草根高校入学編⑨~合格者の行方~
「水守は通ったか……後はあいつだな……」
先生がほっと胸をなで下ろし、水守さんが合格したことに少しだけ安堵していた。
しかし、まだ気になっている生徒がいるので、人の集まっている場所から目を離さない。
(水守さんもここの総合学科を受験していたんだ……どうやって五千人の中から選ばれたのかな……)
【HGHG】という水守さんのステータスを思い出し、合格に至るまでの過程を知りたくなる。
神格を上げたのは間違いないだろうが、あの能力では苦労をしたと思う。
(聖奈もあまり話をしてくれなかったと言っていたし、聞かない方がいいな)
明るくクラスをまとめていた水守さんの顔がチラつき、彼女が言うまでは聞かないことにした。
大半の人が自分の合否を確認して校舎から立ち去る中、先生が待っているもう1人からの連絡がなかなか来ない。
「あいつはちゃんと来ているのか……」
先生がしびれを切らしてスマホで連絡を取ろうとした時、校舎を出る人の中からこちらへ走ってくる男の子が見えた。
顔をよく見ると草地くんが涙を流しながらこちらへ来ている。
その姿を見た先生も草地くんの方へ小走りで駆け寄った。
「どうだった!?」
「ありがとうございます!! 合格しました!!」
「そうか!! 本当によかった!!」
草地くんが心から嬉しそうに合格したという報告をして、先生へお礼を伝えている。
その奥では、聖奈が掲示板の前で記念撮影をしているのが見えたため、まだ帰りそうにない。
(もうここにいてもやることはないし、行くか)
俺はここにいても邪魔になると思ったので、今日のミッションを行うために街を徘徊することにした。
学校から離れようとしたら、師匠から渡された学校に関する資料で一部よくわからない部分があり、調べるなら今が絶好のタイミングに思える。
(学校の裏手に何故か警備員付きの門があるんだよな……その先には何があるんだろう? これだけ人がいるんだから、俺が校舎をうろついても不思議じゃない)
学校の見取り図にも記載されていなかったことなので、自分の目で確かめに行くしかない。
今日のライフミッションを確認しながら、人混みをぬうように校舎の奥へ向かう。
【★ライフミッション:困っている人を助けなさい】
成功報酬:貢献ポイント2000
注意:1人に対して1回のみカウントされ、人数に応じてポイントも増加します
(
今までミッションをこなしてきて、★付きのミッションが初めて出現した。
成功報酬も良く、夏さんに相談をしたら【レア】という意味なのではないのかという結論に至る。
(これだけこなして1回目だから、本当に出にくいのかもしれない)
ミッションを確認しながら歩いて、第2校舎の奥にある森を抜けると、寺院にあるような外壁よりも大きな門が現れた。
資料では門があるとしか書かれていなかったので、こんなに立派なものがあり進むのをためらってしまう。
(何でこんなものが……この先はどうなっているんだ?)
好奇心に負けて門へ近づこうとしたら、側面に備え付けてある扉から身長の低い女性が出てくる。
「止まってください。ここは立ち入り禁止ですよ、迷われたんですか?」
閉じている門の前で俺の前に出てきた人は、長い髪を後ろで三つ編みに束ね、優しく声をかけてくれた。
しかし、俺はこの先に用があるので、門を開けてもらうべく話をする。
「迷っていません。自分の学校にある施設を見て回っているんですけど、ここを通らせていただけませんか?」
「えっと……今年の合格者ってことかな? ここは許可がないと通れないんだよ?」
小柄な女性が困ったように苦笑いをしながら俺を諭してくるので、ああっと納得しながらうなずく。
「すいません、俺が間違えていましたね」
「わかってくれたのかな?」
突然現れた俺のことを不審に思っていた女性の思考が安心になりかける。
しかし、返事をせずにスマホを取り出した俺を見て、再び女性の顔が強張った。
「許可を出してくる人に連絡するのでちょっと待ってください」
「あなた誰よ……」
不審者を見るような目で俺を見つめる女性を気にせず、師匠の電話番号を探す。
(ここは草凪家の敷地だけど、今は貸しているから許可が必要なんだな)
理事長の師匠なら門を通す許可くらい簡単に出してくれるだろうと踏み、電話をかけていたら門が外側から開けられる。
ギギギっときしむ音が鳴り終わると、緑や青の線が入った黒いハンタースーツを着た男女が血相を変えて出てきた。
「きみたちどうしたの!?」
小柄な女性が慌てて呼吸を荒くしているハンタースーツを着た人たちに寄り添い、話を聞こうとしている。
俺もその人たちの表情を覗くと全員が【困惑】という感情なので、ミッション達成のチャンスが訪れていた。
「すぐにっ! すぐに養護の先生を連れてきてください!! 【るり】が死にそうなんです!!」
「ええっ!? るりちゃんが!? ちょ、ちょっと待ってね!」
死にそうということを聞き、うろたえる小柄な女性は俺を不安そうに見て困ったように眉をしかめる。
誰かが死にそうなのをただ待っていられず、俺はハンタースーツを着た人の肩をつかむ。
「その人のところへ案内してください。簡単な治療のスキルなら使えます」
「誰だきみは!?」
この人たちは俺がいるのさえもわからなかったのか、急に声をかけられた人が戸惑うようにこちらを見てくる。
「来年入学してくる子みたいなんだけど、無断でこの中へ入れたら問題になるよね……スキルも本当に使えるのかわからないし……」
俺の手が振り払われ、自分の手を見たら血がべったりと付いている。
(ハンタースーツが黒くてわからなかったけど、これ全部血か!?)
ここに居るハンタースーツを着た人全員に、血のようなシミがついていた。
そんなことをしている場合ではないと思い、スマホが通話状態になっていることを確認して大声でスマホに話しかける。
「草壁澄広理事長! 校舎の奥にある門のところで誰かが死にそうになっています! 俺が入ってもいいですよね!?」
スマホの音声をここにいる全員が聞こえるようにスピーカーと書かれたボタンをタップした。
「澄人どういうことだ!?」
「はい! 許可が出たので入ります!」
師匠が声を出すので、それを聞かせた後にスマホを小柄な女性へ押し付けるように渡し、膝をついている男性の腕をつかんだ。
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カクヨムコンへ応募させていただきました。
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