第119話 決闘

「私は完全になった……!」


 そう叫んだライジェル王は、優越感に浸りながらエイダ達を見下す。そしてそれと同時に手を自分の足下に向かってかざした。


「なにを……!」


 ドンキホーテは、魔王の行動を警戒し呟く。一体なにをするつもりなのだろうか、再び塔の封印術を再利用するつもりなのか、と目線を塔に移すもなにも変化はない。


「まさか! ドンキホーテ、エイダ君! 構えるんだ」


 マリデが何かに気がつき、警告を出したと同時に、突如、ライジェル王の掌の先から、岩が生まれ、それがまるで泡のように増えていった。

 その岩は伸び、石柱となってエイダ達に襲いかかる。ドンキホーテは空間から空間に飛び、エイダは光の翼で飛行して、両者とも上空に逃げた。石柱は空を裂く。

 エイダ達はライジェル王と同じ高さにまで飛び、再び相対する。


「おいおいおい、あの技は見たことあるぜ」


 あの技はアイラの技だ、ドンキホーテは歯を噛みしめる。となると、やはりライジェル王は、神の使者の能力に目覚めつつあるのだ。


「マリデさん、アレン先生! 私から離れないで! 多分この、時の止まった世界で二人が動けるのは私の体に触れてるせいだと思うから!」


 エイダの発言にマリデと、アレン先生は返事をしながら頷き、戦闘態勢に入る。一方ライジェルは自身の能力を確かめるかのごとく生成した石柱を見ていた。

 石柱は生成された後も、落下せず宙に浮かんでいる。


「ほう、なるほどなこの石柱、宙に浮かすこともできるのか、ならば!」


 ライジェル王は更に足下に手を翳す。


「何をする気じゃ!」


 アレン先生は咄嗟に、魔法障壁をエイダと近くにいた、ドンキホーテに張った。再び、岩が生まれる。それは今度は石柱の形を取らない。

 岩はまるで板のように広がり伸びていった。唖然としたまま、エイダ達はそれが生成されていくのを見ていく。まるで意図がわからない。


 そして、生成が終わる。ライジェル王は空に巨大な浮かぶ大地を作り出した。


「どういうつもりだ?」


 ドンキホーテかライジェル王に聞く。


「わからないか? これは巨大な決闘場だよドンキホーテ、ここで私とお前の決着をつけるのだ」


 その言葉を聞き、エイダは黙っていられない。


「私をお忘れですか? 王! 私はドンキホーテを一人で戦わせるほど愚かではありません!」


 ライジェル王はその言葉に笑みとともに返した。


「君の相手は私ではないぞ勇者よ、君の相手は――」


 そこまで言って、ライジェル王の体から勢いよく湯気のような、または炎のような、青白いオーラとでもいうのだろうか、それが流れ出る。

 そのオーラは、王から立ち上り、空中で固まっていく。そしてそれは一瞬で巨大な人の形を成したかと思うと。徐々に立体的な形を、肉体を作り出していく。

 中性的な顔に、男性とも女性とも取れそうな体つき、両性具有という言葉がそのまま具現化したようなその肉体は、先ほどの魔王と瓜二つだ。


「この魔王だ」

「何?!」


 ドンキホーテは思わず驚きの声を上げる。ライジェルはコアとなっていないのにもかかわらず、魔王を作り出してしまったのだ。

 魔王は腕を振り上げ、光の剣を作り出してエイダに向かって振るう、それに気づいたエイダは魔王の剣を飛び上がりながら空中で受け止めた。


「ドンキホーテこの魔王は私が!」


 まんまと敵の策に乗ってしまったが、こうするより他にないと感じドンキホーテは「わかった!」と返事をした。

 エイダと魔王は剣を打ち合いながら、大地を飛び出していった。


「これで邪魔者はいないなドンキホーテ……」

「テメェ……いつのまにあんな技を!」

「何、分身の魔法応用さ」


 あっけらかんと説明をする、王にドンキホーテは不気味ささえ覚えていた。一体なぜここまで冷静なのか、分身の魔法の応用というがそれはつまり――


 ――こいつは今、力を分割させたってことだ……!


 それを惜しげもなく教えるとは、余程の勝つ自信があるのだろう、それも一対一で、そう推測したドンキホーテは警戒しながら静かに意識を戦闘状態へと移行させていく。

 そんなドンキホーテを知ってか、知らずか王は態度を崩さずいう。


「さあ、ドンキホーテ……始めよう……!」


 確かな殺意を持って、王は自身の作り出した、地面を蹴る、光の翼で浮遊できるというのにわざわざ、地上での戦いをしようというのだ。

 それはライジェル王が、正々堂々の戦いを望んでいる証拠でもあった。王は光の剣を左手に作り出し、剣をドンキホーテに向かって打ち込む。

 上段から振り下ろされた、光の剣をドンキホーテはゼーヴェリオンで受け止める。

 ちょうど十字になるように噛み合った剣は擦れ合うたびに、不快な音を発生させる。


「ライジェル! なぜこんな面倒なことをする! いまのお前なら、俺たち二人を相手にしても良かったはずだ!」


 ライジェル王は、剣をドンキホーテに向かって押し付けながら言った。


「お前のことは友だと思っていた……」


 剣を互いに弾き合い、両者は距離をとった。


「だからこそ、私はお前を超えなければならない……! 友を一人犠牲にする覚悟などなければ私の理想は遂げられぬ! だからだ!」


「だから……」とライジェル王は続けていう。


「ここで死んでくれドンキホーテ……」


 そういってライジェル王は、左手を握りしめ、右手を左手にかざした。すると左手が光り輝く、その光を伸ばすように右手が光を引っ張る。


 そしてその光は引き伸ばされ、ある形に変化する。


「それは……!」


 ドンキホーテは驚きを隠せない、なぜならその形は、聖剣ゼーヴェリオンに瓜二つだったからだ。


 光が収まると同時に、それは完全なゼーヴェリオンそのものが姿を現した。


「これが、アイラの能力、作り出す能力だ」


 偽物のゼーヴェリオンを両手に握りしめて、ライジェル王は更に続ける。


「そしてこれが!」


 偽物のゼーヴェリオンは光を放ち、まるで手品のようにもう一本のゼーヴェリオンを光の中から抜きはなった。


「作り出す能力の、真の力……!!」


 そう言ってライジェル王は二本のゼーヴェリオン、両手に構えて、ドンキホーテを見据える。


「おもしれぇ……やってやるよ!!」


 ドンキホーテもまた、剣と盾を構えた。

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