草凪澄人の影響力⑤~ミステリー研究部~

「まあ、説明を聞け」


 平義先生が俺たち全員を見ながらなだめるように手を上下させて落ち着けと言ってきた。

 どういうことなのか疑問に思いながら手を下ろすと、平義先生が苦笑いでこちらを見てくる。


「お前たちAクラスの生徒は、ミステリー研究部へ【本入部】するための試験を受けることができる」

「本入部……」


 部活動紹介では【仮入部】と言っていたのに、平義先生の口からは本入部という言葉が出てきた。

 聞き間違いではなく、はっきりとそう発言しており、俺たちを見回して話を続ける。


「毎年、この時期にAクラスになった生徒へ行っているようだから、受けるのなら時間厳守で集合するように」


 言い終わると、平義先生が水守さんへ合図をしてHRを終わらせた。

 このクラスでも委員長になってくれた水守さんへ草地くんが荷物を持って近づく。


「水守、入部するんだよな?」

「しようと思うんだけど……」


 水守さんはそう言いながら横目で水鏡さんに視線を移し、何かを迷っているのか眉を下げていた。

 見られている水鏡さんも気まずそうに顔をそらして、ごまかすように聖奈へ話しかけようとする。


(そういえば、水守さんと水鏡さんが話をしているのを見たことがないな……なんでだろう?)


 何とも言えない空気が教室に漂い、何が起こっているのか分からない俺は無言で荷物を片付け始めた。

 その空気を突き破るように聖奈が勢い良く立ち上がり、水鏡さんの机に手のひらを打ち付ける。


「もうじれったい!! 真、早く言いなさいよ!! 真友と同じ部活に入って仲直りしたいんでしょう!?」

「聖奈さんそれは……」

「真友と仲良くしたいって言っていたじゃない!! 2人の間に挟まれている私の身になってよ!!」


 入学してからの期間、聖奈は胸に溜めていたものがあるようで、水鏡さんに対してどれだけ水守さんと【仲直り】したいと思っているのか口にしていた。

 それを聞いていた水守さんは思いっきり息を吸って、床を蹴る勢いで立ち上がった。


「おおっ!?」


 真横でドンっという音が床から鳴ったため、思わず驚いてしまう。

 そうしているうちに、水守さんが水鏡さんのそばに駆け寄り、強引に手をにぎる。


「真ちゃん、私のこと許してくれる!?」

「え……私こそ、真友ちゃんに謝らないといけないのに……」


 2人して泣きそうな顔で声を震わせながら言葉を口にしていたため、事情を知っていそうな聖奈へゆっくりと近づいた。

 何が起こっているのかわからない草地くんも唖然としており、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「聖奈、これはどういうこと?」

「2人とも、小さい時は一緒に過ごしていたけど、家の都合で離されたの」

「家の都合……ね……」


 夏さんから水鏡家について少し聞いたことがあり、今の母親になってから外部の子供を積極的に家へ入れようとしているらしい。

 今は傍若無人な態度が周囲から批判を受け、自宅謹慎中だという。


(俺のことをだしに師匠を陥れようとしていたみたいだけど、そこまでして何がしたいんだろう?)


 大人の考えていることがよくわからないが、とりあえず、このわんわん泣いて抱き合っている2人はその被害を受けて、本当は仲良くしたいのにできないままここまできてしまった被害者のようだ。

 その光景を満足そうに見ている聖奈は、肩の荷が下りたように安心していた。


「もうこれで悩まされないわ。解決よ!」


 聖奈はその相談を入学してから毎日のように双方から受けており、我慢の限界と言っている。

 泣いていた2人が落ち着くと、教室内に響いていた嗚咽の声が止まり、恥ずかしそうにこちらを見てきた。


「よし! じゃあ、2人とも一緒に校舎の裏へ行きましょう!」


 聖奈が泣き終わった2人へ、何も言わせることなく荷物を持たせて教室を出るようにうながす。

 2人の背中を押すように教室を出て行った聖奈を見送っていたら、草地くんがまだ残っていることに気がついた。


「じゃんけんしない? 負けたら教室の鍵を職員室へ返す係りね」

「え……うん、いいよ」


 気合を入れてじゃんけんをするものの、負けてしまい、鍵を職員室へ届けてから門へ向かう。

 2日ぶりの門へ着き、今日は異界に入れるのかなと考えていたら、誰かが急に目の前へ現れた。


 考え事をしていたためぶつかってしまい、相手を転ばせてしまった。


「すいません!」


 慌てて手を差し伸べて相手を見たら、ハンタースーツを着ている天草先輩が笑顔で俺を見上げる。


「草凪くんもミステリー研究部に本入部してくれるのかな?」


 ぶつかってしまったことを微塵も気にせず、地面に座ったまま俺へ話しかけてきた。

 周りを見ても遮蔽物などなく、油断をしていたとしても気付かないものなのかと不思議に思いながら先輩の様子をうかがう。


「その予定ですが……立てますか?」

「平気さ、少し手を借りるよ」


 俺の手を取ってくれた先輩が立ち上がり、きりっとした目が俺のことを見つめていた。

 一瞬、ドキッとしてしまったが、思考が【慈愛】だったため、声に出さず驚愕してしまった。


(……赤ちゃんを面倒見ている人が考えている思考だけど、なんで?)


 会って間もない天草先輩がどうしてこんな思考を抱いているのか不明だが、今は置いておいて、先に来ているはずの4人の姿が見えないことが気になった。


「先輩、他の4人はどうしたんですか?」

「ん? ああ、先に試験を行うために異界へ向かったよ。きみは……試験をするまでもなく合格さ」


 天草先輩はハンタースーツの懐から【入部届】という紙を差し出してきた。

 推薦者という欄に【天草瑠璃】と書かれており、後は俺の名前の記入と顧問へ提出するだけになっている。


(なんで試験をしないんだ? これは何かの罠か?)


 しかし、俺は先輩の差し出してくれている紙を見つめたまま受け取れず、試験をしているという4人のことが気になった。


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