afraid(震える肩)②

-アルフレッド宅-


コポポ…


コーヒーの入れる音。


フレッドはすでに起きていた。


アルがいないことに加え空が怪しくなっていたことで、そろそろ迎えに行こうか悩み始めていたころだった。


「遅いな。」


嫌な空だった。


朝は晴れていたが今は曇天一色で気分が重くなる。



その時-



「ゴンゴンゴン」


 明らかに強いノック。



「はい。」

と返事すると勝手にドアが開けられた。


それは二人の衛兵だった。


「ここが君の家かね?」と髭の衛兵が訊ねる。




その男はアルの腕をつかんでいた。


「…ヒック…はい…ぅぅ……」


雨で髪も服も濡れて前髪で顔が見えなくなっていたが泣いているのはわかった。


「お前がこの家の主か?」


「はい。」


「この娘の保護者?」


「まあ一応。」


「この娘、あろうことか【禁止図書】を持ち歩いていた。心当たりはあるか?」






「(ああ、ついに、きたか。)」







「……ええ、知ってます。」


うなずくアルフレッド。


「え…!?」

驚くアルバート。




きてしまったのだ。

この時が。






この可能性をあのスクラップノートを見た時から頭の中で認めまいとしていたが、結局悪い予感は一番悪い形になってやってきた。不幸は単独では来ないというのは本当らしい。


「やはり共謀者か。こんな少女が持ってるのは変だと思ったが…」


「衛兵さん。聴取には協力します。

 でもまずその子を離してください。

 痛がってるし怖がってるし泣いてる。

 このままだと風邪もひきます。

 あんまり強くないんですその子。

いい歳の紳士としてどうなんですか、その辺の気配りは。」


はじめてみるフレッドだった。


本当に怒っているときのフレッドなのだろうか。


冷静に淡々と、しかし殺気のある、そんな目だった。


「…チッ」


衛兵はアルを離した。


アルは一目散にフレッドにの胸に飛び込んだ。


震えていた。


まだ15歳の少女なのだ。

大人の男に強くつかまれたら怖くないはずがない。


「大丈夫か。怖かったな……。」


「ぅぅ……ごめんフレッド……ごめん……なさい……。私……」


「いいから。知らなかったんだろ。とりあえず髪ふかないと。脱衣場行ってきな?」


やさしく慰めるフレッドを尻目に

「で、準備できたら二人とも来てもらうぞ。」


空気を読まない髭。


「なんで二人とも?」


「娘が【禁止図書保持】の罪、お前が【共謀罪】だ。」


「……」


こうなることを可能性でも考えていたフレッド



その後の行動も

ちゃんと覚悟していた。





「(ああ。

  はは。

   まあ。

    しかたねぇかー……。)」





「衛兵さん」


「それがあいつの所有物だという証拠はないんだろ?」


「あの娘の鞄から出てきたんだから、奴のだろう。なにを言ってる。」



「いや」






「それは俺が

 あの子にあげた本なんだよ。」




「(……え!?いやちが……)」


脱衣所で聞いていたアルは驚いた。


着替え始めていたためすぐに出ていくわけにはいかなかった。



「……なに??」




「俺はそれを【禁止図書】だと知っててあいつをだましてたんだ。本当あいつは騙しやすくて助かるよ。」


「それを信じろと?」




「だってそれ」




「俺が昔書いた本だもん」










「(……え……?)」

もう訳が分からなかった。




アルバートが持っていたこの本は


偶然、焼却処分を免れ、修道院にたまにくる商人から譲ってもらった最後の1冊だった。この本だけは街の外に出ていて無事だったのだ。


それをきっかけに

それにあこがれて

アルバートはここまで来た。


その著者が


アルフレッド・クレイン。

同居人で。

相棒で。

恩人で。

この本は【禁止図書】で。




「!?じゃあ君がアルフレッド・クレインなのか…?」




もう一人の衛兵が言った。彼はあの事件を知っていたのだ。




「そうだ。サインいるかい?多分、その本のどっかに書いてあるはずだぜ。」


表紙のかすれた文字を灯に照らし斜めからみてようやく


アルフレッド・クレイン


と読めたが【黄昏と竜】という名がわかればこの街で知らないものはほとんどいなかった。


「俺が隠し持ってたんだ。そして何も知らないあいつがもってれば見つからないと思ってさ。まあ見つかったけど。」


「娘をかばってるんだろ?」


「著者が自分の本を持ってるほうが普通だろ。それが【禁止図書】ならなおさら隠したいし。なぁ、返してくれよ?それが本当に最後の一冊なんだ。頼むよ!」


わかっている。

これは演技。

惨めな男を演じる役者は不幸な作家


「(ま、まってよ……フレッド……)」



焦るアルバート。


ようやくフレッドが、自分を全力でかばおうとしていることに気が付いた。




「というわけで続きは署でやろうぜ。まずいコーヒーでも飲みながらさ。」


「……フン。手錠をかけさせてもらうぞ。」


「うわ、懐かしい」


「あの、盗作事件は……濡れ衣だったんだろ?」


「まあ、ね。でもこの本手放すのは惜しいって気持ちは本当さ。」


「何をくっちゃべってる犯罪者。行くぞ」


「へいへい」



連行されるフレッド。


その時ー


シャーンとカーテンがあく音がして


「フレッド!待ってよ!」


アルが着替え終えて出てきた。



「アル、二~三日家あけるから留守番よろしくな。いい子にしてればお土産あるかもよ?ははは。人が来てもすぐドアをあけるなよー」



「待って……!ねえ待ってってば……!」



フレッドをつかんで留まらせようとするアルバート。


「それ以上は

 公務執行妨害になるぞ?」

 もう一人の衛兵が言った。




何もできなかった。


ただ車に乗せられるフレッドを見ているしかなかった。


自分が抵抗すればさらにフレッドの立場が悪くなるのだから。




薄暗い雨の夜を車が動き出す。


ブロロロ…






「……レッド。…フレッド…!!アルフレッドー!!!!!」








自分でも初めて出す体の底からの叫びだった。




二つ目の事件は


二人を






続く

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