戦いの結果⑧~修羅化した草地翔~
修羅を発動し、澄人の能力に匹敵する力を持った草地翔と戦っております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ようやく本気になってくれた?」
「…………」
無言のまま剣を弾いた後、後ろに跳び退いて距離を取る。
剣を構え直し、翔の動きに注意を向けた。
(次……くるな……)
全身全霊の一撃を放とうとしているのか、翔が大剣を振りかぶったまま動かない。
全身から迸る赤い闘気がさらに増え、翔が持っている大剣も赤く輝き始めた。
(尽力の一撃で迎え撃つ!!)
俺が息を呑み、ジェイソンさんの動きを脳裏から引っ張り出す。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!」
翔の雄叫びが競技場内に響き渡り、空気が震える。
大剣からは赤い闘気が溢れ出し、残像を残しながら翔がこちらへ向かってくる。
「はあああーー!!」
俺も迎え撃つために地面を蹴り、尽力の一撃を放つ。
――ゴォォォンッ!!
翔の大剣と俺の剣がぶつかり合った直後、衝撃波が生まれ、石畳の大半を粉々に砕き割る。
――ピシッ!!
翔の剣にヒビが入り、衝撃に耐えきれずに剣身が半分ほど吹き飛んだ。
「まだだ!! 俺は……俺はぁあーー!!」
それでも翔は諦めず、剣を手放して拳を握りしめ、俺に向かって殴り掛かろうとしてきた。
――バタッ!
しかし、拳を振り上げた翔の攻撃が俺へ届くことはなく、その場で倒れてしまう。
「そこまで!!」
先生が試合終了の合図を出すが、翔がピクリとも動かない。
「翔? 翔?」
俺は足元で倒れている翔の顔を覗き込み、呼びかけるが反応がない。
「気絶しているだけだ」
競技場の外にいた先生が俺の肩に手を置いてそう言うので、ひとまず安心する。
「澄人、お前は大丈夫なのか?」
「はい、特に問題ありません……これは【修羅】というスキルの反動ですか?」
「その通りだ。一週間は寝たきりだな」
(あの効果ならそうなっても仕方がないな)
翔の能力上昇と最後に放った一撃を振り返り、納得する。
「草地は保健室へ連れて行く」
「その必要はありませんよ」
先生が翔を抱きかかえる前に、神の祝福を発動させた。
金色の光が翔の体を包み込むと、全身の傷や所々千切れたハンタースーツが元通りになる。
「これで大丈夫でしょう」
「本当に何でも治せるんだな……」
何事もなかったかのように安らかな寝息を立てる翔を見て、先生が苦笑いを浮かべていた。
「平義先生、どうして俺と翔を戦わせたんですか?」
「……こいつが言葉をこぼしたんだ。自分は強いですか? ってな」
「翔がそんなことを?」
「同じ大剣を使うジェイソンに勝ったお前から、この戦いの感想を翔へ伝えてやってくれ」
先生はそれだけ言い残すと、競技場を去って行った。
残された俺は、横たわる翔へ何を言うべきなのか考え、腕を組む。
(……口では何を伝えても響かないだろうな)
【強かった】や【びっくりした】など、ありきたりの言葉しか思い浮かばない。
それに、いくら口で褒めようが、負けた翔は否定的に受け取るだろう。
強さを証明するためにここまでしてくれた翔へどう伝えるか必死に考えるが答えが出ず、俺は頭を抱えてしまった。
(これは……そうだ!)
ふと、足元に折れてしまったミスリルの大剣が転がっているのが目に入る。
ミスリルの大剣を手に取り、折れている刀身を眺めた。
「これは記念にもらっておくよ。代わりにこれを使って」
独り言のようにそうつぶやいた俺は、オリハルコンの剣を地面へ突き刺す。
起きた翔が混乱しないようにスマホでメッセージを送ってから、俺も競技場を後にした。
『この剣にふさわしいハンターになるよ』
競技場を出た後、すぐに通知音が鳴ったので確認すると、翔からの返信だった。
翔らしい言葉に思わず笑みを漏らし、スマホをポケットにしまって家路に就いた。
家に着くと、普段見ない靴がいくつか並べられてあった。
居間には10名ほどの人が集結しており、ただ事ではないことを察知する。
「帰ったか澄人」
警戒しながら居間へ入ると、中央に座ったじいちゃんが待ちわびていたかのように出迎えてきた。
じいちゃんの周りにいるスーツを着込んだ人たちが妙に緊張しているのが伝わってくる。
座っている人たちは、妙に鼻が高かったり目の色が青い人など多種多様な人種の人がおり、どこかで見たことがあるような気がする。
「ただいま……じいちゃん、この人たちは?」
俺は扉を開けたままじいちゃんの周りにいる人たちへ視線を配りながら、質問をした。
「澄人、まずはそこに座りなさい」
「わかったよ」
じいちゃんに言われ、俺はテーブルをはさんだじいちゃんの正面へ座る。
「お前に伝えなければならないことがある」
「……はい、よろしくお願いします」
妙にかしこまった口調のじいちゃんが、真剣な表情で俺を見つめていた。
俺はこれから話される内容を予想できず、固唾を呑んで次の言葉を待った。
「キング級ハンター草凪澄人へ【救世主】の二つ名を授ける」
「えっ!? ……はい」
俺は予想外のことに驚いてしまい、変な声を出してしまう。
周りにいる人たちはジッと俺のことを見つめ、反応をうかがってきていた。
俺は冷静さを装いながら、じいちゃんの言葉を待つ。
「お前が欠席した臨時世界ハンター会議で決定したことだ」
「なるほど、理由をうかがえますか?」
「理由は3つある」
じいちゃんが目を閉じて大きく息を吐き、再び俺のことを見た。
「不治の病だった境界適応症の治療法確立、オーストラリアの開放、レッドライン失踪者の救出……この功績が認められた結果だ。それに――」
じいちゃんが続けて話す内容を聞いて、納得するしかなかった。
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