Second case [inside] (禁止図書事件:裏)①

「やあ、アルフレッド君。ご無沙汰だね。調子どうだい?」


「どーもリチャードさん。お久しぶりです。調子はまあまあです。」


「そうか。さて、正直この件で君にはもう会いたくなかったなあ……」


「ははは……」


「で、事情はきいたけどこれ、君の本じゃないよね?」


「いや俺のですよ。」


「君の持ってるあの本は全て回収、処分したはずだよ」


「隠し持ってたんです。」


「それをなんで彼女が持ってるのよ?」


「俺が持たせました。」


「それだと彼女に罪をきせるために持たせたことにならない?」


「・・・・」


「ここで黙秘権カヨ!」


「ははは。」


「はあ~。いいかい、君の話は論理が破綻してる。無理があるんだよ。」


「でもアルが持ってた証拠もないんでしょ?」


「彼女に尋問すればわかるけどね。」


「おい……。あ、いやちょっと。それは困る。リチャードさんでもそういうのは許さないっすよ?」


「冗談だよ。でも本心は見えてきたね。ふぅ……」


(殺されるかとおもった……。)


「アルフレッド君。なんであの子をかばう?」


「……かばってないっすよ」


「はあ~……なあ本当の事を教えてくれ。君を守らせてくれ。

君、また物語を書くらしいじゃないか。みんな君の帰りを待ってるんだ。

創作者のアルフレッド・クレインの復活をさ。」


「待ってるのは俺じゃなくて、俺の新作だろ」


「…………ああそうだとも。

 君は作家だ

 作品こそ君の人生だろ!!!」


「・・・・」


「すまない、少し熱くなった。」


「いや俺も悪かったよ。リチャードさんがわざわざ来てくれてるのに。」


「・・・・」

「・・・・」


「……ここに、悪魔の誓約書がある。」


「悪魔の……誓約書?」


「できるなら君はこれを読まずに破るかこのまま部屋を出てほしい。そうすれば君を守れる。」


「それは……できない。ちゃんと説明してくれないとわからないよ。」


「……そうだな。君にはこの誓約書の内容を知る権利がある。」


「お願いします。」


「これは創作物に関する誓約書だ。サインするもしないも自由だ。結果は変わるが。」


「結果が変わる?」


「ああ、天国と地獄だ。

 君にとっての。」


「ふーん。

 サインしないとどうなるの?」


「君の無罪は確定。

 今すぐに家に帰ってもいい。」


「それだけ?」


「……アルバートさんが罪に問われる。

 まあ禁止図書とはいえ知らずに持っていたんだから情状酌量の余地はあるし私の働きかけで罪も軽くできる。」


「具体的には?」


「……罰金。

 それと彼女名義での創作活動の一時停止。まあ半年~1年くらいだろう。

修道院に彼女は返される。受け入れればだが。」


「・・・・」


「1年もすればまた創作も再開できる。こっちが天国だ。」


「……俺がサインしたら?」


「・・・・」

「・・・・」


「お願いします。リチャードさん。」


「君は一度盗作の罪で起訴されてる。

 冤罪だと分かったが今回の事で疑いが再びかかる。」


「創作物の盗作は厳罰だ。知ってるね?」


「実質盗作事件の再犯になってしまうんだ。」



「この誓約書は」





「君名義での創作権の」




「永久的放棄の誓約書だ。」




「君は今後二度と創作物を世に出せなくなる。」



「……死刑とかじゃないんだな。」


「死刑だよ。

 これは。

 アルフレッド・クレインという作家は

 ここで死ぬんだ。

 死ぬよりひどいかもしれない。

 作家アルフレッド・クレインは死んでも、ただのアルフレッド・クレインは生きなければならないんだから」


「ふーん。」


「・・・・」


「リチャードさん、ペン持ってる?」


「ちょちょっと待ってくれ。

 話を聞いていたかね!?

 よ、よし、彼女に思い入れがあるのはわかった。

 でも彼女がほかのだれかを好きになる可能性だってあるし、何よりまだ会って半年だろう?!」


「そんな可能性の話をされてもなあー」


「こんなこと言いたくないが、

 確かに彼女は不思議な魅力があるし将来は美人になるかもしれない。

 しかし、美しい女性なら世界にいくらでもいる!

 むしろ私が紹介してもいい!な!?どうだ?!」



「どうっていわれても・・・・」


「最後のお願いだ。

 私を含む君のファン皆のお願いだ。

 君を失いたくない。

 10分後だ。

 10分後に再び戻ってくるから。

 その時に君がいなくなっているか、紙を破り捨てているかどちらかを祈っている。


 よく考えるんだ。


 いいね?」



 ガチャ……ガタン。


 ドアの閉まる音でA面は終わった。

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