清澄ギルドの今後⑤~境界適応症克服ツアーの準備~
澄人が境界適応症克服ツアーの準備を真と行なっています。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
境界適応症克服ツアーを3日後に控え、俺は真さんと一緒に準備を進めていた。
(次はここの部屋か)
今はハンター協会に頼んで確保してもらった病院を巡回し、そこで待機してもらっているツアーに申し込んでくれた人の様子を真さんと一緒に見ている。
申し込んでくれた患者さんのスキルが境界耐性の暴走となってないか、真さんに看破で確認をしてもらうのが目的だ。
看破の結果、本当に境界適応症の人にはこのまま病院に残ってもらい、違う人にはそれ相応の処置を行なっている。
(お医者さんを疑うみたいで本当はこういうことしたくないんだけど……ハンターの状態異常についてはただわかっていないことが多いから仕方がない)
医者の診断書を出してもらうことにしているのだが、誤診されている人も申し込んできていた。
それでも自分は本当に境界適応症なんだと言い張る人には、黙ってもらうように体力回復薬(特)をエーテルだと言って飲ませて、体から不調を消してあげたりもしている。
「真さん、付き合わせてごめんね」
「いいの。私も勉強になっているから気にしないで」
境界適応症の報告書の中に、境界耐性というスキルが存在することを明記した。
スキルの詳細が分かれば看破で視られるようになるので、真さんには特に詳しく境界耐性についての説明を行なった。
(他の人も報告書を見ればできるようになるから、浸透してほしいな)
境界に入っても体力が減らなくなるという、ハンターからすればのどから手が出るほど欲しいスキルであり、このように確認をしなければならない原因だ。
(ツアーに参加すれば境界耐性を獲得できると思われていた。そうだったら、俺も境界耐性を獲得している)
輝正くんとアラベラさんが境界耐性を身に付けることができたが、俺のスキル欄には明記されていない。
順番にHからAの境界へ入るだけでは境界耐性の獲得はできず、境界適応症に発病しなければいけないというのが俺の導き出した答えだ。
(境界適応症……境界耐性を暴走状態で手に入れる方法は、全患者の行動履歴を調べてもわからなかった。そっちはまた今度だな……)
今は俺が境界耐性を手に入れることではなく、境界適応症で苦しんでいる人の治療だ。
ツアーの定数は、境界へ入れる最大人数が20名なので1度に連れて行ける最大数とした。
こんなにも境界適応症と誤診されている人が多いとは思わず、急遽病院を用意してくれた師匠には頭が上がらない。
(今日の分の確認が終了。もうこんな時間か、明日もあるしもう帰ろう)
境界適応症と診断された患者さん一人一人へ丁寧に対応をしていたらもう夜になってしまっていた。
明日も残りの席を埋めるべく、境界適応症の患者がこの病院へ来る予定だ。
(実証実験を兼ねてツアーを行なうから、参加枠が19人分しかないプラチナチケットになった……チケット?)
