第11話 クリスマスデート?2
ショッピングモールの四階。
落ち着いた雰囲気の洋食屋。
朝生と樫木は昼食をとっていた。
「んっ。このパスタ美味しいです」
「俺が食べてるハンバーグもなかなかだぞ」
互いに舌鼓を鳴らす。
「良さそうな食器がたくさんありましたね」
「あったな。ま、俺には機能性とかでしか判断できないから樫木がいてくれて助かる」
「本当ですよ。お皿をコンコン叩いて、『固いな』なんて言い出したときは笑ってしまいそうでした」
「おい。今笑ってんじゃねえか」
「ふふっ。すみません」
(仕方ねえだろ。見栄張って、コンコンと叩いたはいいものの、コメントがそれしか思いつかなかったんだ。仕方なくないね俺が馬鹿だったね)
朝生は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く。
この洋食屋に入る前に食器を見に行った。
だが、荷物になってしまうのを防ぐためにまだ買ってはいない。
当たりをつけただけ、というやつだ。
あとは――
「朝生くん」
「ん?」
「映画も楽しみですね」
「そうだな。最近流行っている恋愛映画だし、樫木も興味があって安心した」
「学校でもよく話題に上がりますし。先にチケットを取っておきましたが、ほとんどの席が埋まってましたね」
「ほんと
食器を見に行ってから、映画のチケットを先に購入しておいた。
樫木は何が観たいのか。
あるいは、異性との映画は何を観たらいいのか。
四苦八苦して、朝生は無難に流行の映画を選んだのだ。
樫木はソースを絡めたパスタを口に運ぶ。
そのまま頬をとろけさせる。
「朝生くんって恋愛に興味あるんですね。学校ではそういう噂を聞かないので意外です」
「いや、俺は人より恋愛感情に疎いと思う」
「へ?」
樫木の手が止まる。
虚を突かれたようだ。
「ないってわけじゃない。恋愛してみたいなとは思ってる」
「あ、そ、そうなんですね」
パスタを口に運ぶ動作を再開する。
安心したようだ。
「ただ、恋愛感情がよくわからないんだ」
「わからない?」
世間話でもするかのように朝生は言った。
「のらりくらりと過ごしていれば、学生の間に
(樫木に
それに朝生は『暗殺者』である。『暗殺対象』は樫木。
恋愛なんてしている場合ではないのだ。
『暗殺』というワードが朝生を現実に引き戻してくれる。
脳が無駄に疲れた。
朝生は水を喉に流し込む。
すると、樫木が口元をもにゅもにゅさせ、フォークに巻いたパスタを朝生へ向けた。
「うん?何だこれは」
「このパスタ、美味しいので朝生くんにもあげます!」
「お、おいこれって――」
「ここのお店は個室……とは言わないまでも仕切りで周りから見られる心配はありません」
「や、そうは言ってもだな」
「それとも――」
樫木は天使らしくない――今だけは小悪魔っぽく。
嗜虐的に口角を緩めた。
「私からの”あーん”は嫌ですか?」
「嫌ってわけじゃ――」
「それなら……どうぞ」
樫木は完全に勢いに任せている。
断る理由が思いつかなかった朝生は、ぱくりと食いつく。
「……うまい」
「ですよね!では次は朝生くんの番ですよ?」
「お、俺の番?」
「ええ。今度は私に”あーん”してください」
「はあ!?」
気圧され、口を間抜けに開く朝生。
目を細める樫木。
「私も食べてみたいんです。そのハンバーグ」
「だったら――」
「あーん」
――だったら”あーん”以外で分けてやる――という朝生の提案を妨げるつもりだったのだろう。
樫木は目を瞑って勝手に口を開いた。強制待機状態だ。
やらねば終わらせないという強い意志を朝生は感じた。
丁寧にひと口大に切り分けて、樫木の口へ運んでいく。
「んむっ」
「ど、どうだ……」
「お、おいひいです」
「あ、噛んだ」
「噛んでません」
「噛んだだろ」
「噛んでません!」
「ぷふっ!」
「ふふっ」
途中からアホらしくなって、二人とも笑ってしまった。
ひとしきり笑ってから、樫木が言葉を零した。
「恋愛感情がわからない……でしたか?」
「ん?その話に戻るのか」
「わかるまで私が朝生くんの練習台になってもいいですよ?」
「な、何をッッッ!?」
「言ってみただけですよ。いつか恋ができるといいですね」
クスッと微笑む樫木。
比例的に朝生の心臓は激しくビートを刻んでいた。
(童貞にはオーバーキルだぞ、その笑顔)
朝生のドキドキは退店してからも続いた。
――だがそのドキドキがまさかこんなことで収まるとは思いもよらなかった。
洋食屋を出てすぐのこと。
朝生がトイレに行って、戻ると。
「おらあぁぁ!!近づくんじゃねえ!!この女を刺すぞ!!!」
樫木は刃物を持った男に人質にされていたのだ。
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