her perfect match(運命の出会い)①

―4年前の話-


 創作の交流点の街、アポロ・ポート。


 ここには多くのいわゆるアーティスト達が多く住んでいる街。

 創作者たちの桃源郷。

金の概念すら薄い、浮き世離れした街。


 街は1枚のピザのような形をしている。

ピザの1ピースごとの街に名前があり、その地域ごとに建物が色々と異なる。なんでもかつての神様の名前が由来になっているらしい。


 夜中になると【清掃システム】という水洗浄のシステムが稼働して、緩い下り坂になっている道路に水が流れ、道のごみが朝までに街の中心の水路に集まる仕組みになっている。超便利ハイテクシステムだが、集まったゴミを処理する仕事は人間だ。なんとも惜しいシステム。


 また、夜の道は水で滑るし汚れるし、それを住民は理解しているので普通は外に出ない。夜中に外にでている人間はよそ者か特別な事情のある者か、それ以外になる。



主人公の一人

アルフレッド・クレイン、当時18歳。


 黒髪、褐色肌の少年。


 黒羽の鶴


仕事は図書館での書架整理・管理、古書の修繕、あらゆる書物にかかわる仕事をこなしていた。


 性格に反して物事を無駄なく無理なく手順よくこなすのが得意だったため今はこの職に就いている。


 近頃、この街に夜中〈人攫い〉が出ると噂になっており、アルフレッドは喧嘩の腕を買われ街での夜警のアルバイトを保安署から依頼されていた。


「~♪」


 図書館のあるこの地区メーティス・ポートは一周するのに大体歩いて1時間ほどかかる。フレッドは夜型なので夜警は休憩がてらの散歩くらいの気持ちでいた。それで報酬がもらえるのだからおいしい話である。金は日用品を買うときに必要だ。


「まさか人攫いに対する夜警の装備が懐中電灯一つとはな。危機感薄すぎないかこの街……」


 愚痴をこぼすアルフレッド。

 清掃水が街灯に照らされ、きらきらと輝く街並みを足元を用心しながら歩く。


 人の気配はなく、チョロチョロと水の流れる音だけが聞こえる。これはこれで乙なものでアルフレッドがこの仕事を引き受けた理由の一つでもある。


「ふう…」

 濡れていない階段を見つけ座り込む。月がきれいだった。


「酒でも持ってくればよかったな。」



 ……。

 ぉーぃ

 ビシャビシャ


「……んん?」

 夜の静寂を乱す音が遠くで聞こえた。




もう一人の主人公。

 アルバート、当時15歳。

銀髪色白細身の少女。最近この、アポロにやってきた。


銀の渡り鳥



 修道院が彼女の家代わり。アルバートは捨て子で、15歳というのは拾われた時を0歳としてのカウントになるため正確にはわからない。


 アルバートという名は修道院に拾われた時に院長につけてもらった名だ。拾い子という差別から【根無し草のアルバート】、そうからかわれたこともあった。


 昔から本を読むのが好きな子だった、というよりそれしかしていなかったため彼女の頭の中は妄想で埋め尽くされそれ以外のことを入れる隙間がなかった。


 そのころにたまに修道院に来る商人から譲ってもらった1冊の本をきっかけにアルバートは修道院を飛び出したのだ。修道院はそれを止めなかった。むしろ厄介払いができたといった態度だった。



 この街で創作活動をするものにはルールが3つある。


 1、15歳以上であること

 2、相棒(バディ)を組むこと[二重契約はできない]

 3、相棒と同じ建物に住むこと[部屋は別でもよい]


 この3つを守ることが義務付けられている。アルはこの日、累計二人目の相棒と決裂してしまった。


「あんたの事を理解できる奴なんてこの世にいないわよ!!」


 その相棒はアルの才能に嫉妬していた。それを活かしきれない自分への苛立ちを彼女のせいにしてすべてを一方的に終わらせた。

 アルは一人目の相棒も同じような理由で別れていた。

 人間2度目の挑戦のときは「今度こそ成功させる」と思うもので、身体もメンタルも人類最弱レベルの彼女には2度目の失敗は絶望だった。

 相棒の家を出てあてもなく夜の街をさまよう。


「……、……、…」


 言葉がうまく出てこない。胡乱(うろん)な頭で考えもまとまらない。


 気づいたら住宅地を抜けて、メーティスにきていた。まだこの街にきて間もない彼女は夜中のルールを知らなかった。色々と疲れて道端のベンチに座り込む彼女に2つの影が近づいてきた。




