草凪澄人の選択③~草凪澄の話~

澄人が神域にいた草凪澄と会話をします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「きみがより強くなる手伝いをしていただけだ。報酬は役立っただろう?」


 俺が強くなるためにミッションの存在は不可欠だったことは理解している。


 ただ、何で俺だけにミッションを与えてくれたのかがわからない。


「どうして俺なんですか?」


 俺が疑問に思っていたことを口に出してみると、草凪澄が顎に手を当てて考え込む。


「ふむ……最初から話をするという約束だったな」


 俺の質問には答えてくれず、独り言のようにつぶやいた。


 そして、この場から消えて奥の椅子へ座り直し、手招きをしてくる。


「長い話になる。座ってくれ」


 神殿の奥に座った草凪澄の向かいに新たな椅子が現れ、俺へ座るよう促してきた。


 俺は心を静めるように歩き、彼の指示に従って腰を下ろす。


 俺が座ると同時に机と飲み物が現れた。


「まずは、私について説明しようと思う」


 机の上に出された飲み物へ手を出す間もなく、草凪澄が口を開いた。


 四百年以上前の人物がなぜここにいるのか気にならない方がおかしい。


「はい、お願いします」


 俺はどんな話が聞けるのかと思いながら、彼の言葉を聞き逃さないように集中する。


「私は四百年前の人間だったが、元々は神域の住人なんだ」


「え……だった? 神域の住人……ですか?」


 予想していなかった言葉に俺の思考は停止してしまい、間抜けた声を出してしまった。


 神域の住人という言葉が何を指しているのかわからない。


「そのままの意味だ。四百年前、モンスターによって滅亡しそうになった人類を助けるために神域から地上へ降りたんだ」


「…………ちょっと待ってください。あなたは神様だったのですか?」


 草凪澄が言っていることをすぐに受け入れることができず、一つ一つ整理する。


 俺の頭の中でいくつかの仮説を立てながら草凪澄の話を聞く。


「ああ。私はモンスターに抗う力として、人類へ【神格】を授けた」


「神格を……授ける?」


「神格とは、神の領域へ踏み込める才能のことだよ」


 神格が与えられたものだとすると、俺が元々持っていた神格1という才能は、神に見放されていたということだろう。


 見放されていた俺へどうしてミッションを与えたのか疑問が増えるばかりだ。


 俺が黙っていると、草凪澄が一口飲み物を飲んでから言葉を続ける。


「草凪澄人。お前は、私……草凪澄が人として生み出した人間だ。だから神格が1しかなかった」


「……………………」


 俺の聞き間違いでなければ、今目の前にいる人物は、俺のことを自分が作ったと言っている。


 いきなりこの話を受け入れろと言われてどれだけの人が信じれるだろうか。


「信じられないかもしれないが、本当だ。草凪澄人、お前は人間になった私だ」


 草凪澄の言葉を聞いて俺はどんな言葉を発すればいいのかわからなくなってしまった。


 俺という存在をミッションを通して、ここに至るように成長させてきたと続けた。


 あまりにも突拍子もないことで、頭が混乱して何も考えられない。


 それでも、俺が何かを言わなければ話が進みそうにもないので、なんとか自分の意見を口にする。


「わざわざ作り出してまで俺に何をさせたいんですか?」


 俺がそう言うと、彼は背もたれに体重を預け、視線を落とした。


「お前には私の代わりに世界を守ってほしい」


 直前までの態度から一変し、草凪澄は悲壮感漂う表情で頼んできた。


 まるで自分にはできないと言わんばかりの雰囲気を出している。


「神様であるあなたが無理なことを俺ができるんですか?」


 俺の問いかけを聞いた草凪澄は眉間にしわを寄せたあと、悔しそうに天を仰いだ。


「私は施すことはできるが、取り除くことはできない……相手が誰であっても」


 先ほどまでの余裕のある話し方とは違い、本当に心を痛めているように見える。


 その姿を見て俺はなんとも言えない気持ちになりながらも笑顔で対応した。


「いつものようにミッションを出して、報酬をくれるのならいくらでもご協力します」


 俺は目の前にあるグラスを手に取って口に含む。


 爽やかな甘みが広がり、疲れていた体に染み渡るようだ。


 グラスを傾けながら草凪澄の様子をうかがうと、こちらを見て目を丸くしていた。


 草凪澄の反応に首を傾げながらグラスを置いた。


「それとも、会ったからもうミッションはないんですか?」


「いや……それは大丈夫だ。これからも頼むことはある」


 彼は慌てるように返事をして、少し落ち着きを取り戻したように見えた。


 俺はこの機会を逃すまいと、前から抱いていた疑問をぶつける。


「俺に両親がいないのはわかりました。聖奈の両親は誰なんですか?」


「草凪聖奈にも両親がいない。彼女は守護者の生まれ変わりだ」


「守護者の……生まれ変わり? 守護者はまだいますよね? どういうことですか?」


 また理解できないことが増えてしまい、俺は質問を重ねてしまう。


 草凪澄は、どう説明したらよいのか悩んでいるようで腕を組んでしまった。


 生まれ変わりというのなら、俺の前に現れた守護者はなんだったのだろうか。


(亡くなってもいないのに生まれ変われるものなのか?)


 俺が頭を悩ませながら待っていると、草凪澄は口を開いた。


「彼女が私に寄り添いたいと強く願って神域に至り、生まれたのが草凪聖奈だ」


「……意味が分からないです。聖奈は俺の祖父と血が繋がっているんですよ?」


「そうだろう……彼女も草凪の名を持っていたからな」


「彼女【も】?」


「守護者は私の義理の妹だ……私は子を成せなかったが、彼女は草凪の血を残してくれた」


 俺は衝撃的な事実を聞かされ、頭の中で何度も繰り返し確認してしまう。


 草凪澄も義妹のことは予想外だったのか、非常に複雑そうな顔をしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は【本当に】未定です。

更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。

できれば明日更新したいと思っております……今日はギリギリでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る