afraid(震える肩)①

 -エリーゼ宅-


「アル、ちゃんとプレゼント見つけられたかしら……」


 庭の草花の手入れをしながらつぶやくのはエリーゼ。

 枯れた花柄を集めてごみ箱に捨てている。


「あら?ちょっと一雨来そうね…」


 女心は秋空、秋の空は移ろいやすい。空が鈍色(にびいろ)に変わりつつあった。



 -商店街-



 うーん、うーんとうなりながら歩く銀髪色白の少女。額にしわを寄せている。


「フレッドって何が好きなんだろ……」


「(服は大体黒っぽい。あんまり関心ないんだろうな。食べ物は…誕生日には微妙かな。だとすると……。)」


「あ」


 アルはアクセサリー屋をみつけた。これなら男女関係なくつけるだろうと考えた。


「指輪、ピアスは多分つけないから…ネックレスかブレスレットとかかな?」


 ネックレスは金色のガラの悪そうなものから、羽や鉱石がいっぱいついたものまであった。


 目が回りそう。そもそも自分もつけたことがないのになぜここを選んだのか……


「お嬢ちゃん何か探しかな?」


「あ、いいえ!いや、はい!」


「ははは!どっちなんだい!まあなんかあったらいってくれ!お嬢ちゃん可愛いから安くするよー」


「あ、ありがとうございます。」



 お世辞と分かっていても恥ずかしくなった。


 早く買って帰りたい……。



 2つ問題があった。

 1つ目はものによっては値段が結構高い。いいなと思ったものはさすがに高くて手が出ない。


 2つ目は同じものが2つないことだった。

 アルとしてはフレッドと相棒(バディ)になる記念としても考えていたのでおそろいのものがよかったのだ。


 狭い店内でチカチカする色鮮やかなものに囲まれながら


 あれこれと悩んでいたアルのHPは残り少なくステータスは混乱だった。


 色が薄くなってきた視界に入ってきたものがあった。


「あ、これ……」

それは赤いチョーカー。ちょうど2個あった。


「これだ。これにしよう。かわいいから、これでいい。うん。」


 ぶつぶつ言いながらさっきの店員に伝えた。


「お?もう1個はプレゼント?」


「はい」


「じゃあお代は一個分でいいよ!」


「えええいいいんですか?」


「ああ。お嬢ちゃんがかなり悩んで選んだんならきっと喜んでくれるさ!」


「ありがとうございます。おじさま」


「おう。またな!」


 買ってから外の空気を吸って気づいた


「(……男の人ってチョーカーなんて着けなくない!?)」


「まあフレッド見た目女の子みたいだから平気か……」


 フレッドに聞こえてたら怒られそうだと思って周りを見回してしまった。



 -帰路-


 プレゼントのついでに色々買い物をしてしまってバッグはパンパンになっていた。


 家までまだ距離があるが弱音も言ってられない。


「(これからフレッドの足を引っ張らないようにせめて体力はつけないと。)」


 意気込んで家路を歩き出した。



「(あー雨降りそうだなー急がないと)」


 雨足はすぐそこまで来ていた。走ると歩くの中間くらいの速さで急ぐ。バッグが揺れる。



 そして


「ブチッ」


「ドン、ばらばらばら……」


「わああああ!」


 ついにバッグのひもが切れ中身を道にぶちまけてしまった。



「あわわわわ」



 あわててリンゴやら紙やらプレゼントの包みやらを拾うアルバート。



「何してるんだね君」



「え?」




 見上げると二人の制服の男性が立っていた。衛兵、いわゆるお巡りさんだ。


 前にも見たシチュエーションだったが今回は胸にバッジを付けた本物だった。



「道の真ん中で店広げてはいかんだろ!」


 髭の男は強めにいった。


「ご、ごめんなさい!」


 急いで拾い集めるアルバート。



「ったく最近の子供はすぐに地面に座ったりするからな。行儀か悪い。」



 いかにも偉そうな男だったが、街の衛兵なので立場はそんなに偉くないとフレッドは昔言っていた。


絡まれたら厄介だから気をつけろとも。



 大体拾い終えたとき


「これは君のかね?」


 もう一人の衛兵が本を拾い上げた。


 表も裏もかなり汚れている。


 筆者もタイトルもほとんどわからないくらいになっているが




 背表紙の真ん中に






 金色の竜の紋章があった。












「あ、はい。ありがとうございます。」



「・・・」



「?」



 衛兵は渡さなかった。


 消えかかったタイトルをよんですぐにわかったのだ。


 もう一人の偉そうな髭の衛兵と話している。


 そして



「君、本当にこれは君の本なんだね?」


「?そうですけど…?」




 髭の衛生兵が言い放った。





「……禁止図書保持で逮捕する。保護者は?家はどこだ!?」




「!?」




「身元責任者のところまで案内しろ!今から!」



 ガシッと大きな手がアルの細い腕をつかんでいた。



「い、痛いです…それに禁止図書って……?」


「この街にいながらそれは無理な言い訳だぞ。

これは3年くらい前に盗作の疑いで禁止図書になった本だ。

 背表紙の竜の紋章とかすれてるがタイトルで間違いない。

 すべて焼却処分となったはずだが、禁止創作物の闇ブローカーの線も否定できんな」



「え…!?えぇ…!?」



 次から次へと追加される情報と何より大男に腕をつかまれる怖さでパニックになっていた。




 雨は

 もう、降りだしていた。




 続く

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