草凪澄人の決断⑥~澄人の選択~
草凪澄へ自分が未来から来たと澄人が説明しております。
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「これは未来の道具で、スマートフォンと呼ばれるものだ」
「なんだ……これは……魔法ではないな……こんなものがこの世にあるはずがない」
草凪澄はスマホに映った映像を凝視している。
画面には夏さんが撮影してくれた映像が映されており、黒い植物が異界に侵食している様子がよくわかる。
俺は草凪澄に見せるために、はざまの世界から撤退するときの映像を再生していた。
「お前がはざまの世界へいけば瘴気が収まったように見えるけれど、四百年後に瘴気を生み出す黒い植物が万延する」
「黒い……植物……四百年……」
草凪澄は画面から目を離さず、食い入るように見続けている。
俺は草凪澄の視線の先にあるものを一緒に見ようと、彼の隣に移動した。
「瘴気は俺に任せて、お前はここに残れ」
「……なぜ、私の名前を……知っているんだ……お前は一体……何をしようとしている……世界樹を救うと……言っていたな……それに、その力は……なんだというのだ……まさか……お前は……神……なのか……?」
草凪澄はぶつぶつと独り言を言い、俺が何者か考え込んでいる。
そんな彼の様子を見て俺はため息をついた後、真剣な表情に切り替える。
「草凪澄。お前は世界樹を救って、その後どうするつもりだ?」
「世界樹を……救い……その後は……何も考えて……いない……ただ……世界が……救われれば……それでいい……試練はそう……」
草凪澄はうつろな目をして、空を見上げながら言葉を紡いでいる。
俺は彼の言葉に違和感を覚え、話を止めようとした。
「お前も試練の書を読んだんだな? 俺もなんだ」
草凪澄は俺の言葉が聞こえていないようで、ずっと同じことを繰り返しつぶやいている。
「世界樹を救った後は……平和が……くそ……私は……世界樹を……私は……世界樹を……時間が……制限が……もう………………」
草凪澄は俺の話の途中で突然倒れてしまい、そのまま気を失ってしまった。
俺はそんな彼を持ち上げ、聖さんを置いてきた場所まで運ぶ。
聖さんは両膝を付いて両手を組み、祈るように目を閉じていた。
「すいません、そこで人が倒れていたんですが、お知合いですか?」
俺は草凪澄を抱えて聖さんの前まで移動し、知らないふりをしながら彼女に確認をとる。
「えっ!? 兄さま!? ……が二人?」
聖さんは気を失った草凪澄を見て驚き、俺の顔を二度見してきた。
おそらく、俺が草凪澄と容姿が似ているためだろう。
俺が草凪澄を寝かせるために片膝を付くと、彼女は受け取るように草凪澄を肩で支える。
「あの……あなたのお名前は?」
俺はほとんど口を利かないまま草凪澄を聖さんへ託し、立ち上がった。
「彼が起きたら伝えてください。あなたは行かなくても良いと」
「あ、あの!? どういう!?」
「持っている世界樹の苗木は家を守る御神木にでもしろとでも言っておいてくれますか? 俺はこれから用事があるんで、失礼します」
俺はそう言い残すと、その場から急いで離れようとした。
草凪澄は俺の言葉の意味を理解してくれるはずだ。
「待ってください!!」
背後から聖さんの必死に呼び止めてくる声が聞こえてきた。
後ろを振り向かず、俺は足を止める。
「私は……すめら……草凪聖といいます。あなたのお名前だけでもお聞かせください」
俺は聖さんに名前だけを聞かれたので、振り返らずに答えた。
「澄人です。もうその人を離さないでくださいね。お幸せに」
俺はそれだけ言うと、二人から離れるように走り出す。
しばらく走ったところで、俺は速度を落として歩き始めた。
彼女を慰めることができるのは世界で唯一、草凪澄だけだろう。
おそらく、もう二度と彼女が草凪澄から離れることはない気がする。
(さて……はざまの世界へ……なんだ?)
はざまの世界へ行くためにワープを発動させようとしたら、誰かが俺の後を付けてきていた。
時代的に物取りでも出たのかと考えて振り向こうとした時、足元に矢が突き刺さる。
「動かないで! あなた、何者なの!? 異界からずっと私たちのことを付けていたでしょう!?」
弓を構えた誠さんが大きな声で俺を制止してくる。
周囲の気配をずっと探っていたような口ぶりだった。
流石、真さんの子孫というだけあって、八咫鏡で察知した俺のことをずっと探していたらしい。
俺の耳まで弓を引くキリキリキリという音が聞こえ、今にも放たれそうだ。
「そうです。俺は草凪澄と二人きりで話をするために様子をうかがっていました」
俺は正直に答えると、誠さんが構えている弓矢が額を捉える。
「なぜそのようなことを? 君はいったい何者なの?」
「草凪澄を死なせないためです。俺のことを信じてもらえないならそれでも構いません」
俺は誠さんの目をしっかりと見つめながら返事をした。
そのせいなのか、彼女は弓から矢を外して腕を下げる。
「……詳しい話を聞いてもいいかな?」
俺は彼女からの質問に対して首を横に振った。
「すいません、多くは語れません。ただ、瘴気を根絶したいと考えて行動しています」
「……わかったわ。澄さまを助けてくれたようだし、信用しましょう」
彼女は少し考えた後に納得してくれ、警戒を解くようにゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
俺は念のために周囲を確認しながら、誠さんが目の前に来るのを待っていた。
逆に俺が聞きたいことがあったため、歩み寄ってくる彼女へ質問を投げかける。
「瘴気とは、人が引き起こした罪や災いなどの思念が集まったもの……で合っていますか?」
「……ええ、間違いありません。あなたに根絶させることができるの?」
俺が聞いたことに驚いた表情をしていたけれど、すぐに真面目な顔に戻してうなずいた。
これまで瘴気のことを考え続け、結論として俺の出した答えがこれだ。
草薙の剣で瘴気の空を浄化した光景を見て、自分の答えに確信を持つことができた。
思念の集合体である瘴気があらゆるものに侵食し、発生源である人へ無差別に襲い掛かる。
ならば、思念が集合体になる前に浄化する必要がある。
そう考えた草凪澄は、瘴気が発生しているはざまの世界に浄化作用のある世界樹の樹を植えようとした。
(世界樹の樹が瘴気に侵食されるということを考えずに……)
世界樹の樹が成長するまでは時間がかかる。
草凪澄の植えた世界樹は、途方もない月日の中で徐々に瘴気に侵食されてしまった。
俺はその二の舞にさせたくないため、この世界にやってきた。
「できます。そのために俺はここまで来ました」
俺は誠さんの目を真っ直ぐに見ながら宣言すると、彼女は目を見開いた。
そして、嬉しそうに笑みを浮かべる。
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