草凪澄の目的①~異界から帰宅した澄人~

澄人が異界から帰宅しております。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 異界から帰ってきてから、こんこんと眠ってしまった。


 肉体的にも精神的にも疲労が限界だったのだろう。


 目が覚めた時、最初に感じたのは柔らかい感触と甘い匂いだ。


(……何があったんだっけ?)



 ゆっくり目を開けると、布団へ寄り添うように座りながら、俺の手を握っている女の子がいた。


「あ! お兄ちゃん!! 起きた!?」


 聖奈が勢い良く胸に飛び込んできて、嬉しそうに笑顔を浮かべている。


 一緒に住み始めてからこんなに長期間家を空けたことがなかったため、聖奈を不安にさせてしまったようだ。


 嬉し涙を浮かべる聖奈の頭を一撫でする。


「ただいま、聖奈」


「おかえりなさい!!」


 聖奈の元気な声を聞き、安心して自然と微笑む。


 すると、視界の端にいる人がこちらを見つめていることに気付いた。


 視線を感じる方向へ顔を向けると、見覚えのある女性がいる。


「えっと……アラベラさん、こんにちは?」


 布団の上で上半身だけ起き上がり、アラベラさんへ挨拶をする。


 詳しい時間が分からなかったので、挨拶が疑問形となってしまう。


 俺が挨拶をすると、部屋を覗き込んできていたアラベラさんが口を開いた。


「ご機嫌よう……その、大丈夫? ずっと寝ていたって聞いたわ……」


 心配そうな表情をしたアラベラさんは、こちらをうかがいながら静かに入室してきた。


 聖奈も俺のことを気遣ってくれたのか、少し距離を置いて座り直す。


 部屋に入ってきたアラベラさんに笑いかけ、問題ないことを伝えるために右手を上げる。


「よく寝てすっきりしたよ」


(あれ?)


 体を動かそうとすると、まだ疲れが残っているようで体が重く感じる。


 それでも無理矢理体を動かし、腕や足を伸ばしたりしながら体調を確認する。


「……どうしたの?」


「なんだか少し体が重くて」


 俺は布団の横にある椅子へ座っていたアラベラさんの横顔を眺める。


 今日も綺麗な赤みがかった金髪で、腰まで伸びている髪をまとめていない。


 俺がじっと見つめていると、アラベラさんが寄り添ってくる。


「ちょっと触らせてもらうね」


 ヘレンさんから耳元で優しい声でささやかれ、俺の胸元へ軽く手を添える。


 手のひらから温もりを感じ、熱が体中へ広がっていく。


「癒し手……」


「うん。今日はセナちゃんに、スミトを見てほしいと呼ばれてきたの」


 アラベラさんは世界で唯一彼女しか持ってない【神の癒し手】というスキルを持っている。


 手で触れている相手の体力回復と治療を行えるスキルだ。


 スキルを知ってはいたが、受けるのは初めてだったため、どんなものなのか興味があった。


 アラベラさんの手に触れられているとものすごく居心地が良い。


「すごい効果だね。すごくリラックスできるよ」


「よかった、セナと一緒にすごく心配したんだよ? ね、セナ」


「うん……お兄ちゃん全然起きないんだもん……」


 2人の会話を聞いていると、聖奈の目尻には涙の跡があり、鼻も赤くなっていた。


 聖奈はずっと俺が起きるのを待っていてくれたようだ。


 申し訳なく思いながら2人を交互に見る。


「ごめんな聖奈。寂しい思いをさせたな」


 俺の言葉を聞いた聖奈が目に涙を浮かべたまま、勢い良く抱き着いてきた。


「もうっ! 本当だよ!! でも、無事で良かった……本当に良かったぁ」


 聖奈は俺にしがみ付き、肩口に頭を乗せて泣き始めてしまう。


 そんな妹の背中をさすり、落ち着くように話しかける。


「ほら、泣くなって。俺はここにいるだろ?」


「だってぇ……うぅ……ぐず……お兄ちゃあん!!」


 俺が頭を撫でると、聖奈はさらに強く抱きしめてくる。


「ふふ……仲の良い兄妹ね。うらやましいわ」


 いつからいたのか、ドア枠に寄りかかっているアラベラさんが口角を上げながらこちらを見ていた。


「ヘレンさん? 来ていたんですか?」


「今日、ミスタ正澄がこの街に帰ってくると、澄香に聞いたから会いにきたんだ」


 そう言いながら、部屋へ入ってきたヘレンさんは、アラベラさんの反対側へ座った。


 ヘレンさんはアラベラさんへ目線を移し、すぐに俺へと戻してくる。


「澄人に話があるんだけど……澄人、もう動けるの?」


「動けますよ、なんですか?」


「あっ……」


 俺が返事をすると、なぜかアラベラさんが頬を膨らませている。


 何か気に障ることを言ってしまったのか不安になり、隣にいる聖奈を見る。


 すると、聖奈は笑顔のまま小さく首を横に振っていた。


(なんだ……?)


 アラベラさんの方へ視線を戻すと、先ほどよりも機嫌が悪くなっているように見える。


 俺が不思議そうにしている様子を察したのか、アラベラさんが口を開いた。


「私がまだ癒してあげているのに……終わらせようとしているの?」


「もう快調だけど、まだ癒してくれるってこと?」


 アラベラさんが拗ねたような口調で言うと、聖奈が笑っている。


 聞き返すと、アラベラさんは恥ずかしくなったのか、俺から視線をそらしてしまった。


「そういう意味じゃないけど……もういい!」


「ごめん、助かったよ」


 謝った俺をアラベラさんが横目で見てくる。


 その瞳からは怒りが消えており、少しだけ嬉しそうな表情をしていた。


「じゃあ……話が終わったら続きをしよう……ね?」


 俺の手を取ったアラベラさんは、そのまま自分の胸に俺の手を持ってくる。


 突然の出来事に驚き、柔らかく温かい感触に包まれた俺は、ついアラベラさんを見つめてしまった。


「えっ……と……お願いします」


 恥ずかしくなりながら答えると、アラベラさんは嬉しそうな顔をしながら微笑んでくれた。


「アラベラ、聖奈、すまないな。行こう澄人」


「はい」


 聖奈とアラベラさんに別れを告げ、俺とヘレンさんは家を出た。


 ヘレンさんは家の前に止めてあった車へ乗り込む。


「じいちゃんはどこにいるんですか?」


「ガゾンカルムよ。ミスタ草壁と一緒みたい」


 ヘレンさんに質問すると、これから行く場所を教えてくれる。


 助手席に座ってシートベルトをしめた。


 車はゆっくりと走り出し、住宅街を抜けて大通りへ向かう


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。

大変励みになります。


次の投稿は3月9日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る