国際ハンター会議へ⑫~世界を挑発~

国際ハンター会議で澄人が発言をしています。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺が言うべきことは最後の議題である《境界適応症について》という内容だけだ。


 この場を借りて境界適応症で悩んでいる患者がいなくなり、全員が完治してほしいという気持ちを伝える。


 また、清澄ギルドでは境界適応症完治ツアーを行なっていることを宣伝しておいた。


「最後に……私は3代目破壊王の二つ名を継承することを希望しております」


「貴様ぁ! それがどういう意味だかわかっているのか!!??」


 宣伝を始めた俺から興味を失っていた覇王が鬼のような形相でこちらへ迫ってくる。


 誰かが反応するだろうと思いながら言葉を口にしていたので、この人を制圧するくらいは簡単だ。


「お静かに。これはあなたが私にくれた時間ですよ」


 獰猛な目つきの覇王を雷で拘束し、体の自由を完全に奪う。


 体内の伝達神経に流れる微弱な電流を把握した俺は、覇王を地に転がしてから話を続ける。


「先代の破壊王。草凪正澄の意思を継ぎ、私が世界の常識を破壊します。議長、それで認めていただけますよね?」


 破壊王は時代の流れを変える力を持つものが与えられる二つ名。


 1代目破壊王と呼ばれているのは、俺の祖先でもある草凪すみで、じいちゃんが2代目。


 この2人が世界の常識を変え、ハンターの歴史を作ってきたのは周知の事実だ。


 その称号を受け継ぐ意思をここで表明し、俺は新たな時代を作る覚悟を決める。


 覇王が俺の意思表明に激怒しているのは、破壊王にはもう一つ最強の者が付ける称号という意味があるからだ。


 現に、俺の足元で目を赤くしながら睨んでいる覇王ジェイソン・ホワイトは、じいちゃんが消えたあとの世界を引っ張ってきた。


 そんな彼がぽっと出の俺が破壊王を継ぐと聞いて激怒しない訳がない。


 しかし、覇王が俺に触れることなく地面へ転ばされたこの状況を目にした人たちは異論の声を上げられずにいる。


「議長、返答を」


「そ、それは私の一存では……」


「確かにそうですね。それでは、これから世界を大きく変える出来事を起こしたいと思います。その時に、またこのような会議を開いていただければ幸いです」


「国際ハンター会議は1年に1度、それ以上開かれることはない」


 パソコンの画面に映っている議長はそう断言したものの、呼吸が浅く、頬に汗が流れ落ちていた。


 こんなことが起こるなんて想像もしていなかったのだろう。


 地面に横たわる覇王が雷による神経浸食を克服して立ち上がりそうだ。


「それでは臨時会議が開かれれば、それほど世界を震撼させる出来事だということです。お楽しみに……以上で私の発言を終了したいと思います」


 覇王が体を動かせるようになったら、確実に会議が進まなそうなので俺は退散することにした。


 ヘレンさんへ視線を送ると、この状況から良い事は起こらないだろうとため息をつきながら席を立つ。


 ソニアさんとアラベラさんの手を引いてヘレンさんが会場を出て行く。


 それを見た俺は、膝を着く覇王が立ち上がる前にワープを発動して自分の家へ帰った。


「よっと」


 家の庭に降り立った俺は、縁側から靴を脱いで居間へ上がろうとした。


「澄人ぉお!! お前、平義から大人しくするように言われていなかったのか!!??」


 靴を脱いでいる俺へ師匠が詰め寄り、襟元をつかんできた。


 居間には平義先生やお姉ちゃんたちの姿があり、テレビからはアナウンサーが国際ハンター会議の様子を実況している声が聞こえてくる。


 みんなで会議に出ている俺を見守ってくれていたんだ。


 今受けている師匠の怒りも俺を心配してくれている結果なので、反発することなく受け入れる。


 師匠がしてくれている俺へ説教を一通り聞き、反省をしてから行動に移った。


「師匠、世界を変えるために試してみたいことがあるので協力していただけませんか?」


「お前……話を聞いていたのか!? 簡単に世界を変えるなどと――」


「師匠、じいちゃんはそんな人だったんですか?」


 この地球が境界に侵略されている状況を変えたい。


 あわよくば、ハンターの俺が戦うことのない世界になってほしい。


 毎日境界による被害者が出てしまっているこの状況を何とかしたいと本気で思っている。


 おそらくじいちゃんもそう考えながらレッドラインへ突入したはずだ。


「じいちゃんは何も変化を求めようとはしていなかったんですか?」


「それは……」


 師匠が俺の襟元をつかむ力が緩み、昔を思い出すように目を閉じて顔を下げる。


 そんな師匠の肩へ平義先生が優しく手を置いた。


「会長、澄人は止められませんよ。俺は諦めました」


「平義……そうだな……」


 師匠が寂しそうな笑みを平義先生へ向け、気を引き締めて俺の目を見てきた。


「協力しよう。なにをすればいいんだ?」


「じいちゃんのことを思い浮かべてください」


「どういうことだ?」


「誰もじいちゃんが死んだことを直接見たわけではありませんよね? どこかで生きていれば、ワープできると思ったんです」


「それは……しかし……」


「澄人、俺でも大丈夫か? 会長は記憶に自信がないらしい」


「そんなことはない! 今でも鮮明に正澄さまのことを思い出せるわい!!」


 平義先生の手を振り払う師匠は目を閉じ、腕を組んで眉間にしわを寄せた。


 ムムムと考えるように唸り声を上げる師匠を対象にしてワープを発動させる。


【ワープ可能地点】

[異界][日本][その他]

※[その他-人物]へ新しく《草凪正澄》が追加されました


「あ、いけた」


 俺の予想通り、じいちゃんのことを思い浮かべられる人にワープを発動させると目的地として登録された。


 十年以上会ったことがない人物でも登録がされるのかと感心する。


 居間に集まってくれた人たちへ「じいちゃんのところへ行ってきます」と声をかけてからワープを実行した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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大変励みになります。


次の投稿は11月18日に行います。

次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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