不幸幸福②
背を向けて立つ男が一人。
「きたな。」
男はパンッと手をたたいた。
「お前がアルフレッド・クレインか」
「アンタかい。このひどい手紙を寄越したのは。」
「そうでなければここにはいまい。子供のいたずらのような手紙ですまないが、そうでないと話し合いにならないと思ってね。私は筆無精なのでな。」
「いや、話し合うつもりはない。アンタみたいなのがいちゃ、俺の嫁さんが怖がるんでね。」
会話も早々に男に向かって歩き出す。
が。
『待て』
「!?」
それを聞いた瞬間に
身体が動かなくなった。
「まあ話を聞いてからでも遅くはない。
わざわざご足労願ったのだ。
それに聞かないとおそらく君は
後悔して、死ぬぞ?」
「・・・・!?」
今死ぬといった?
一体何なんだこの男は・・・・。
『戻れ』
「!?」
再び動けるようになった。
主導権はあちらにあった。
ここは従うしかない。
「聞く気になったかね。では、本題に入るとしよう。」
「君は自分が
【不幸】だと
思ったことはないかね?」
「?」
突然の話についていけない。
不幸?なんだ?手紙の話か?
「ふっ。何の話だという顔だな。自覚もなしか。」
「あの手紙のことか」
「あれは招待状みたいなものだ。」
「君の不幸は」
「生まれついたものではない。」
え?
「よく考えてみたまえ」
「跡取りをきめる決闘という血の争い。
友と信じたものによる裏切りと濡れ衣。
女かばい、創作権の永久停止。
実に、三度。
君の不幸の総量は明らかに
他人より多すぎると思わないか?」
たしかに不幸体質ではあったが、最近はそこそこ幸せな人生をおくれている。
「俺はそうは感じないけど、何がいいたいんだ?」
「はっきり言おう。
君には
【呪詛】がかけられている。」
ジュソ?
「つまり呪い、だ。」
「……」
「……」
「……ぷっ」
「ははははは!!怖い顔のいい歳のおっさんが呪いだ、って!?どういう冗談それ?」
「事実だ。信じないのは勝手だが、困るのは君と君の女だ。」
「アイツは関係ないだろ。」
「夫婦なのだから関係はあるだろう?」
さっきからなんでこの男は個人的な情報をすべて知っているのか。
そっちの方が不気味だった。
「ちなみに呪いをかけた術者は私だ。
君の【父親】に頼まれてね。」
「……は?」
「君を家に戻すために、君の父に依頼されたのだ。仕事として。」
「……でたらめなことを……!」
「本当にそう思っているのかな?
君の父ならやりかねないと心の隅で
思っていないかな?」
「!!」
たしかに、父との関係は最悪に近い。
でも、でも、息子を呪うほど憎んでいたのか……?
「……」
「君にこれを伝えるのも私の仕事でね。
そうでないと君は自分の身体の不調が
病気か何かだと勘違いしてしまう。
君の身体には呪いがかけられている事
を君には理解して貰う必要があった。
君を家に戻すために。」
「家にもどっても呪いが解けるとは限らないだろ!」
「呪いを解く方法は、そうだな……町外れの森に占い師がいるだろう。
奴なら詳しく教えてくれるはずだ。
ヒントは【媒介呪詛】だ。」
「(占い師ってラニャのことか?なんなんだ一体……。ヒントって……。)」
「私の話は以上だ。何か聞きたいことはあるかな?」
頭が混乱しているが
目の前の男が呪いをかけたということはわかった。
「……っはっ!!」
「……」
一瞬で踏み込んだ拳は
男のガードで防がれた。
完璧な不意打ちだったはずなのに。
「素人だな。呪いをかけた術者を倒せば解けると思ったのだろう?」
ガシッ
ズンッ!
フレッドは突き出した腕をつかまれそのままみぞおちに正確に膝蹴りをうけた。
「がぁっ……」
「少し遊んでやろう。」
「クソッ・・・・!」
フレッドは隠していた護身杖を出した。
「鶴見流……!」
フォン
空振り
フォン
また空振り
自分より大きい相手など
何度も経験してきたのに
この男は
速い!
「くっ!この!」
回し蹴りを躱され、軸足を払われる。
地面に仰向けに倒れるフレッド。
瞬間男がグーで胸を叩きつけた。
「ぁ・・・・!」
息ができない。声も出ない。
「私がナイフを持っていたら君は今死んだ。だがそれは【面白くない】」
「(面白くない・・・・?)」
「術者としては君が呪いで苦しんで死んでもらわないとな。」
「(こいつ、殺人を楽しんでいる……?)」
初めての恐怖。 純粋な悪人。
しかも最高純度の悪が目の前にいる。
「こんなおもちゃで遊んで欲しかったのか?」
男は護身杖を易々と折って
草むらに捨てた。
「さて。そろそろか。」
「??」
「私と君が今日出会ったことで
呪いは加速度的に侵攻する。
苦しいぞ。
覚悟するといい。
君は呪いと戦わなくてはならない」
「あ……??」
ドクン!
ぐぅっ!?
胸が苦しい。
胸が自分の内側に
沈んでいくような感覚。
はぁはぁはぁ……
うずくまるフレッド。
滝のような汗
「さて、まずは最初の試練だ。無事に家にたどり着きたまえ。」
パンッと手を叩いて
その男はどこかへ歩き出す。
「待て……おい……!」
「生きていたら、また会おう。」
気持ちだけは男を捕らえていたが、身体は苦しさで動けなかった。
・・・・
続く
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