her perfect match(運命の出会い)②

人攫いに捕まった2人はどこかへ運ばれる。




「今日は大漁だったな!しかもこんな若くて可愛い少女!高く売れるぞー!」

「こっちの坊やもよく見れば女の子みたいだな。マニアにはたまらんだろ、そういうの」

「原資は0で儲けは大漁!これだからやめられん」

「なあ少し俺たちも味見しちゃおうぜ。どうせ売れた後は生きれるかはわからないんだしさ~」

「ガハハハッ!この地帯は警備って概念はないのかねえ!かわいそうに!」


 二人は何かの屋根付きの荷台に乗せられていた。


 下品な会話だった。


 とても15の少女には聞かせられない、が、アルバートの脳内はここ1時間で起きたことを理解することで限界だった。


 隣で動かない少年…?の事も気にはなっていたが脳が身体に指令することを放棄しているため何もできない。


まぶたが重い。


脳を休めるため身体もシャットダウンを決断したらしい。


「(もういいか、どうでも)」


諦観。放棄。一種の境地にたどり着いたかのような錯覚だった。


「よくねえよ根暗女」


 声変わり中の少年のような声だった。殴られた彼は立ち上がりはじめていた。



「よく寝たぜ…頭いてえ…。さて…運んでもらった分の運賃払わねえと、なァ!」


 瞬間、彼は荷台に乗っていた見張りの男を殴り倒していた。


「ぐえっ!」

つぶれたカエルのような声で男は倒れ動かなくなった。


「(い…一発…!?)」

「なんだ!おい!」

「このガキ!」

 残りの二人も異変に気付き乗り物を止めた。


 ヒヒーンという鳴き声、今時珍しい馬車だったらしい。外で殴り合いが始まった。

 アルは馬車からその様子を見ていた。


黒髪の少年は身長差のハンデを全く気にしていない戦い慣れした動きだった。


 長身の男の膝を狙い体制を崩して確実にあご先を狙って腰の入ったパンチを繰り出していた。


男は膝をついたままガクンと崩れ、動かなくなった。


もう一人の大柄の男は懐からナイフを出した。

「体のわりにちっちぇー得物だなあおっさん」

 挑発する少年に「うおおおおお」と大柄の男が襲い掛かる。


 「ちっちゃい得物」というこの見立ては実際は間違いで、ナイフというよりマチェット、武器が小さいのではなく男が大きいため小さく見えただけだった。


「うわっ、あぶねえ!」

焦った声でも踊るようによける少年。


月夜にダンスする正義の怪盗(少年)と悪党、少女はそんな妄想をしていた。


ちょっと元気になっていた。


「鶴見流・影法師!」


ブンと何かが男の手首を叩いた。

「痛ッ!」男が思わず顔をしかめる。


フレッドは短い杖のようなものを持っていた。柄には丸く透明感のある石。


「(あれで殴られたら多分私死ぬなぁ…)」と見ていたアルは恐怖した。

「(持ってきてよかった…)」とフレッドは心の中で思いながら余裕そうにそれを構えた。

「これはよそじゃバリツとかブジツとか言われてるが、もとはうちの故郷の武術でな、うちは鶴見流っていうんだが、あーとにかく紳士的で、めちゃくちゃ強い。」




「(紳士…的…?)」




「何が紳士的だ!そんな暗器みたいな杖出してきて、紳士の意味しらねえのかよ!」大男は叫ぶ。



「(まさにそのとおりだわー)」



普段なら声に出ててた。

「知ってるぜ。俺は、紳士だからなっ!」

と言って自称紳士はあろうことか杖を男に投げつけた。


男は縦回転する杖をとっさにマチェットで防いだが、弾かれたマチェットが地面に落ちる。


ガシャーンという音を号砲にフレッドは前に出る。


「鶴見流・大顎(おおあぎと)!」


 男の首に飛びかかり後ろに回って両足と腕を使って首を締め上げていた。

 巨漢の男に打撃が効かないのは明白。ノックアウトを打撃からキメ技に変えたのだ。また腕だけでは太い首を締め切れないため足で締めて腕で固定している。


 完全に手慣れている。

 ほどなく男は気絶した。




「(何が紳士的なの……)」





手口は完全に暗殺者だった。


 フレッドは喧嘩がめっぽう強く、昔は用心棒役をこなすことも少なくなかった。


 そのため外用のコートには色々仕込んである。襟は少し高めに首を隠すようにし、その中に薄い鉄板を入れていた。


杖もコートの中に忍ばせていた。

「あーコートがぐちゃぐちゃだ。はあ。…もう出てきて平気だぞあんた?」


 フレッドはアルに向かって疲れた声で言った。

しかし、アルの身体は全力疾走と誘拐未遂と運動不足で腰が抜けて荷台から降りれなくなっていた。


普段でも無事に降りられるかはわからないが。

「…!…!」

荷台から顔を出しながら口をパクパクさせて訴える。


「なんだ?トイレか?やばいのか?」

「~~~~~!」


顔を赤くしながら首を横にふり荷物をおろすジェスチャーをした。

「ああ、降りれないのか。え、マジで?しょうがねえな……」


 フレッドは近づいてきて



「ほれ」



と両手を広げ受け止める体制をとった。



 謎の天然イケメンムーブをかましてきたことに少し顔が熱くなったが、アルは決心してなんとか立ち上がりフレッドに飛び込んだ。


が。


急に立ったのもあって足がきちんと動かず、荷台のふちに足を引っかけプロレス技のようにかなりの角度で突っ込んだ。


「ヴッ!」


と、とっさに手前に落ちるのをフレッドは防いだがアルの頭がみぞおちに入り抱き合ったまま地面に倒れた。



 ビシャァ!!



 馬車が止まっていたのは街から出てすぐのあぜ道だったのでフレッドは泥だらけになった。


「あー……(泣)夜警なんかしなきゃよかった……」

「……!……!」



 満月を背景に銀髪の麗女がべそをかきながら、おそらくこちらにあやまっている。


 泥で汚れてはいたが夜でもわかるほど、その白い肌は美しかった。



ちょっと魅入っていた。



というかしばらく魅ていた。



アルのほうからどくまで無言で魅ていた。

「(これぐらい役得だろ。おつりが出るくらいだ。)」



「……」




「……!」




さすがに気まずくなったのか、アルから動いた。重さを感じないほどアルは軽かった。

フレッドも身体を起こし

「色々聞きたいけど失声症だったなあんた。俺はアルフレッド・クレイン。今の本業は近くの図書館で司書まがいな仕事をしてる。とりあえず保安署に連絡してこのおっさんたちを預けたら、うちにこいよ。そろそろ立てるか?」



手を貸して立たせてくれるフレッド。



「(結構親切なのかな?)」と思った矢先



「!!?」




立ち上がりざまにお尻を軽く触られた。




「あんたからのバイト代だよ!でも、そこで声出して驚いてもらわないと罪悪感ひどいな…。あ、たいへんいい尻でした。またお願いします。」


半べそ赤顔にらみつけで「~~~!!」と声にならない声でうったえながらフレッドを何回も叩いた。


こどものじゃれつきよりも弱いパンチだった。



「ほんと今日俺がいてよかったなあんた……ははは」



何も否定できないアルバート。



泥まみれで怒った顔でも月の明かりに照らされるその顔は美しさを失わなかった。



この時


なぜか


この怒った顔を守れるなら


割とどんなものでも差し出せると、


アルフレッドは本気で思っていた。




運命の出会いは泥まみれだった。

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