「こんばんは。」




 大柄な男2人だった。


「……!」


 声が出なかった。おかしい。

びっくりしたのに、出なかった。


 男たちはよく見ると黒い制服に帽子をかぶっている。いわゆる保安官のようだ。


「大丈夫ですか?」

「こんな時間にお嬢ちゃん…どうしたんだい?」

 優しく問いかける2人に対してべそをかきながら


「……!?…?」声が出ない。


 言葉も出ない。変だと思った。

 言葉の出し方を考えてしまっている。

 歩き方を意識すると途端にぎこちなくなるのと同じく言葉を発する手順を考えてしまっている。


「うん??何かあったんだね??とりあえず夜は危ないから…」

 伸ばしてくる大きな手を見て、気づいたら走り出していた。


「ちょ、ちょっとー!」


 男たちはなぜか追ってきていた。


 メーティスは資料館や図書館などが集まる街で夜は全く人がいない。しかも区画がきれいに区切られており隠れる場所もほとんどない。


「…~、…~、…」


 息を切らして全力で走るアルだが、遅い。

 体力もなく結局追いつかれる前に動けなくなってしまった。


「追いついた…というか遅いな」

「この街の人間はインテリですから」

「さあ安全なところでお話ししましょうお嬢ちゃん。」


 大柄の男が腕をつかんできた。ガサガサした手でちょっと痛かった。

ショックと疲れと混乱で脳も体もフリーズしてしまいもう抵抗すらできない。


が。


「こんばんは。おっさんたち。」


 ついさっき見たシチュエーションだった。服も髪も瞳も黒い青年が月を背に立っていた。アルバートはその姿にかつて読んだ怪盗の物語を思い出し、見惚れていた。



 制服の男が2人、一人は長身細身、もう一人は大柄だった。その前にしゃがむ細身の少女?


アルフレッドは混乱した!


 これは久々の事件のにおいだった。


「……おっさんたちは、あーもしかして保安官さん?」

 懐中電灯を自分の肩にポンポンしながら聞く。


「そうそう。この子が夜中に座り込んでるから声をかけたら急に走り出しちゃって」

「それで追いかけてた?」

「そうなんだ。こんな夜中に独りでは危ないからね。」

「ふーん。」


 フレッドはアルに近寄って


「名前は?」

「…?……」

声がでない。

「どうしたんだ?これ」

「さっきからこの調子でね。困ったもんだよ。君、おうちはどこなの?言葉わかる?」


 それはまさに夜中に迷子の子供を見つけた保安官の様子だった。フレッドは状況を俯瞰でとらえる。

 何かを確かめるようにフレッドは少女の前にしゃがみこみ


「これは右手か?」


 と彼女の左手を軽くつかんだ。


「???」

 という顔で彼女は首を横に振った。


「お前は女か?」

 首を縦に振るアルバート。


「名前は?」

「…!…!」

 口は大きく動いているが音が出てはこなかった。


「(これはおそらく失声症だな…医学書で読んだが言葉の意味は理解してるが声が出ないのか)」


「??どうしたんだ少年?何かわかったのか?」


 無言で立ち上がったフレッド。もう一度あるものとないものを確認し、状況をまとめ、文章を脳内で構成した。


「この子はおそらく失声症だ。一時的に声が出ないんだ。」

「なんと。じゃあうちの署で今夜は預かろう。」

「そうだな、それがいい」

納得する2人の男。


「署、ねえ…」


「保安官のおっさんたち、夜中のルールは知ってるかい?」

畳みかけるフレッド。


?という顔をする保安官ズ。


「この街で夜中に出歩く奴はほとんど訳ありでね。清掃システムがあるから普通は出ないんだよ。汚れるし、あぶねえし。」

 保安官が返す

「じゃあ君はどうして外に?」

「…俺は夜警のバイトだ。これがその証明のバッジ」


 フレッドがバッジを見せた。


「そうか。ご苦労様。君は家に帰りなさい」

「……」


 この瞬間にすべてが決定づけられた。


 フレッドは話し続け

「さっき夜中に出歩くやつは訳ありって言ったけどさ」

「俺みたいに雇われて外に出てるやつもいるんだわ」

「そういうやつがお互いの素性を明かすために」

「めんどくさいけどバッジは夜でもわかる位置につけておく決まりがあるんだよ」


 王手をかけた。


「知ってる?夜警のバイトを依頼してるのって保安署なんだぜ?保安官なら最初にこのバッジで気づくはずだよな?人攫いさん?」



 2人の男の足が止まった。


「バッジを出すタイミングをわざわざ与えてやったのに。いやー残念だったねーおっさんたち。さぁ……」


ガコン!!


 瞬間、すごい音と後頭部の重い痛み。

 油断した。


人攫いは三人組だった。



 遠くなる意識。



「おやすみ僕ちゃん」



 後ろからきた男は歯抜け顔で笑みを浮かべた。




 つづく

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