第120話 地雷原を飛び越えて

 一方、エイダと魔王は、ライジェルが作り出した、決闘場から離れ空中で、戦いを繰り広げていた。

 金属音とともに、エイダは魔王の剣を受け止める。


「くっ!」


 エイダは実感する。明らかに前の一撃よりも重くなっていることに。以前の魔王よりも強化されているのだ。

 エイダは力を込めてはじきかえし、一旦距離を取る。


「エイダ、大丈夫か! 無茶はするでないぞ」


 アレン先生が呻くエイダを見て、心配そうに呟く。


「心配しないでアレン先生、まだ全然、渡り合えるから!」


 エイダは自信と共にそう言い放った。「しかし」とマリデが続ける。


「これで、封印するのは難しくなってしまったね、なにせ魔王の力は分担させられてしまったのだから」

「というと、どいうことですか? マリデさん」


 エイダの疑問にマリデは魔王を警戒しつつ答える。


「おそらく、ではあるがこれは分身の魔法の原理に近い、自らの力の一部を自律させ、動かしているのだ。分身ではなく分裂と、呼んでもいいかもしれないね」

「だとすると、一つ疑問が残るぞ、一体奴はどうやってそのような、高度な魔法を習得したのじゃ?」


 アレン先生の疑問は最もだ、この魔王の力には不信な点が多すぎる。今も魔王は静観の態勢を取り、じっとこちらをその美しい眼で見つめている。

 すると突如、魔王は、詠唱をし始め掌をエイダに向ける。すると掌と平行になるように三角形の魔法陣が描かれーー


「……!! いかんエイダ!」


 次の瞬間三角形の中心から見慣れた光線が射出された。白銀の奔流がエイダに向かう。

 エイダは咄嗟に魔法障壁を張り、その光線を受け止めた、魔法障壁は光線に当たった瞬間ひび割れ、今まさに割れる寸前、というところまで追い詰められたが。

 その瞬間、光線が止み、エイダは内心ホッとした。アレン先生の警告がなければ、まともに食らっていたことだろう。


 あの光線、デルタ・レイを。


 アレン先生は驚きを隠せずに言う。


「どういうことじゃ、あの魔王、ワシらのデルタ・レイを放ちおったぞ」

「もしかして見ただけで、魔法を習得したのかもしれない」


 マリデの言う言葉に、アレン先生は「バカな!」と続けて言った。


「それではまるで、エイダのよう……」


 言いかけて止める。見ただけで魔法を習得できる。それはまるでエイダのようだと。


「多分、マリデさんの言う通りだと思う。きっとあの魔王は私達、使者の能力が使えるんだ。そして、分身の魔法や、デルタ・レイが使えたのも、神の使者の能力、なんだと思う」


 エイダは冷静にそう言った。「じゃとすれば」とアレン先生は話す。


「これ以上、ワシらが強力な魔法を新たに出すのは、いかんかもしれんのぅ、その証拠に……」


「ほれ」と、アレン先生はごく小さい火球を肉球から放つ。すると火球は宙を少し待った後、宙空で爆発を起こした。


「……地雷の魔法か……!」


 蛇のマリデは忌々しそうに舌をシュルルと鳴らす。


「これも、魔王に使った魔法じゃ、どうやらボーと静観しているだけじゃなかったようじゃのう」


 この言葉を聞いて、エイダは動けなくなってしまう。


「このままじゃ動けないね、先生」

「そうじゃのうエイダ、どうやら奴のデルタレイでは、地雷は反応せんようじゃしのう」


 冷や汗がエイダの頬を伝う、迂闊に動こうものなら地雷の魔法に直撃してしまう。一撃までなら防げるだろうが、複数地雷を作動させてしまえば、そうもいかないだろう。

 しかし、だからと言ってここに留まっていれば、あのデルタ・レイの餌食になるだけであることも確かだ。そこで、一つの案がエイダの頭の中に浮かぶ。


「マリデさん、アレン先生、私、いい考えが浮かんだ」

「なんじゃ?」

「なんだい?」


 二人の問いに対して、エイダの提案はまるで雑なものだった。


「私が高速で動いて、地雷が爆発する前に、切り抜ける! だから二人ともしっかりつかまってて!」


 その提案に頭を抱えそうになったアレン先生は、エイダを止めようとするも、エイダには何か秘策があるのか、アレン先生が止める前に、策を実行に移した。


「ま、待つのじゃエイダ!」


 その抑止はエイダの耳に入らず、エイダは加速し、恐らく、地雷原となっているであろう、空中に向かって加速しだす。


 ――私の出せる全速を!


 この飛翔という能力、エイダ自身が身につけてきたものではない、全てヨータの記憶から、感覚から、身につけたものだ。

 なので、これは賭けだ、どれほど自分の能力が通用するのか、失敗は許されない。

 そのプレッシャーがエイダの重荷となって、十枚の翼にのしかかる。そうした中、ついにエイダは見えない地雷原の中に突入する。エイダは叫んだ。


「いっけえぇ!!!」


 地雷が起動する中、その爆発を背中に受け、エイダはさらに加速する。肩からアレン先生の悲鳴と、マリデの苦笑が聞こえる。

 エイダは止まらない、次々と地雷が起動する中、エイダは爆発を置き去りにする。そしてある点を境にエイダの速度は爆発的に速度が上がる。

 魔王の目にはほぼ光の軌跡しか見えない速度。マリデは気がつく。


 ――これは、確か、アルとかいう兄弟と同じ技……!


 そして目にも留まらぬ速度でエイダは、魔王の体に妖精の剣を突き刺した。


 その時、エイダは確かに聞こえた。


 お姉ちゃんと呼ぶ声が。

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