第118話 完全なる者
魔王はドンキホーテが聖剣から放った白き炎に包まれもがき苦しむ。だが、すぐに翼をはためかせ炎を振り払う。そして王はドンキホーテを睨み言った。
「くっ!ぐううう!その剣はまさか!それになぜだグレン卿はどうした?!」
戸惑う魔王に対してドンキホーテは、不敵に笑う。
「さあ?今なにしてるんだろうな、寝てるかも知れんぜ?それよりよぅいいのかよライジェル、俺たちはこれで二対一だ、降参してくれねぇかな?」
その言葉を聞いてハッと、ライジェル王は思い出した。エイダに対して封印魔法をかけていたことに。
次の瞬間、魔王の左頬に白銀の光線が突き刺さる。
突き刺さると共に光線は爆発を起こし、巨大な爆炎が魔王の顔を包んだ。
「まずは、先ほどのお返しじゃ!」
「ありがとうドンキホーテ!助かった」
先ほどのお返しと言わんばかりに、白銀の光線を魔王に見舞いした、一人と一匹は爆炎の向こう側から、そう叫んでいた。
「くっ…!エイダ!封印は失敗したか!」
魔王は、焦る、この後に及んでここまで追い詰められるのは想定外だ、マリデを倒し、順調に進めば、世界に平和をもたらせたのに、このままではやられてしまう。
それは魔王にとって、許されないことだった。この力を手にしたからには、世界を導き、世界に平和をもたらすという義務があるのだ。
その義務を果たすまで倒れるわけにはいかない、魔王はそう思った。魔王はその一心で心を奮い立たせ、冷静に状況を分析する。
――まず、飛行能力をもつエイダは後回しだ、先に飛行能力を持たないドンキホーテからやる。
そして私は勝つのだ、と魔王はドンキホーテを殺すべく、左手に光の剣を作り、塔の頂上にいる騎士めがけて、剣を振り下ろす。
「やっぱり降参する気はねぇか…」
光を収束させた光の剣が迫り来る中、ドンキホーテはそう呟き、不敵な笑みを消した。それと同時に剣が塔の頂上に衝突、頂上を完全に破壊してしまった。
ドンキホーテの姿は見えない。
「ドンキホーテ!」
エイダが悲痛な叫びをあげる。まさか、と最悪の想像がエイダの脳内に駆け巡った。そんなエイダを察したのかアレン先生は言う。
「落ち着つくのじゃエイダ、ワシらは第二撃の隙を伺うぞ、なあにドンキホーテならば大丈夫じゃ」
「でも」とエイダが言いかけた時だ、魔王の左肩の鎖骨の上で青白い光が瞬いた。その光が収まると共に光の中からドンキホーテが現れる。
エイダは感づく、あの光はテレポートの魔法だと。
魔王の肩に現れたドンキホーテはそのまま剣を肩に突き刺そうとするしかし、それを許す魔王ではない、ドンキホーテを潰そうと、肩に右手を叩きつける。
しかし再び、ドンキホーテはテレポートで別の場所に飛び、その攻撃を難なく躱した。
「チッ!」
魔王は苛立たつ。
次にドンキホーテが現れた先は水晶のように見える、魔王のコアの部分だった。コアの側面に張り付いたドンキホーテはライジェル王に語りかける。
「ライジェル、テメェの野望は俺が止める!」
「なに」
突如現れたドンキホーテに魔王は対応が遅れる。
そしてドンキホーテの右手にもつ聖剣ゼーヴェリオンが光を放った。ドンキホーテがその剣をコアに突き立てると白き炎の濁流がコアを包み込んだ。
「があああ!!」
水晶の壁を貫通し、ライジェル王に直接白き炎がまとわりつく。
たまらずライジェル王は魔王の肉体を捨て、コアの外に飛び出し魔王の頭上ドンキホーテのテレポートが及ばないと考えられる上空まで逃走した。
その瞬間を待っていたものがいた。
「エイダ今じゃ!」
「うん先生、行くよ!」
エイダ達は待っていた、ドンキホーテがこの瞬間を作ってくれるのを。
「エイダ、少し右じゃ、そうそこでいい!打て!」
アレン先生の指示通りにした後、エイダは叫んだ。あの魔法の名を。
「デルタ・レイ!」
光線はまっすぐとライジェル王に向かっていく。
「しまっ――」
ライジェル王は後悔の言葉を吐き出す前に、光線に直撃し巨大な爆炎に包まれた。
