草凪澄の目的⑤~青き草原の試練~

澄人が青き草原の試練のために鍵を使用します。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ただ、その言葉を聞いた瞬間に体が勝手に動き出し、右手に持つ鍵を差し込んだ。


 ――カチャッ……ガチャリ


 鍵が開いた音が響くと同時に門が大きく開かれていく。


 そして、門の先にあった光景を見て、懐かしさを感じてしまった。


 一面に広がる青い光を放つ芝生がかつての記憶を呼び起こす。


(またここに来ることになるとは……でも……)


 以前と同じように、草原の中央へ向かって歩く。


 この草原は昔と変わっていない。


 どこまでも続く青の絨毯が広がっている。


 そんな景色を見ながら、変わり映えしない雰囲気に疑問が浮かんできた。


(扉を経由したのにミッションが出てこない)


 前回鍵を使った時は扉を通ってすぐに【試練を開始せよ】というメッセージが表示されていた。


 今回もそのパターンだと思い込んでいたため、ミッションが始まらないことに違和感を覚える。


 草原の中心まで来ると、青い光の粒子が集まり始め、徐々に人の形を取り始めた。



【青き草原の試練準備中】



 画面を見つめていた俺の前へ光が集まって1人の女性が現れる。


 腰まである長く美しい髪を持った女性で、黒いワンピースを着ている。


 女性は微笑みながら、こちらを見つめていて、口を開いた。


「お久しぶりですね」


「……え?」


 見たこともないはずの人から、聞き覚えのある声を聞いて驚きを隠せない。


 この女性と会ったことがないはずなのに、なぜか知っているような気がした。


 彼女は俺の反応を見て、少し首をかしげながら質問をしてきた。


「私のこと……忘れてしまったんですか?」


 忘れたのかと聞かれても、あったこともないのでなにも思い出せない。


「すいません。わからないです」


 正直に伝えると、悲しそうな顔をされてしまう。


 すると、彼女の目元から涙が流れてきた。


「そうですか……残念です」


 涙を流しながらも笑顔を絶やさない彼女に胸を締め付けられる。


 何かを言わなければと思いながら、必死で思考を巡らせている時にふと思った。


(この人はどうしてこんなにも悲しい表情をしているのだろう?)


 今この場で泣かせているのは間違いなく自分であり、その原因が思い当たらない。


 それどころか、俺は彼女が誰かすら分かっていないのだ。


 それでも、このまま彼女を泣き続けさせるわけにはいかないと感じた。


「あの……」


「…………」


 俺が話しかけると、彼女は顔を上げてじっと見つめてくる。


「あなたはーー」


「草凪【澄】さん、ですよね?」


「いえ……俺は草凪澄人ですけど……」


「…………えっ!?」


 なぜか俺を祖先の名前で彼女が呼んできた。


 自信満々な彼女の言葉を俺が否定をしたら、驚きの表情に変わる。


「でも……その……私はあなたのことをずっと見ていましたから……間違えるはずが……」


 彼女は混乱しているようで、視線をあちこちに向けながら独り言のようにつぶやく。


 ただ、俺はそれよりも気になることがあった。


「ずっと見ていたって……誰のことを言っているんですか?」


「それは……その……澄のことを……」


 彼女は俺の顔を見ながらそう言い、口を閉ざしてしまった。


 言いにくいことなのか、唇を引き結んで目を伏せてしまう。


「すみません……ちょっと話が見えないのですが、あなたはどちら様でしょうか?」


 俺は彼女のことが気になり、つい聞いてしまった。


 すると、彼女はハッとした様子で目を開き、真剣なまなざしで俺を見る。


「私は……【試練の書】。貴方の成長を見守っていた者よ」


「成長を……見守っていた?」


「そう、あなたが無事に成長するようにサポートするのが私の役目」


「それがなぜ……俺の先祖のことを知っているんですか?」


 俺が問いかけても、試練の書と名乗る女性が答えてくれることはなかった。


 その代わりに、彼女の背後に突然現れた扉がひとりでに開く。


「まずは中に入って」


「あっ!? 待ってください!」


 俺が止めるよりも早く、試練の書と名乗る女性は扉の中へ入ってしまう。


 追いかけるように俺も扉をくぐると、目の前には何もない白い空間が広がっていた。



【青き草原の試練①】

 存在意義を示しなさい



「存在意義? 初めてのタイプだ……」


 周りを見渡しても何もなく、白い壁だけが存在していた。


 どこを向いても同じ風景で、方向感覚がおかしくなりそうだ。


 そんなことを考えていたら、背後から足音が聞こえてきた。


「この際、貴方が誰だか問いません。私へ貴方の力を示してください」


 振り向いた先には先ほどまで一緒にいた試練の書を名乗る女性がいる。


 だが、その姿を見た途端に俺の体に異変が起きた。


「うぐぅ……なんだこれ……体が……熱い」


 全身が燃えるように熱くなり、視界がぼやけてくる。


 立っていることができず、膝をついて体を抱きかかえた。



【警告!!】

【警告!!】

【警告!!】



 俺の周りへ【警告】の文字がいくつも浮かんできて、視界が点滅し始める。


 そして、頭の中に直接響くような声が響き渡り、俺の体を包み込むように赤い光が出現した。


【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】

【警告!】


 幾多の警告画面が俺を包むように展開される。


 文字で埋め尽くされた画面を見ていられず、振り払おうとしたときだった。


――ピキッ……バキンッッ!!!


 こかから何かが崩れた音が鳴り響き、周囲の白い壁が崩壊していく。


(なにがどうなって……これはっ!?)


 壁の外は先ほどまでいた青い芝生に覆われた草原だったが、そこにはこの地を覆いつくすほど、白銀に輝く鎧をまとった騎士のような存在がいた。


 全員が右手には大きな盾を持ち、左手には剣を持っている。


【青き草原の試練①開始】


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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