A lodger. A neighbor. (居候と隣人)
話せない彼女との会話は筆談だった。
フレッドは早々に小さいノートを渡し、
名前・歳・出身・なぜ道で迷子だったのか・スリーサイズについて聞いた。
最後のは教えてもらえなかった。
「なるほどアルバートちゃんね。15歳か。3つ下。将来が楽しみだ。」
【アルでいいです!なんかいやらしいのはやめてください!】
「ははは。あ、敬語いらないぜ。俺もそうするからさ。」
【はい、よろしくアルフレッド】
「あーそうだな…お互い〈アル〉がつくから君が〈アル〉で俺が〈フレッド〉にしよう。」
【わかったフレッド】
キュキュキュっとペンで書く音が部屋に響く。
「部屋は二階が誰も使ってないから使っていいよ。掃除はしてるけど気になるなら自分でやってくれ。あ、それとすごい大切なこと聞いていい?」
【いいけどいやらしいのはダメ】
「あ、その手があったな。いや違くて痛い痛い…あの、料理できる?」
【手の込んだのはできないけど普通に食べるものならできるよ?】
「おー助かる~…!」
というとフレッドは立ち上がって台所から何かを持ってきた。見たところ野菜のスープのようだ。
「味見お願いします。」
「???」
味見をするアル。
一口で額にしわが寄った。
「~~~!!」
キュキュキュキュ……
【味濃すぎ!病気になるよ!?】
「そうなのか~前は薄すぎて駄目だったんだよ。実は俺生まれつきの味音痴でさ。料理はてんでダメ。だから助かる!」
【よく死ななかったね……】
「うっせ。というわけでアルは食事当番っと。」
【わかった!頑張る!】
「よっしゃ。じゃあ家の中軽く案内するぞ。ついでに荷物…え?これだけ?」
アルと出会った時から彼女の荷物は小さいサイドバッグと中くらいのリュックだけだった。
【大きい鞄あったんだけど…】
「あー前の相棒(バディ)の家に忘れてきたのか。」
うんとうなずくアル。
「中身はなんだったんだ?」
【服とか下…】
最後の一文字はぐちゃぐちゃに塗りつぶされている
「ほうほう下g…あいや嘘ごめんそれはやめて」
アルは近くにあった暖炉の火かき棒を持っていた。
「そ、そうなると色々買い出しがいるな。あいつに頼むか」
「???」
「挨拶がてらついてきて。」
【うん】
筆談のおかげなのか、フレッドがナンパ上手なのかは不明だが思った以上に短時間で仲良くなった2人だった。
フレッドの家は二階があり縦長。建物の隙間に後から作ったような家だった。
狭いが屋上もある。
部屋は別だが風呂とトイレは共用という男女が住むには不安の残る構造だった。
一階は共用空間とフレッドの部屋、二階は空き部屋で物置になっていたがアルの部屋にするためフレッドは昼に寝る時間を削り片づけた。
二人は家を出て隣の家を訪ねた。
庭に所狭しと花や植物が生えている。
「こんちわー。エリー、いるかー?」
気の抜けた声で家主を訪ねるフレッド。すると
「はーい。あらフレッド。どうしたの?…そっちの子は?あ……自首するならついていくわよ?」
「いやいやどこまで妄想したんだよそれ。この子のことで色々助けてほしいんだわ。」
「ふーん。あ、はじめましてエリーゼ・カナリーです!エリーって呼んでね!あなたのお名前きいていいかしら?」
栗色のきれいな髪に優しい笑顔の女性、エリーゼはちょいちょいと手を振りながら自己紹介をした。
【アルバートといいます!よろしくお願いします!】
アルも自己紹介で返す。
「筆談?確かに色々大変そう。さあうちに入って話しましょう?お茶入れるから!」
「助かる」
「フレッドは水でいいでしょ?」
「なんでだよ」
気の知れた仲というのか、軽快な会話だった。
フレッドは数回目のこれまでの経緯をエリーに話した。
「なるほど。で、私にはアルちゃんの買い物を手伝ってほしいと。」
「そう。俺は男だから女が買う服とかわかんねーし。下着買うときはつきあうけどォホウ…!」
エリーはフレッドのすねを正確にローキックした。クリーンヒットだった。もだえるフレッド。
「おっけー!そんなのお安い御用だよ!早速いこうか!あ、お金あるの?」
【ほとんどないですけど、書いた本ならいくつか】
「ふーん物々交換か。じゃあ私の交渉術の見せ所だね!」
「そういやアルは創作者だったな。どんな本かくんだ?」
【冒険譚がおおいかな?でもこの本は今から売りに行くからあんまり見せられない。ごめん】
「あーいいんだ完成してなくて。スクラップノートとかでいい」
冗談半分で言ってみた。
【あ、じゃあこれ】
といってアルは膨らんだノートを貸してくれた。
「いいのか?見せて?」
「???」
アルは不思議そうにうなずいた。
スクラップノート、いわゆるネタ帳はアイディアの宝庫で普通は他人に見せることはしない。彼女は天然だからなのか、それほどフレッドを信用しているのか。
「じゃあこれは軍資金だ。」
といってフレッドは硬貨の入った小袋をアルに渡した。
「それで足りないっていうなら買いすぎだ。」
【ありがとう!でもいいの?】
「いつか返してくれてもいいし、返さなくてもいいぜ。このノートの貸与料だと思ってくれたまえ。フォッフォッフォ。」
仙人のような老人のような笑いで照れ隠しをするフレッド。
「よし、じゃあ、しゅっぱーつ!あ、フレッドはこないよね?」
「ああ俺は寝不足だから家で寝てるよ。昨日アルの部屋を作るのにがんば…あーなんでもない」
「ふーん??アルちゃんにずいぶん甘いんだねえ???フフフ」
「さあー寝るぞー。じゃ、後よろしく。」
急ぎ足で家に戻るフレッド。
「ふふ、じゃあいこっかアルちゃん!」
【うん!】
仲の良い姉妹のようだった。
家に戻りアルのスクラップノートを読むフレッド。
中身は文字や絵や記号が暗号化されているかのように散らかっていた。
「これがあいつの頭の中なら確かに相棒(バディ)は困りそうだな」
パラパラとめくる中にひときわ大きく書かれた文字の周りに何重にも円が書かれていた。
【黄昏と竜】
「・・・えっ」
フレッドは絶句した。無理もなかった。
【黄昏と竜】
かつて自分の書いた本のタイトルがそこにあったのだから。
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