臨時世界ハンター会議②~特待生選考会~

澄人が特待生の選考会を手伝うように要請を受けております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「澄人一旦食べるのを止めんか?」


 俺が真剣に話を聞いていないと思ったのか、師匠が少し強い口調で言う。


「広、止めなくてよい。わしもいただくとしよう」


 じいちゃんは怒り気味の師匠へ空いている皿を差し出す。


 師匠は差し出された皿を受け取ると、俺への説教をやめて肉を焼き始めた。


「それで、どうなんだ?」


「別に構わないけど……生徒を審査側に使ってもいいの?」


「審査側ではない。鑑定員の一員として澄人を雇うだけじゃ。3級観測員の資格を持っておるじゃろう?」


「最近申請が通ったのによく知っているね……」


 異界へ長期滞在する前に3級観測員への昇級申請を行っており、ようやく最近になって許可が下りていた。


 じいちゃんはそのことを把握しているようで、お肉を食べる手が止まってしまった。


「3級観測員としてお前が試験中にいるのは問題ないじゃろう。ほかにも大勢雇うからの」


「ふーん……それならいいよ」


「助かる」


 じいちゃんがにこりと笑うと、師匠も同じように笑った。


(師匠もじいちゃんも、俺が鑑定をするだけでなにが嬉しいんだ? なにかあるのかな?)


 俺が困惑して肉を頬張っていると、部屋の入り口が開き誰かが入ってくる。


「遅れて申し訳ありません」


(あれ……? 香お姉ちゃん?)


 部屋に入ってきた女性は香お姉ちゃんで、師匠とじいちゃんが軽く手を挙げて出迎えた。


「おお、来てくれたか」


「はい、お待たせいたしました」


 香お姉ちゃんは2人へ挨拶をすると、俺の方を向いて小さく頭を下げる。


「こんばんわ、澄人。久しぶりね」


 香お姉ちゃんが俺の横に座り、じいちゃんたちとテーブルを挟んで向かい合う。


 俺は師匠が焼いてくれた肉をもぐもぐと食べながら、じいちゃんとお姉ちゃんの話に耳を傾ける。


 お姉ちゃんと夏さんはじいちゃんが訓練をするということで長い間家を空けていた。


 ギルドハウスでは顔を合わせていたが、こうしてゆっくりと会うのは1か月ぶりくらいになる。


「香よ、警備の計画はできたか?」


「はい。他のギルドへ派遣要請を行ったため、ビショップ級以上のハンターが全境界に同行できます」


 お姉ちゃんが持っていたバッグからタブレットを取り出し、じいちゃんへ提示した。


 じいちゃんは受け取ったタブレットの画面へ視線を落とす。


「ふむ……調整ご苦労だった」


「ありがとうございます」


「もちろん近親者は――」


 2人は真剣な表情で話し合っているため、俺はできるだけそちらを見ないようにしながら肉を食べ進める。


 どの受験者へ誰が護衛として同行するのかという話し合いが聞こえてくる。


(俺のいる前で護衛計画の話をしないでほしいんだけど……まあいいか。次は何を食べようかな)


 自分に関係のない話を気にするほど繊細ではないので、追加の注文をするために店員さんを呼ぶためのボタンを押そうとした。


 その手を止められ、師匠が険しい表情を俺へ向ける。


「師匠……どうかしたんですか?」


「……澄人、少しいいか?」


「なんですか? 護衛ならしませんよ?」


 師匠の雰囲気に圧倒されることなく、俺は自分の意見をはっきりと言う。


 しかし、師匠の顔つきが変わることはなく、ただまっすぐに見つめられるだけだった。


「そうではない……ないんだが……」


 師匠の真剣な雰囲気を感じ取り、俺も真面目な顔をして師匠の目を見る。


 俺が見つめ返すと、師匠が困ったように香お姉ちゃんへ視線を泳がした。


「澄人、前にあなたが探せる境界のランクを調整できるって言っていたわよね?」


「……希望があれば【A】も探し出すよ。それがどうかしたの?」


 なぜか緊張している師匠の代わりにお姉ちゃんが俺へ質問をしてきた。


 前回の世界ハンター会議で披露した未発見境界のランクを言い当てたことを指していると思われる。


 今更隠す必要もないため正直に答えると、俺以外の3人が目を見合わせた。


「澄人、正直に言ってほしいんじゃが……試験日までにこの数の境界を確保できるか?」


 じいちゃんはお姉ちゃんから渡されたタブレットを俺へ差し出してくる。


 そこには複数の試験会場となる場所と、試験日時や条件などが記載されており、どれも境界の数を【予想】としていた。


 全部を足しても50に満たず、4000人以上の試験を行うのにこれで大丈夫なのかと首をかしげる。


「場所が数ヵ所あるのなら倍でも余裕です」


「備考を読んだのか? 全部【G】~【E】の境界なんだぞ?」


「もちろん読みました」


 師匠は俺の言葉を聞いても半信半疑な様子で、じいちゃんは眉間にシワを寄せている。


 お姉ちゃんだけは目を輝かせて俺のことを見ていた。


 誰にも言ってはいないが、訓練用境界をポイントで購入すればいいだけなので、限定してくれていたほうが助かる。


 ただ、俺が突入しないとなると、ポイントを消費するだけになってしまうので対策が必要だ。


(今余っているポイントでも余裕だけど、無くなるだけなのはちょっと嫌だな……)


 俺が考え込んでいると、じいちゃんが腕を組んで口を開く。


「話には聞いていたが……本当に澄人は初代さまと同じようなことができるんじゃな……」


「……え? 草凪澄さまと同じことって? どういう意味なの?」


「わしが若い頃に聞いた話では、初代様も澄人と同じように境界を思うがままに発見したと聞いている」


 じいちゃんは懐かしむような口調で言うと、師匠は苦笑いを浮かべる。


「正純さまそれは本当ですか? 初耳ですが……」


「うむ。わしが直接先代さまから聞いた話じゃ……まあ、先代さまも口頭で伝えられただけらしいがな」


 師匠は信じられないといった表情でじいちゃんを見ているが、じいちゃんは気にした様子を見せずに続ける。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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