしい。
姉の
その後俺は風呂に入り、明日を楽しみにしつつ、寝る事にした。
俺の生活は、夜11時に寝て朝6時に起きるというとても健康的な物だ。(と思っているんだけど、どうなんだ?)6時から飯を食って支度をして、7時には家を出るのだ。
朝は電車に乗って数駅の学校に向かう。たまに陸や亜耶香と一緒になる事があるが、今日は1人だった。
駅から徒歩で学校に向かい、8時には教室に入る。8時を過ぎれば、いつものメンバーはいる事が多いので、担任が来る8:30までは、昨日のゲームの話で盛り上がる。今日は一段と話が盛り上がった。なんせ魔王討伐の当日なんだからな。
「今日はちょっと早めで、6:30からやろうぜ!」
「良いわね、早いに越した事はないわ。ちょっと準備してから行きましょ。」
「私もそれが良いと思う。魔王討伐には入念な準備が必要だと思うから。」
「7:00から準備じゃダメなのか?」
「アンタね、今日は遅れるの許さないわよ。絶対6:30に始めるからね。」
「へいへい、分かりましたよ。厳島咲良様。」
「ム、ムカつくやつねホントに...。」
咲良は適度に弄るくらいが楽しいのだ。リアクションが多彩で面白いしな。ただ、やり過ぎは良くないのだ。それで1度、激怒された事がある。それ以降は辞めようと心に誓っている。
その後担任が教室に着き、授業を受ける。∞ロードが楽しみ過ぎて、全く内容が頭に入ってこない。常に攻略法を考えてしまう。そしてそれはみんなも同じ様だった。
授業が終わり、放課後になった。俺達は全力で家に帰り、飯を食ってゲームを始める。今日は5分前から入っておこう。咲良に言われたしな。
俺が入ると、みんなは既に入っており、遅れた様になってしまった。
「あれ...?俺、集合時間間違えてたっけ?」
「大丈夫。一俊が間違えてるんじゃなくて、私達が早く入っただけだから。」
「そ、そうか。良かった...。」
「じゃ、さっさと魔王討伐に行くわよ!」
「ああ、行くぞ!」
「「「「おー!」」」」
俺達は魔王城に向かい、城内の雑魚モンスターの討伐をした。そして、魔王城の離れに中ボスがいるとの事なので、そこに向かう事にした。
「離れの最上階に中ボスが居るらしい。最後の中ボスだ!」
「魔王の次くらいの実力を持っているはず。気を引き締めて行こうね。」
そして、最上階に到達。そこで待っていたのは―
「よくぞここまで来た。我が名はデルザイユ・アストラフだ。」
「コイツが中ボスなのか?...って、どうした、陸。」
「デ、デルザイユだって...⁉︎ソイツは中ボスじゃない。ま、魔王だ!」
「魔王⁉︎なんでここに魔王がいるんだよ⁉︎」
魔王。確かに、このモンスターからは、今までに無いほどのオーラを感じる。しかしコイツが、魔王だって⁉︎
だいたい、どうして離れなんかに居るんだ⁉︎
「そう混乱しないで貰いたい。私は客人の歓迎に来ただけだ。」
「何を言ってるんだ。どうして魔王がここに居る!」
「客人への持てなしは当然の事だろう?異界で言う一般常識というやつだ。」
異界...?俺達の世界の事か。ってあれ?なんでゲームのキャラが俺達の世界の存在を知ってるんだ?
この魔王、いったいどういう存在なんだ?
「俺達をどうするつもりなんだ!」
「私達はアイツを倒しに来たのよ?やられるに決まってるじゃない!」
「君達をどうするか?そうだな、まずは、食事...それから見学...あと宴会...といった所だ。」
何を言ってるかよく分からない部分もあったが、
食事?見学?宴会?...もしかして、俺達を食事にして、見世物にして、宴会で食おうってか⁉︎嫌だ。それはすごく嫌だ。
「まあ話は後だ。とりあえずこの古い魔王城から出て、我ら魔王軍の新居に向かうぞ。」
「新居?連れて行く?何言って...?」
「《
「「「「え?」」」」
魔王がそう叫んだ瞬間、俺達と魔王は青白い光に包まれ、別の場所へ転移してしまった。
俺達、これからどうなっちまうんだ⁉︎
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