第14話 閑話

 朝生が立ち去ったあとの地下駐車場。

 柵に繋がれたナイフ男に忍び寄る一つの影。


「ブザマナスガタダ」


 極限まで掠れた声が鈍く響く。

 変声機を使っているのだろう。


「……うっ」


 ナイフ男は目を覚ました。

 視界に映るのは真っ黒な物体。あるいは影。

 彼の”顔”と思われる場所には”ひょっとこ”のお面だけが浮かんでいる。


「お…………お前……どうしてここに……」

「シゴト」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!オ、オレを殺すと損するぞ!」

「シナイ」

「するだろ!自分で言うのもあれだが、オレはなかなかの実力を持っている。たった一回のヘマで落とすには惜しいはずさ……」

「ミ……」


 ”ひょっとこ”は言葉にするのを諦めた。

 メモ帳を取り出し、そこにペンで書いていく。


『身バレしたは用済み』


 同時にサイレンサー付きの銃口を向ける。


「お、お、落ち着けって!そ、そうだ!ボス。ボスともう一度話をさせてくれ!」

『一度組織から逃げ出したお前が助かるとは思えない』

「そ、それでも!オ、オレはまだ死にたくな――」

『時間切れ』

「え?」




 ――――大人しい金属音が鳴った。




 ”元”ナイフ男の頭部を中心に、赤色が広がっている。


 それを見た”ひょっとこ”は躊躇いなく踵を返した。


「アノミノコナシ……マサカ……」


 という言葉を吐き捨て、闇に溶けた。

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