臨時世界ハンター会議⑨~澄人の不安~

澄人が胸のざわめきを感じております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「澄人さま、なにかあるんですか?」


 張り詰めた夏さんの一言でお姉ちゃんや聖奈も緊張した面持ちで俺を見る。


 やはり隠し通すことはできないと観念し、俺の不安をため息とともに吐き出す。


「近日中に何かが起こりそうな気がするんです……直感ですけど」


 数日前から胸の奥にざわざわとした気持ち悪さが漠然とあり、何をしても拭えない。


「またレッドゲートが現れるとかですか?」


 夏さんが俺の勘についてよく知っているため、的確な質問を投げかけてくる。


 それに対して、首を横に振った。


「いえ、そんな明確では……そういうものとも違うんです」


 境界が現れるときはこんな風な不安に駆られることはない。


 しかし、今回の場合は何かが起こるのではないかという不安しかなかった。


 俺が感じ取っているものをうまく言葉にできずに悩んでいるとお姉ちゃんが口を開く。


「澄人、あなたの勘にはすごく助けられたわ」


 お姉ちゃんが真剣なまなざしを俺に向けてきていたため、黙ったままうなずいた。


「もし、それが強く感じるようになったら教えてくれる? 澄人はひとりじゃないんだから」


「私にも頼ってください。私でもできることはあるはずです」


 お姉ちゃんに続いて夏さんが俺の手を取って力強く言ってくれた。


 その2人の優しさが嬉しくて、自然と笑みがこぼれてしまう。


「ありがとうございます。そのときが来たら必ず伝えます」


「お兄ちゃん! 私もいるんだからね!!」


 2人と約束を交わしていると、聖奈が俺の胸に飛び込んできて思いっきり抱き締めてくる。


 ただ、俺が不安に思っていることが心配なのか、ぎゅっと力を込めて離れようとしない。


「わかっているよ。聖奈もいてくれれば怖いことなんてないよ」


「うん……」


 聖奈は俺の言葉を聞くと、胸に顔を押し付けたまま返事をしてきた。


(みんなのおかげで少し楽になった)


 この場にいる人たちのおかげもあって心が落ち着くことができ、安心して目を閉じた。


◆◆◆


 翌日、俺はある疑問を解消するため、アジトの上へ建てられているビルへ向かっている。


 本来あのビルは草凪家の会社が所有していたが、じいちゃんがいなくなってからは事業活動がなく、ペーパーカンパニーになってしまっていた。


 ビルの前に着いた俺は最上階を見上げる。


(じいちゃんがいるのは一番上の階にある社長室だったな)


 中へ入り、受付をしてくれている立花さんのお母さんへ挨拶をしてからエレベーターへ乗った。


 最上階まで上がり、ノックをしてから社長室を書かれた扉を開けた。


「澄人、今日はどうしたんだ?」


 部屋へ入るなり、書類を見ながら机に座っているじいちゃんが声をかけてくる。


 ソファーへ移動しながら、ここへ来た目的を話す。


「じいちゃんに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


「なんだ?」


 じいちゃんは持っていたペンを置き、体ごとこちらを向いてくれる。


 向かい合うように座ると、じいちゃんの方から切り出してくれた。


「澄人が話してくれるなら何でも答えるぞ」


 いつも通りの落ち着いた口調でそう言いながら、優しい笑顔を浮かべてくれた。


 俺のことを信頼してくれていることがよくわかり、気兼ねなく質問することができる。


「あのさ……」


 そして、俺の中にある1つの考えを口に出す。


「水鏡家に置いてあった八咫鏡が偽物なことをじいちゃんは知っていたの?」


 その一言を聞いた瞬間、じいちゃんの顔から笑みが消え、真顔になる。


 しばらく沈黙が続き、俺も何も言えずに黙り込んでいると、ようやくじいちゃんが口を開いた。


「どうしてそんなことを思ったんだ?」


 今まで見たことのないくらい厳しい表情をしているため、正直に伝えることにする。


「じいちゃんは夏さんが夏さんが八咫鏡を壊すことがわかっていたから、水上家から追放される場面に居合わせたんだよね?」


 俺がそう言うと、じいちゃんは黙ったまま続きを促してきたため、そのまま話すことにした。


「水鏡家と水上家、が揃っていて、じいちゃんまでいる場面でそんなことが起こるなんて、タイミングが良すぎるんだよ」


 俺の話を聞き終えても、じっとこちらを見て口を開かない。


「夏さんが追放されてからのことも、あらかじめ住むところを――」


「澄人」


 じいちゃんが俺の名前を呼ぶと同時に立ち上がり、窓際へ向かう。


 俺が次の言葉を待っていると、じいちゃんは窓ガラスに手を当てて外の風景を見下ろした。


「……澄人、おまえは本当にすごい子だ」


「みんながサポートしてくれているからだよ」


「そうだとしても、澄人はみなの期待に応える働きをしているのは事実じゃ」


 じいちゃんが俺を褒めてくれるが、そこまで言われるほど大層なものではないと思っているため謙遜する。


 俺の言葉を聞いて、じいちゃんは振り返って微笑んでくれた。


「澄人、おまえの言う通り、わしは夏澄が八咫鏡を割ると考えて行動していたんじゃ」


 じいちゃんがゆっくりとした足取りで俺の前まで来る。


 俺の目をまっすぐ見つめながら言葉を続けた。


「草凪家にとって必要なことだった……夏澄のサポートを受けるお前ならわかるじゃろう?」


「…………」


 その答えを聞くと、俺はうなずき、夏さんのことをそれ以上聞くことはしなかった。


 他にもう一つ知りたいことがあったため、少し間をおいてから口を開く。


「もうひとつ質問があるんだけど……皇家の持っていた勾玉が片割れなのはどういうことなの?」


「……ふむ、それも知ってしまったのか」


 俺が質問を終えると、じいちゃんは俺の隣まで来てソファーへ腰掛ける。


「勾玉はふたつ揃えることで神域への扉を開くことができる……らしい」


 じいちゃんが真剣なまなざしを俺に向けて説明を始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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