迷う聖奈~胸の内に秘めた気持ち~
草凪聖奈視点での物語になります。
聖奈が家を出てケビンさんへ会いに行きます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
《聖奈本当に行くの? 出かけている間に目を覚ましてしまうわよ?》
「少しだけだから、空港まで来ている人を邪険にできないでしょ?」
出かける準備をしている最中、頭の中で聖さんが思い止まるようにと話しかけてくる。
これだけ深く寝ているのだから、数時間くらい家を空けても問題ないと思う。
《聖奈、お兄さんの唇を奪いなさい。二度とないかもしれないわよ?》
「も、もう寝込みは襲わないから!」
《ふーん、その選択で後悔しないことを切に願うわ》
「大丈夫だよ。お兄ちゃんずっと寝ているし」
聖さんに指摘されて、無意識のうちにお兄ちゃんの唇に視線が向いてしまう。
香さんに念を押されたこともあり、お兄ちゃんの布団からそっと離れ、玄関へ向かう。
靴を履いて振り返ると、普段は人が多いこの家から音が聞こえてこない。
「行ってきます」
返事を期待することなく、いつものように挨拶をして家を後にした。
「聖奈さん、よく来てくれたね」
「いえ、私でお役に立てることがあるのであれば」
手配してくれたタクシーで空港へ着くと、すぐにケビンさんが出迎えてくれた。
予想通り仕事ができる大人の雰囲気があり、着ているスーツがとても似合っている。
「すまないね。本来ならもっと良い場所を用意したかったのだが、この状況ではね」
「気にしないでください」
「空港の一室を借りた、そこで【みんなに】詳しく聞かせてもらえるかい?」
申し訳なさそうにしているケビンさんと一緒に、ロビーの奥へと進んでいく。
案内されたのは広い会議室で、そこには多くの人たちが集まっていた。
(え? この人は……テレビでよく見る人だ……あれあれ? あの人も……なんで?)
その中にテレビで見かけたことのある有名な人が多数おり、思わず身構えてしまう。
そんな私の様子に気が付いたのか、ケビンさんが笑いながら肩を叩いてきた。
「この方たちは今回の騒動できみの話を聞きたいと願い出てくれた人たちだ」
「えっと……お話できることはあまりありませんけど……」
私の話を聞いてくれるらしい人たちに会釈をしながら、用意された席に座る。
私の隣には通訳らしき女性が立ち、テーブルを挟んで向かい側に座っている人たちは深刻な表情でじっとこちらを見つめている。
ケビンさんは私の後ろに立ち、いつでも動けるように待機してくれていた。
「さっそくだけど聖奈さん、黒い植物について教えてくれるかな?」
「はい、まず――」
私は聖さんから聞いていたことをそのまま話していく。
瘴気によってスキルが使えなくなることや、異界の奥にあるはざまの世界についても包み隠さず説明した。
清澄ギルドの突入記録として、夏さんが映像を録画していたことも伝えておく。
お兄ちゃんや私が持っている神器で黒い植物を消滅できたことまで、説明を終える。
最後にはざまの世界に突入した感想を述べる。
「――と、いうことです。はざまの世界は私たちの想像を超える恐ろしい場所でした」
話し終えた後、私は緊張からか喉が渇いてしまった。
用意されていた飲み物を口にして落ち着けていると、対面に座っている女性が質問してきた。
「そのはざまの世界は、草凪正澄さんが閉じ込められていた世界と聞いていましたが、そんなことになっているとは言っておりませんでしたよ」
《最近だからよ》
「そうだと思います。今のように黒い植物が増殖したのは最近のようです」
「なるほど……瘴気については――」
私の代わりに答えを響かせる聖さんの声を参考にしながら口を開く。
はざまの世界についてはおじいちゃんたちが生還してきたときに軽く触れている内容なので、理解が早い。
その後も質疑応答が続き、ようやく終わったと思ったらケビンさんが話を切り出してくる。
「聖奈さん、正式に世界ハンター協会からきみへ黒い植物の対応をしてもらう依頼をしたい」
「それは……今は兄が……」
「瘴気が地球に万延したら人類は終わる。聖奈さん、頼む!」
「……わかりました。お受けします」
私はお兄ちゃんのそばを離れたくなかったので、依頼を受けるつもりはなかった。
しかし、ケビンさんが言っていることは理解し、渋々ながらも依頼を受けることにした。
日本だけじゃなく、世界中で黒い植物が成長しているのなら、必ずいずれは対処しなければいけなくなる。
それならば、お兄ちゃんの負担を減らすため、目を覚ます前にできるだけ片付けておきたい。
《聖奈いいの? このまま連れていかれるんじゃない?》
「絶対お兄ちゃんに会う時間貰うもん」
小声で聖さんと会話をしていると、ケビンさんが真剣な顔つきで私の手を握ってくる。
「ありがとう! 早速だが、今から準備を始めてほしい」
「えっ!? い、今からですか!?」
「そうだ! 君の助けを待っている人が世界中にいる!」
突然のことに戸惑っていると、聞いていた聖さんが話しかけてきた。
《ほら、こうなったでしょう? 家に帰るのはいつになるのかしらね?》
それ見たことかと言わんばかりに聖さんがため息交じりの声を出す。
ケビンさんに急かされながら会議室を出て、そのまま飛行機に乗せられてしまう。
まるで私が依頼を受けるのを待っていたかのように準備をされていたようだった。
(なにあれ……嘘でしょ……)
ふと、窓の外を眺めた私の目に、有り得ない光景が飛び込んできた。
大地のあらゆるところから黒い植物が増殖しており、地面が黒く染められている。
あまりの非現実的な状況に目を奪われていると、隣に座ったケビンさんが声をかけてきた。
「あれはまだマシで、ひどいところでは街が丸々植物に飲み込まれている」
「もうそんなに……」
《これだともう、瘴気を浄化してくれる世界樹の樹があっても無理ね》
聖さんのつぶやくのと同時に、私のスマホが震える。
通知を見てから質問をしようとしたら、お兄ちゃんからのメッセージだった。
【聖奈、助けてくれてありがとう。俺が地球を救うよ、任せろ】
《聖奈!! 止めなさい!! 今すぐ!! お兄さんが行ってしまうわ!!!!》
「ケビンさん、この飛行機の中は電話を使えますか!!??」
メッセージを読んで、聖さんの声と同時にケビンさんの方を向く。
「あ、ああ……もちろんだ」
「ケビンさん、すみません!!」
使えなかったら飛行機を降りてでも電話をするつもりでいた。
しかし、ケビンさんに確認をすると、問題ないとのことだ。
急いでお兄ちゃんへ電話をかけたら、数コールの後に出てくれた。
「お兄ちゃん、帰ってくるよね!?」
「…………」
お兄ちゃんは何も言ってくれない。
いつもみたいに優しい声で返事をしてほしい。
私にとってこの沈黙が1番怖かった。
「聖奈……ごめん、わからない。俺がいない間、みんなを頼む」
「お兄ちゃん!! 行かないで!! お兄ちゃん!!」
必死に引き留めようと叫ぶが、通話が切られてしまい、お兄ちゃんの声を聞くことができない。
私はその場で泣き崩れ、周りの人たちから心配されてしまう。
それでも涙を止めることができず、ずっと嗚咽が漏れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は【本当に】未定です。
更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー&いいね】をよろしくお願いいたします。
これからも頑張るので応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます