草根高校入学編⑧~合格発表日~
「聖奈、水守さんが来ていたぞ?」
「真友が!? 本当に!?」
すねて下を向いていた聖奈は、ここへ入る水守さんを見逃したようだった。
今はもう人に紛れてしまい、俺にもどこにいるのかわからない。
「たぶん、水守さんだと思うけど、何か聞いていないの?」
「この試験の事だけは何も教えてくれなかったの。2次試験まで合格していたんだ……探してきてもいい?」
聖奈が合格発表を待つ人垣へ不安と期待が入り混じった顔を向け、水守さんを探しに行きたそうにしている。
「いいよ。俺のことは気にしないで探してきな」
「ありがとう! 先に帰っていてもいいからね!」
お礼を言いながら立ち去る聖奈を見送り、家に帰るために人の波を逆走しようとした。
(まだ来るのか……)
道幅いっぱいに広がった人の波が絶えず、校門から離れることが困難になっている。
諦めて人が少なくなるのを待っていたら、波の中から背の大きな男性が俺の前に出てきた。
「澄人じゃないか、今日はどうしたんだ?」
「先生? なんでここに?」
なぜか担任の先生が草根高校へ来ており、驚いていたら先生も人の多さにうんざりしている。
「中学校の一般受験をした生徒の合否を調べに来たんだ。ネットでも見られるんだが……ちょっと気になる子がいてな」
先生は少し伸びたあごの髭を手でさすりながら校舎の方を見て、首を振ってため息をつく。
俺の横で校門へ寄りかかると、しんどそうに深く息を吐いた。
「そんなに不安なんですか?」
「2次を突破しても最終の合格率が10倍以上もある……例年の倍以上だぞ?」
なんでこんなにと言う先生と目が合うと、そうかと何かを納得するように頭を抱えた。
聖奈に言われていたことだが、俺が入学するということで募集がかなり増えたらしい。
身に覚えがあるとすればそれなので、うなじを手で押さえながら小さな声を出す。
「……俺……ですかね」
「そうだな……理由はそれくらいだろう……」
「なんかすいません……俺のせいで……」
「そんなことはない。お前はこの高校でよかったと、俺は心から思っているぞ」
先生は俺のことフォローするように言葉をかけてくれているが、表情を曇らせて発表を待つ人垣に目を向ける。
「それでも、あの子たちは本当に人生がかかっているから、必ず合格してほしい……」
「“あの子たち”ですか?」
「ああ……家から見放されたハンターだ……お前にも聞き覚えがあるだろう?」
先生が煙草を吸おうと懐から箱を出すが、周りの視線に気付いて首を振りながら戻す。
「俺は数か月前までハンターですらなかったです」
「だが、今は万全のフォロー体制が付き、順風満帆なハンター活動ができているだろう?」
「たしかに……」
1着数百万するハンタースーツを何着ももらい、定期的に境界が大量に発生する地域へ遠征している。
しかも、清澄ギルドにいるお姉ちゃんや夏さんは俺のこと第一に考えてくれているため、不便を感じたことは1度もない。
聖奈から聞いていた草凪ギルドの活動とは、比較にならないほど優遇されていた。
「澄人の気を悪くさせるつもりはないが、俺が今応援しているのは、わずかな支援さえももらえなくなったハンターなんだよ」
先生は時計を見て、そろそろ時間だと言いながら人垣の方へ顔を向けた。
俺も誰が同級生になるのか気になってしまい、先生と同じ方向を見る。
校舎から複数の人が大きな紙を抱えて特設した掲示板の前に立ち、時計を見ているようだった。
「頼む……なんとかあの【2人】だけでも合格させてやってくれ……」
遠くから見守る先生は両手を組むように握り、祈るように願っている。
すると、紙の上部を固定した人が手を離し、紙が広げられ合格者の番号が発表された。
「「「「ワー!!」」」」
喜びと悲しみが入り混じった声が学校中を反響し、大勢の人が紙を見て一喜一憂している。
(掲示板と一緒に記念撮影をしている人は合格しているのか? 帰り始めた人がいるな……)
校門から掲示板までが離れているので、顔が分かっても思考分析が使えない。
学校から出て行く人の思考が【歓喜】や【絶望】などだが、表情を見るだけでは結果が分からなかった。
(辛そうな顔で出て行く人の思考が【安堵】している……どっちなんだ?)
話を盗み聞きすると、友達と来ていたその人は、数十人いる周りの人が全員落ちて自分だけ合格してしまったようだ。
すごく辛そうな顔で、俺だけなら辞退しようかなと口では言っているものの、そんなことをまったく考えていなさそうな思考だった。
(あの人も同学年になるのかな……やたら口が軽そうだから、覚えておこう)
セミロングで頬がこけている男性は口が軽いと、持っていたメモに書いていたら、人垣の中から聞いたことがある声が聞こえてくる。
「真友!! あったよ!! やったね!!」
ピョンピョン飛んでいるのか、人垣からツインテールがチラチラ見えており、水守さんが合格したことを聖奈が思いっきり喜んでいた。
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