病院を出て、真さんと一緒に夜道を歩いていたら、なにか大切な約束を忘れているような気がしてきた。
「あっ……まずい……」
イルミネーションで彩られた街並みを眺めていたら、ある広告が目に飛び込んでくる。
【ソニア・マーシュ 緊急日本公演】
この前家に来ていたソニアさんのライブに聖奈と行くことが頭から抜け落ちていた。
ただ、広告に《18:30》開演と書かれているので、境界適応症のツアーが終わってからでも間に合いそうだった。
(アラベラさんを治したときは5時間半で終わったから、9時にツアー開始ならこのライブには間に合うはず)
18時30分開演なら3時間以上も余裕があるため、冷や汗をかいたのは一瞬だった。
「澄人くん、この辺でいいよ。送ってくれてありがとう」
考え込んでいたらいつの間にか学校の近くについており、真さんが笑顔でお礼を言ってくれていた。
「ううん。俺こそありがとう、また明日ね」
「おやすみなさい」
真さんの姿が寮に吸い込まれ、背中が見えなくなってから急いで踵を返す。
家に着いた俺はライブ当日の予定を聞くために聖奈の部屋の扉をノックした。
「聖奈、ちょっといいかな?」
「お兄ちゃん、お帰りー。入っても大丈夫だよ」
お邪魔しますと言いながら入ると、ベッドに寝転んでいた聖奈が俺の方を向く。
聖奈はスマホをベッドへ置き、俺の用件を聞くために微笑んでくれた。
「土曜日って18時30分に会場へいればいいんだよ……ね?」
俺の質問を聞き、聖奈はハッとした表情になり、手元のスマホを手に取る。
聖奈は何かを確認するように手早くスマホを操作しながら口を開いた。
「15時には家を出たいから、それまでに準備を終わらせておいてね」
「えっ? 15時にここを出るの?」
確認が終わってスマホを置いた聖奈がそうだよ言いながらと楽しそうにうなずく。
「開演は18時半だけど、会場は16時からだからその前には着いていたいな」
正直18時30分に始まるライブへそんなに早く行くとは思っていなかった。
「ライブへそんなに早く行くの?」
「遅いくらいだよ。物販もあるし、ファンクラブの会員限定でファンミーティングをしてくれるみたいだから遅れられないよ」
ツアーのことがあるのでなんとか集合時間を遅らせられないか聖奈へ交渉を行なう。
「な、なるほどね……俺はファンクラブに入っていないから、そのミーティングには――」
「大丈夫! ライブに行くって言ってくれた時にお兄ちゃんも登録しておいたから、安心して」
しかし、聖奈は俺とソニアさんのライブを満喫するため全力を傾けてくれていた。
一緒に行くと言った手前、そんな聖奈の気持ちを裏切ることがないように行動をしなければいけない。
「あ、ありがとう。助かったよ」
「ううん。土曜日楽しみだね」
おやすみと言いながら聖奈の部屋を出ると、廊下でお姉ちゃんが心配そうに俺を見つめてきていた。
「澄人、土曜日って」
「聖奈には言っていないけど……そうなんだよね」
廊下で話をしていたら聖奈に聞こえると思い、指で居間の方向を示して移動しようとうながす。
無言でうなずいてくれたお姉ちゃんと一緒に居間へ向かい、テーブルへ座った。
「全力で終わらせれば間に合うと思うんだ……たぶん」
「ツアーに参加する人の病気が病気だから延期とかは……ね。その……頼んだわよ」
その言葉にはどうにかしてほしいというお姉ちゃんの気持ちが込められており、苦労がうかがえる。
俺もいつか死ぬと断言された患者さんを救いたい気持ちが強いため、最初で躓きたくはない。
「任せて。今週末に世界を変えるよ」
「大げさ……でもないわね。海外からの問い合わせも後を絶たないって夏が言っていたわよ」
話が長くなりそうなので、お姉ちゃんがお茶を入れるために席を立った。
夏さんが多数の言語で境界適応症に関する報告書を書いてくれたおかげで、今回のツアーにも海外から来てくれている人がいる。
(……あれ? そういえばソニアさんはどうやって輝正くんが治ったことを知ったんだろう?)
数日前、ソニアさんは輝正くんと一緒にここへ来てアラベラさんの治療を俺へ頼んできた。
あの時点では何の公表もしていなかっため、ソニアさんがどのように輝正くんのことを知ったのか経緯がわからない。
ソニアさんとヘレンさんの連絡先は聞いているので、お姉ちゃんとの話が終わったら電話をしてみようと思った。
「澄人、お待たせ」
「ありがとう」
トレイにお茶を乗せたお姉ちゃんがキッチンから戻り、俺の横へ座った。
そういえばと俺へ聞こえるように言ったお姉ちゃんがお茶をテーブルへ置いてから俺を見る。
「話は変わるんだけど、清澄ギルドの一員になりたいって人から電話があったわ」
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ご覧いただきありがとうございました。
もしよければ、感想、フォロー、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
次の投稿は9月1日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
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