pretty girl (犬系女子)

 雨の中をアルバートは走る。


 それほど降ってはいないのに、走っているとなぜかずぶ濡れになる霧雨。

 それは彼女を確実に風邪にするだろう。何せ世界最弱の女の子だ。


「(フレッド……!フレッド……!)」


 大好きな人が待つ家に走って帰った。

 子犬のように、走って帰った。

 きっと彼女は犬系女子。


 隙間家具のような家にたどり着く。

 灯りは一階だけ。


 実はこの時すでに彼は、なんて展開はもうない。


 ガチャン!

「たっ……ただいま。」

「おっ、お帰り……ってずぶ濡れじゃん。傘持ってかなかったのかー?」


 といって家政婦役のフレッドは脱衣場までいってアルバートのタオルを取ってくる。


「そんなに降ってんのか外。……なんか息切れてない?」

 ゴショゴショ……


「……」

 

 息切れで動けないアルの頭を犬のようにタオルでふくフレッド。

もう少し女性の髪は丁寧にあっかってもいい気がするがそこは我慢する。


 何より今更気づいたが、この人は面倒見がいいのだ。

もしかしたら捨てられた犬を拾ってしまう体質なのか。目が合ったら最後…!


「私って捨てられた犬……?」

 口にでていた。


「確かに犬っぽいな。走って帰ってくるなんて」

「!?なんでもない!今の忘れて!」

「???シャワー浴びてきな。風邪引くぞ」

「うん……」


 この時、フレッドと目を合わせられなかった。

 頭をふいてもらったのも顔をあわせづらかったからだ。


 目が合ったらきっと思いを止められない。


 告白して、抱きしめて、唇を重ねたくなる。

 そんな火炎のような思いを私だけがぶつけたらきっと嫌われる。

 

 嫌われたくない。

 

 この人だけには。

 

 何に代えても。


  知らない自分がどんどん顔を出してくる。


 私はこんなにもこの人が欲しかったんだ。

 

 この人を好きだったんだ。



 身体は冷えているのに心は燃えている。

 どうしたらいいのかわからずシャワーを温にしたり冷にしたりして、その日は長めにお風呂に入った。


 それがいけなかったのか、予定通りだったのか、翌日彼女は風邪を引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る