草凪澄の目的②~アラベラさんとガゾンガルムへ~
アラベラさんとガゾン・ガルムへ向かっております。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「澄人はどこまで聞いているの?」
運転席に座るアラベラさんが運転しながら問いかけてきた。
しかし、昨日まで異界に篭りっきりだったため、何の話かまったくわからない。
「何をですか?」
「……そう。まだ何も聞かされていないのね」
俺の返事を聞くと、アラベラさんは前を見ながら悲しげな顔をする。
少し間を置き、アラベラさんは再び話し出した。
「……臨時世界ハンター会議での出来事に加えて、前会長だったミスタ正澄の救出における最大の貢献者が、今世間を賑わしているわ」
「俺ですか?」
「ええ、あなたのことよ……そんなことで騒いでいる場合じゃないっていうのにね」
俺は異世界に篭っていたため、なぜこの世界にいなかった人間が世間を賑わせているのか理解できない。
助手席に座る俺の戸惑いを感じ取ったのか、アラベラさんが補足説明を始める。
「あなたが一切姿を見せずにいたから、いろいろな憶測が飛び交ったわ」
「憶測ですか?」
「これを読んでみなさい」
アラベラさんは車のダッシュボードからいくつかの雑誌や新聞を取り出し、俺へ手渡してきた。
表紙を見ると、どれも俺の写真が掲載されている。
「全部あなたについての記事よ」
渡された雑誌の中から一つを手に取り、中を開いてみる。
俺の顔写真が大きく載せられているものの、誰が答えたのか分からないインタビューの内容が書かれていた。
「『草凪澄人が謎の失踪』……俺って、失踪したことになっていたんですか?」
見出しにはそう書かれており、俺が失踪したことになっている。
記事の内容的に、草根高校の教員か生徒が話をしたようだ。
「草凪の家や学校、ハンター協会へ報道が来ていたから、あなたが異世界へ行っていてよかったわ」
運転をしているアラベラさんは、少し安心するように笑みを浮かべる。
いくつかの雑誌を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
大体同じような内容ばかりで、俺が何をしているのか推測されていた。
「似たようなものばかりですね……あれ? 世界的に境界の発生が活発って……」
一部の新聞には俺の失踪と境界の発生数の増加が関連付けられていた。
身に覚えがないこととは言えず、無言で記事の内容へ目を通してしまう。
「今回私がミスタ正澄に会うのは、その境界関連の話があるからよ」
「境界が発生しているからじいちゃんに? どうしてですか?」
「世界中から澄人を貸して欲しいというオファーが来ているの。ミスタ正澄にも意見をうかがいたくて」
「そうなんですね」
アラベラさんは苦笑いをしながら理由を教えてくれた。
スマホでも情報収集を行ない、なぜ俺へオファーがきているのかなんとなく推測してみた。
「俺が会議中にやったパフォーマンスが効いているようですね」
「絶大にね。あなた一人いれば観測と突入が同時にできるって思われているわ」
世界ハンター会議で境界の場所を正確に言い当てたことで、世界が俺へ注目しているようだ。
正直あの程度は造作もないことだが、国を丸々カバーできるほど有能ではない。
(地図で表示できる範囲だから限られるんだよな……俺の直感も近距離限定だし……)
異界で【八咫鏡】を回収できなかったことが今になって悔やまれる。
八咫鏡で使える【天地を見通す眼】のスキルなら、国を丸々一つ観測範囲にできたかもしれない。
(もう帰ってきたから遅いよな……今さら寄越せなんて言いに帰るのも……むぅ……)
腕を組んで八咫鏡について悩んでいたら、駐車場に車が停車した。
「ガゾン・ガルムに着いたわ。行きましょう」
アラベラさんの声を聞いて顔を上げると、目の前には高級感あふれるレストランがあった。
入り口の扉を開けると、ホテルにあるような受付があり、スーツを着た店員さんがいる。
「待ち合わせをしているアラベラです」
アラベラさんが胸ポケットからカードを取り出すと、それを確認してから俺の方を見た。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
店員さんの後に続いて席まで案内される。
店内は黒を基調とした落ち着いた雰囲気で、他の客からの視線を感じない。
視線を感じないどころか、俺たち以外に客と思われる気配が二つだけだ。
「こちらがお部屋になります。ごゆっくりおくつろぎください」
店員さんが扉の前でそう言いながら一礼する。
「案内してくれてありがとう」
アラベラさんは店員さんの前を通るとき、自然にチップを渡して扉を開ける。
「来たか二人とも!」
扉が開くと、部屋の奥に座っているじいちゃんが笑顔で出迎えてくれる。
じいちゃんの横には師匠が座っているが、二人ともアロハシャツを着ていた。
俺とアラベラさんはアロハシャツの二人と向かい合うように座る。
「じいちゃん、久しぶり。その服装ってやっぱりここへ来る正装なの?」
「ああ、そうだ! このアロハこそ、わしがこの店を全力で楽しむ証だ!!」
じいちゃんは自信満々に胸を張って答えている。
俺の隣にいるアラベラさんが、そんなじいちゃんを真剣な瞳で見つめた。
「まあ、今日は楽しむ前に大切な話があるそうだがな……」
じいちゃんの眼光鋭い目がアラベラさんに向けられる。
そんなじいちゃんにひるむことなく、アラベラさんが口を開いた。
「今度の臨時会議で澄人へ各国の救助へ向かわせるという案が出るそうですが……本当ですか?」
「それをどこで?」
「私の情報網です。それで、答えをお聞かせいただいても?」
俺と師匠が完全に蚊帳の外で、じいちゃんとアラベラさんの間で話が進んでいる。
その会話はどこか堅苦しく、二人の表情からは緊張が感じられた。
「……本当だ。臨時会議の場で澄人へ、そのような提案が行われる」
「提案……彼だけにですか?」
「いや、【清澄ギルド】へだ」
「清澄ギルド……そうですか……」
アラベラさんは意見をまとめるようにゆっくりと呼吸をしている。
そして、アラベラさんがじいちゃんとの話を再開するので、俺は【八咫鏡】についてもう一度考えることにした。
(あれがあればどんなに遠くにいてもモンスターが発見できる。きっと境界も同じだよな)
【神眼】や【天地を見通す眼】など、八咫鏡は見通すことについての神器だと推測できる。
ヨルゼンさんがモンスターの襲撃を俺よりも早く分かったのは、神器のおかげだろう。
(清澄ギルドのみんなが楽になるなら、なんとしてでも八咫鏡を手に入れたいな。なんとかできないか?)
俺が八咫鏡について悩んでいるとき、急に青い画面が表示された。
【神気創造】
以下の材料で八咫鏡を製作できます
・八咫鏡のかけら
・青き草原の主の核
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
次の投稿は3月12日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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