瘴気の謎⑥~異界の雲について調べる澄人~
澄人が異界の雲について調べております。
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資料集は似たような報告書をまとめただけのものが多く、読み解くのに時間がかかった。
2日かけてそれらの資料を全て読んだ俺は、机に突っ伏す。
リリアンさんからもらった資料の中には、エスリンさんの持っていた資料を補足するような内容も記されていたため、より深い考察を行うことができた。
(境界が万全のときに雨は降らない……それなら瘴気……モンスターはどこに溜まっていたんだ?)
俺は資料から得た情報を整理しながら思案していた。
資料からは雨が降っている最中や、上がった直後はモンスターが強力になって活性化することが読み取れた。
このことから考えるに、雨が降っている状態であれば、濃い瘴気を雲に含まれている可能性がある。
(だとすると、やはりどこかに瘴気が発生している場所があるはずだ)
雲の観測に関する資料集を手に取り、地図機能を展開して場所の特定を試みる。
(この街はここで……雲はこの方向から……こっちは……)
詳細に書かれている報告書をいくつか照らし合わせていく。
(…………なるほど、どの資料を見ても調査が最後まで終わっていないのはこれが理由か)
最終的に雲が流れてきている方向はサラン森林を示していた。
一番近いアリテアスの観測報告書にも、雲はサラン森林のさらに向こうから次々と流れ込んでくると記載されていた。
七色の森であるサラン森林は、百年以上前から厄介な場所として開拓者を寄せ付けなかったらしい。
(サラン森林の向こう側の資料があればはっきりとしそうだけど……はっ!?)
こちらからサラン森林を越えた先にあるライコ大陸。
ライコ大陸の資料は首都にはないなとため息をついたとき、俺は重要なことに気づいた。
(ミス研の資料室……あそこに雲についてまとめた資料はないかな?)
ライコ大陸に本拠地を構える草根高校のミステリー研究部は、どんな些細なことでも記録を残してきた。
今ではデジタル化が進んで日報をパソコンで入力しているが、未入力のまま保管された紙ベースの資料もある。
(ライコ大陸から見て、雲がどっちからくるのかわかれば……行くか!)
俺は勢いよく立ち上がり、別の部屋で待機してくれていたリリアンさんに資料の片付けをお願いする。
二つ返事で引き受けてくれたリリアンさんにお礼を言って、ワープを発動した。
「っと、今日の活動は終わったのか」
ミステリー研究部の部室には人の気配がなく、閑散としていた。
いつも賑やかな部員たちの姿も見えないため、どうやら今日は早めに活動が終わったようだ。
「ちょうどいいか。あの人はいるはずだからな」
俺は固くなった自分の体をほぐしながら部室の奥にある異界ゲートの管理室へ向かう。
ドアをノックする音が室内に響き渡る。
少し間を置いて、中からの返答があった。
「はーい? どうぞ~」
俺は扉を開けて観測室に足を踏み入れる。
中には観測員の豊留さんが座っていた。
小柄な豊留さんは後ろで束ねている長い黒髪を揺らしながらこちらを向いた。
白衣を身に纏った姿は研究者というよりも、小学生の女の子といった感じだ。
豊留さんは俺と目を合わせると不思議そうに首をかしげる。
「あれ? 澄人くん? もう活動は終わったわよ?」
「知っています。ちょっと異界のことで聞きたいことがありまして」
「なにかな?」
俺は扉を閉めると、空いている椅子に腰掛けて、単刀直入に切り出した。
「異界の雲について教えてほしいんですが……わからないのなら資料を見てもいいですか?」
俺がそう口にすると、豊留さんは楽しそうに口元を緩ませる。
「雲についてなら任せて、こっちの画面を見ていてくれる?」
「わかりました」
俺が了承の返事を返すと、豊留さんはキーボードを叩いて巨大スクリーンを展開させる。
「今、表示されている画像が雲の動きを表しているの」
俺は言われた通り、雲の分布図を注視する。
レーダー解析をしているのか、雲がどんなふうに動いているのか一目瞭然だった。
「こんなことができるようになったんですか?」
「観測所を建ててくれたあなたのおかげでね」
鼻歌交じりで作業をする豊留さんは「これを見てほしかったのよねー」と鼻歌交じりで操作をしていた。
「持ち込んだ気象レーダーが小型だから数十キロ先までしかわからないけど、こんな感じで動いているわよ。見てわかると思うんだけど――」
俺は豊留さんの話を黙って聞いていた。
スクリーンに映し出された地図には【ある一点】から雲が流れているようにしか見えないからだ。
豊留さんもそれがわかっており、俺の反応をうかがいながらも説明を続けてくれている。
「――この一点から雲が発生して、徐々に広がっているように見えるでしょ?」
「はい」
「つまり、ここから雲が発生しているんじゃないかと私は考えているのよ」
「俺もそう思います」
「……まあ、だから何って話なんだけどね」
俺が同意を口にしても、豊留さんは苦笑いをして肩を落とす。
雲の動きが詳細に分かるようになってすごいと思うが、豊留さんの表情は優れない。
理由がいまいちわからず、俺は首をひねることしかできなかった。
「……どういうことですか?」
「雨がわかってもね。残念がられるだけだから」
「なるほど」
豊留さんの言葉に納得した俺は、改めて地図を見つめる。
異界で雨が降っていれば、誰であろうと探索を行うことができない。
そういえば、最初に雨が降ったとき、師匠からそのように言われたことを思い出す。
(あの時は雷帝龍の雨だからと思っていたけど、昔からそういうルールみたいだからな)
今でもミステリー研究部の活動や企業のハンターが来た時でも、雨が降っている場合は中止している。
(あれ? でも理由って教えてもらったか?)
俺は過去の記憶を掘り起こしてみるものの、明確な答えは出てこなかった。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は【本当に】未定です。
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