第7話 イリュージョン部
朝生陽太は”イリュージョン部”という部活に所属している。
部室は目立たない校舎の隅っこの教室。
部員は三名。しかし今日は来客が一名。
「ここがイリュージョン部……朝生くんが活動している場所なんですね」
「活動って言っても大層なことはしていない。細々と手品をしまくってるだけさ」
樫木を連れてくるつもりはなかった。
だが、放課後どこに行くのか訊かれたのだ。
妙にはぐらかすと怪しまれるので、連れてくることにした。
(気乗りしないなぁ)
億劫な気持ちのまま、朝生は部室のドアをガラガラと開ける。
中にはぽっちゃりした男子と、制服を着崩した薄顔の女子がいた。
「ほぅ。君が噂の樫木七優さんだね?実にビューティフルな子猫ちゃんだぁ」
「のっけからいいパンチ打ってくるな~」
「わかってたでしょ?朝生。
「や、わかってんだけど慣れねーもんは慣れねーだろ」
突然生まれたテンポのいい会話に樫木はついていけなかった。
口をぽかんと開けている。
樫木のそんな様子を気遣い、女子の方が自己紹介を始めた。
「びっくりさせてごめんね。私は
「
「息交じりな話し方が絶妙にキショイ」
「リーダーのことルィーダァーって言うな。巻き舌引きちぎるぞ」
「今日も相変わらずスパイスがきついなぁ君たちは」
朝生と志河沙の罵倒をものともしない千極。
樫木は呆気にとられつつも、口を開く。
「あっ。えっと。樫木七優です。よろしくお願いします」
「よろしくね。私のことは気軽に京でいいよ」
「わかりました、京さん。では私のことも七優と呼んでください」
「七優、超天使。すき」
志河沙が真顔で樫木の頬をツンツンとつつく。
樫木はくすぐったそうにしながらも、相好を崩す。
彼女らに聞こえないように千極が朝生に耳打ちする。
「志河沙と樫木さんかぁ。なかなかのテイスティングじゃあ~ないかぁ」
「あんま変な気起こすなよ」
「ノープロブレム。樫木さんは朝生の『暗殺対象』だ。悪いようにはしない」
千極穣一。『六徳グループ』――『実行班』のサイバー面兼武装調達担当。眼鏡。サブカル気質。中二病。デスクワークから離れると言動がウザくなる。
趣味はYoutubeを観ること。そして――手品。
この”イリュージョン部”は元々、千極の趣味が高じて作られたものだ。
朝生は千極に手品を習うために入部した。
『暗殺稼業』において手品の技術が役に立つと思ったからだ。
ミスディレクションという相手の注意を操る技術なんかはそのまま『暗殺』に応用できて便利である。
朝生の後を追うように志河沙も入部した”イリュージョン部”では、互いの情報交換の場にもなっている。
目立たない場所なので意外と密談に向いてたりするのだ。
志河沙たちは百合百合……ではなくじゃれついていた。
千極は小声で朝生に提案を持ち掛けた。
「そういえば、朝生。君は樫木さんの暗殺に手こずっているそうじゃないか」
「別に……こっからだ」
「強がりなさんな」
「強がってねえ」
「むきになってるねぇ。らしくもない」
「……なんだよ。何か言いたいことあるんだろ」
「僕のアイデアをアンダースタンドしているのかい?嬉しいねぇ」
「うぜぇ」
「手短に言おう。暗殺に協力してやる」
「はぁ?」
朝生は胡乱げな眼差しを送る。
千極は少し真面目な声のトーンに変わる。
「心配してるんだよ。朝生は異性が苦手だから回してもらう『任務』も同性が多い。だろ?」
「ああ」
「でも今回の相手は女子で、しかも同級生。その上美人ときた。朝生には荷が重いはずさ」
「無理と判断するのはまだ早い。俺には――」
「変装は使いづらいさ。同じ学校という閉鎖的空間だから」
「くっ」
「変装している間は女子でも話せるみたいだがな。だが変装アリでも美少女すぎる樫木さん相手に上手く話せるかは疑わしい」
「それはやってみなきゃ――」
「もしダメだった時が困る。失敗経験が響いて、変装してても樫木さん以外の女子とも話せなくなったら、今後の仕事に支障が出る」
「それはそうだが」
「ま。手柄は朝生一人のものにしてやるから心配なさんな」
「あ、ちょいまだ話は終わってな――」
「ねえ、樫木さん」
強引に話を終わらせた千極は樫木に声を掛ける。
樫木は小首を傾げる。
「えっと……千極さんですね。何でしょうか?」
千極は大げさに手を天へ広げて、言った。
「箱の中に入って、たくさんの剣に刺されてみない?」
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