瘴気の謎⑭~切り払われた黒い根~

澄人が神器の剣で切り取った根を見つめています。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なんで……残っているんだ?」


 黒い根は俺が切断してから時間が経っていないにも関わらず、爆発せずにそのままの形を保っていた。


 その事実が俺の中で一つの仮説を生む。


(神気をまとった俺の剣なら瘴気を中和するのか?)


 それを試すために黒い根に近づくと、黒い根は俺に襲いかかろうと根を伸ばしてきた。


──シュルルッ!!


 迫ってくる黒い根を神気をまとった剣で斬り払う。


 すると、断面からは瘴気が漏れ出すものの、切り取られた根はそのまま地面へ落ちる。


 俺が切った根はしばらくしても爆発することなく、落ちたままで状態を保っていた。


 その様子を見て俺は確信する。


(神気を帯びた剣で黒い大樹の根を斬れば、瘴気を浄化できる!!)


 神気を垂れ流しにするようなことを今までしていなかったため、こうなるとは予想していなかった。


 俺は目の前に立ちふさがる黒い根を次々に切り払い、神気を帯びさせた剣で黒い大樹の根を次々と浄化していく。


 瘴気の噴出を抑えるように戦いながら、この場を脱出する方法を思いついた。


(神の一太刀でこの植物ごと空間を浄化すれば、道ができるはずだ! 次の一振りにかける!)


 ポイント的にも、神の一太刀を使えるのは一回だけだ。


 その一振りが無駄にならないように黒い大樹と黒い恐竜を牽制しながら、方向を確認する。


 黒い大樹は俺を逃がさないように根で攻撃をしてきており、黒い恐竜も追い立ててくる。


「神のひと──待てよっ!!」


 神気を開放して神の一太刀を振るおうとした時、俺は目の前にある地図を疑う。


 この地図通りに走ったにもかかわらず、俺はゲートへ到達できなかった。


(もしかして……瘴気が干渉してきているのか? 俺を惑わせるために……)


 目の前に表示されている地図を見つめ、今は信じないことを決断する。


 ミュルミドネスがミッションの内容を知っていたように、瘴気が濃いこの世界では何が起こるのかわからない。


 今まで頼りにしていた地図を捨て、俺は自らの勘に頼って剣を振るう。


 外れれば最後、俺ははざまの世界に閉じ込められたままになるだろう。


「道を切り開くために渾身の力でこの剣を振るうんだ!!」


 俺は自らを鼓舞するように叫び声を上げ、剣に力を込めていく。


 剣に込められた力が最大限に高まると、剣が眩しい光を放つ。


「今だぁぁぁあああ!!!!」


 俺はありったけの力を込めて、幾多の境界を見つけた自分の直感を信じて神の一閃を放つ。


「我が剣よ!! 天翔ける神の刃よ!! 我が道を塞ぐ一切を断ち切れ!! 神の一太刀!!」


 神の一太刀が黒い大樹を切り裂き、周囲の黒い植物や黒いモンスターを巻き込んでいく。


 はざまの世界に光が満ち溢れ、剣から放たれた黄金の軌跡は、俺を中心に波紋のように広がっていき周囲の景色を金色に変える。


 黄金の波紋に触れた黒い木々は枯れていき、草花も朽ち果てていく。


(やったぞ!! 後は自分を信じろ!!)


 心の底から湧き上がる喜びをかみしめるのも束の間、俺は黄金の軌跡を追いかけるように駆け出した。


 金色の波動が生み出した空間の裂け目を目指して走る。


(あと少し……もう少しのはずなんだ)


 俺ははやくも息が上がり始めており、呼吸するたびに肺が焼けるような痛みに襲われる。


 焦る気持ちとは裏腹に、なかなかゲートが見当たらず、足が重く感じていた。


 それでも走り続けるが、体力の限界が近づいており、ついに膝が震え始める。


(まずい……もう走れない)


 立ち止まって休憩したい衝動に駆られるが、そんな暇はない。


 背後からは黄金の余波を逃れた黒い大樹と黒い植物が迫ってきており、休む間もなく俺を追い立てる。


「くそぉ……!!」


 俺は自分を奮い立たせるために、悪態を吐いて再び気合を入れ直して加速する。


 視界が霞み、息が苦しくなり、意識が途切れそうになる。


 そんな中でも俺は必死に走り続けた。


「見えた!!」


 ゲートにたどり着いた俺は、急いで飛び込もうとした。


 だが、ゲートに辿り着く直前で黒い植物に右足を掴まれてしまう。


「ぐっ……離せ!!」


 必死に抵抗するが、黒い根は俺をゲートから遠ざけようと引っ張ってくる。


 俺は右足から伝わる嫌な感触に顔をしかめていると、黒い根が左足にも絡みついてきた。


 両足のを同時に引っ張られ、地面に引き倒されてしまう。


(このままじゃ……引きずり込まれる)


 俺はなんとか脱出しようともがくが、黒い根は俺の手足をしっかりと拘束しており、抜け出すことができない。


 黒い植物は倒れたままの俺の体に巻き付き、全身を締め上げてくる。


 焦燥に駆られてもがくことしかできない俺に、黒い恐竜たちが囲うように迫ってくる。


 その時だった── 突然、黄金の一閃で黒い恐竜たちが吹き飛ばされる。


 俺の両手足を拘束していた根が切断され、体が自由になった。


「今のは一体……」


 何が起きたのか分からず呆然としていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん大丈夫? ギリギリ間に合ったみたいでよかった」


「聖……奈?」


 声の主の方へ視線を向けると、そこには純白の矛を携えた聖奈が立っていた。


 その姿は漆黒に染まった世界によく映える。


「お兄ちゃんを助けに来たよ」


「どうしてここが!? それにその槍は……」


 聖奈の持っている白い矛はじいちゃんの使っていた天之瓊矛あめのぬぼこによく似ている。


 ただ、白い炎は出ておらず、代わりに白銀の布がはためく。


 俺の質問に答える代わりに、聖奈は黒い軍団に向かって天之瓊矛を構える。


 すると、矛の先端からまばゆい光が発せられて周囲を照らした。


「うわっ!!」


 あまりの眩しさに俺は目を閉じて腕をかざす。


「お兄ちゃん逃げるよ!!」


 聖奈の声とともに手を引かれ、次の瞬間には浮遊感に包まれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は【本当に】未定です。

更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー&いいね】をよろしくお願いいたします。

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