六十代のうちに幸せなまま天寿をまっとうすることを夢とする男が、医者から告げられた200年という余命を、どうにかして縮めようと奔走するお話。
ショートショートです。ほんのりSF風味といいますか、現代よりちょっと(かなり?)発達した医療システムのある世界。簡単な検査から余命を予測できるようになっており、結果宣告されたのは200年の余命。しかしそれは主人公の望みにそぐわないものであり、そのために寿命を縮める努力を始める——という、なんだかあべこべなお話の筋が魅力的です。シニカルな風合いのユーモラスさと、前提となる設定の飲み込みやすさ。約4,000文字弱という分量のコンパクトさも含めて、まさに王道のショートショートといった趣の作品でした。
短く切れ味の鋭い作品なもので、あまり大仰にあれこれ感想を言うのも空気読めてない感があるのですが、でも主題(テーマ性)の部分がとても好みでした。高度な医療により伸びる平均寿命。安楽死制度や延命治療の是非を問う、というほど直接的な問いの立て方ではないものの、でも突き詰めていけばどうしてもその辺りに繋がっていく問題。現代社会の抱える課題を軸に据えながら、でもそのエグ味やクセのようなものを綺麗にアク抜きしてある——というか、物語全体のスタンスに対して、主張の部分がでしゃばりすぎないよううまく調節してある。この味付けの巧みさ、素材をあくまで素材として使うような、この上品なまとまりの良さが好きです。
いや本当にこの〝まとまりの良さ〟がものすごく印象深くて、例えば全体の構成や物語のペース配分にしてもそう。この綺麗に起承転結している四話構成。なんだか安心して読める感じというか、気づけば自然と引き込まれている。細かな段落・文単位で見てもそれは同様というか、物事の理路がものすごく整然としている。一歩一歩しっかり段階を踏むように流れていく文章なので、途中で迷ったりすることがないんです。すごく丁寧な仕事。
物語の内容に関してというか、この先はネタバレを含みます。
最後の大オチが好きです。結局それ、というかなんというか、なんとも皮肉な結果のようにも見える帰着点。非常に綺麗に決まっているのですが、でも普通はこれ「とほほ」的な解釈で終わるであろうところ(少なくとも構造としてはそう)、その先の『主人公の受け止め方』が最初と違うんですよね。一周して辿り着いた同じ地点の、でも最初とは明らかに違う主人公の中の変化。言い換えるなら成長のようなもので、これがもう本当にものすごく気持ちいい! シニカルでブラックだった話が、でもちゃんとハッピーエンドに収まっている。この発想というか解釈というか、もう本当に大好きで惚れ惚れしました。これはいい……「その発想はなかった」と「そうこなくっちゃ」の両方が来たような感覚。
やられました。最後一文のこの清々しい感じ。総じてスルスルと気楽に読めるものの、でも読み終えた頃にはなかなか厚みのある内容を受け止めさせられている、丁寧さと上品さの光る作品でした。