「ナイスだ!エイダ」
いつのまにか、ドンキホーテがテレポートでエイダの隣に来ていた。なんとしかも浮いている。
「ドンキホーテ飛べたの?!」
エイダの驚愕に対して、ドンキホーテは冷静に説明する。
「ああこれか?これはなボスの魔法さ、宙に浮かぶだけ移動はテレポートを使うんだ」
「ギリギリで浮かんでるから、あまり激しい動きはよしてほしいな」
ドンキホーテを諌めるようにマントの中から黒蛇が顔を出し、言った。
「マリデか、どうやらまた力を失ったようじゃな」
「ご覧の通りさ……」
アレン先生の言葉にマリデはない肩を竦めた。「それよりも」とマリデが口を開いた。
「ライジェル王が怯んでいる隙にみんな聞いてくれ、気づいたことがある」
「何ですか、マリデさん?」
エイダの疑問にマリデはすぐに答えた。
「もうドンキホーテには、話したんだが、どうやらあの魔王は力をまだだしきれてはいない、その証拠に今までの神の使徒の能力を、僕と戦った時に出さなかった」
ドンキホーテ達はあくまでマリデの話を聞きながら、ライジェル王の動向を探る、エイダの起こした爆炎は爆煙となっているが中からライジェル王は出てきていない。「つまり」とマリデは続けた。
「完全に、奴は覚醒していないんだ、その隙に再び封印をしたい、そこでエイダくん」
「はい、マリデさん」
「君にその役を一任したい」
「わかりました、どうすればいいんですか?」
マリデは、「ちょっと待っててね」といいドンキホーテの肩からエイダの肩に飛び乗った。その行動を見てドンキホーテは焦った、今までマリデの魔法で宙に浮かんでいたからだ。
「うおおい!ボス!俺!落ちる!!」
「大丈夫だよ、半径50メートルまでなら君は魔法の範囲内ささて、エイダくん僕が封印の魔法の詠唱をする、しかし魔力が足りないそこで君に、その魔力を肩代わりしてもらいたいというわけだ」
エイダは頷いた。それを見るとマリデは「よし」と締めくくり言った。
「これから先は更に連携が重要になる。気を引き締めて――」
その時だ、雲が、風が、海が止まった。
「おいおいおい!これは!」
ドンキホーテが戸惑う。
「そんなまさか!」
エイダはおそらく的中しているであろう最悪の想像が脳内に浮かぶ。
「なんじゃ、この感覚は、急に風が止んだぞ?!」
「どういうことだいこれは…!」
この感覚を経験したことないアレン先生とマリデは気づくのが遅れる。
「時が止まってやがる…!!」
ドンキホーテは呟いた。そして爆煙を睨みつけた。爆煙の中を掻き分けライジェル王がゆっくりと姿を現した。
爆発の中ライジェル王は思った、ここで負けてなるものかと、ここで死んでなるものかと、私は、私には責務があるのだ。世界を統一するという責務が。
この使命を達成することが唯一、ソール国の過去の罪を清算できる。そうライジェル王は信じていた。
その執念のこもった思いからなのか、はたまた、敵に追い詰められ、切羽詰まった状況故なのか。
ライジェル王は、1つの感覚を覚えた。
それは閃きにも似た、感覚、それは最初は曖昧なものだったが、段々と確かなものへと変わっていった。
ライジェル王は呟いた。
「わかるぞ、今なら魔王の力が!」
ライジェル王の脳内に少年の声が響く。
――お前に僕の力は使わせない!
「黙れヨータ、すでに魂の支配権は私にあるのだ。抵抗しても無駄だぞ」
そして魔王は発動させた。魔王の力を。時を止める勇者ヨータの力を。
そして、今ドンキホーテは煙の中から出てきたライジェル王を、睨みつけいう。
「ライジェル!」
優越感に浸った。目で見下しながら王は言った。
「君たちのおかげだ君たちのお陰で私は――」
そして目をつぶり、腕を広げながら、酔いしれるように続けた。
「完全になったのだ…」
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