第114話 最後の転生者

 響き渡る爆発音は床を振動させる。ドンキホーテとグレン卿の戦いはグレン卿の勝利で幕を閉じようとしていた。

 聖剣の一撃を食らったドンキホーテは、体のあちこちに裂傷や骨折を負った。

 これでも彼は咄嗟に全身に闘気を張り巡らし、防御をしたのだが。それでもグレン卿の一撃はドンキホーテに立つのがやっとの重症を負わせることに成功したのだ。


「クッ…ヤベェなこれは…」


 ドンキホーテはひとりごちる、肋骨が折れているのを実感し、苦痛で顔を歪める。しかしまだ終わってはいない。

 目の前にいるあのグレン卿を、倒すまでは倒れるわけにはいかないのだ。

 既に満身創痍の体を無理やり動かし、ドンキホーテはグレン卿に突進していく、しかし先ほどのまでの勢いはもうない。


「無謀だなドンキホーテ」


 グレン卿はそのドンキホーテの一矢報おうとする、その姿勢を、嘲笑で返す。

 ドンキホーテはグレン卿の目の前まで迫り、剣を振り下ろす。しかしグレン卿にあっさりと受け流される。

 剣を振るう速度も、怪我のせいでより落ちているのだ。しかしドンキホーテは諦めない、剣を振るうフェイントを、交えつつ、左手の拳による殴打をグレン卿に見舞わせる。

 拳はグレン卿の胸にあたり、グレン卿はよろめき、ドンキホーテから一歩後ずさった。


「く…!満身創痍だというのによくやる……!」


「だがこれで終わりだ」とグレン卿は言った。そして弾丸のように突撃し、ドンキホーテの腹を剣で貫いた。


 ドンキホーテは口から血を吐き出す。


 グレン卿が剣を引き抜くとドンキホーテは地面に倒れ伏した。





 塔の上空、魔王は自身を捕らえようとした封印の魔法を引きちぎる、いともたやすく壊れたその封印魔法は、かけた本人が弱っている証拠でもあった。

 魔王は下に広がる爆炎を見下ろす。爆炎が晴れ、姿を現したのは、体のあちこちが裂けている混沌の化身だった。


「私の勝ちだ、ヴァルデ…」


 弱っている混沌の化身を見下すように、ライジェル王は言った。

 しかしマリデの闘志はまだ折れていない。


「まだだ!」


 そうマリデは叫び、テレポートの魔法で魔王の背後をとり、手足を体に絡めた。


 混沌の化身の体に魔力が駆け巡っていく。


 魔王は一瞬で理解した。


「自爆するつもりか!」


 しかしそんなことはさせないと、魔王は光の羽を散らし、光の剣を生成していく、そして背中に張り付いたマリデに向かって、光の剣が襲いかかる。


 もはやマリデに防ぐ余力は残っていなかった。


 光の剣をその身に受け混沌の化身はついに、魔王の背中から引き剥がされ塔の頂上にその身を落としていく。


 塔の頂上に落ちる寸前に、混沌の化身は体が黒い霧となり霧散した。それを見て魔王は確信する。


「勝った…か……」


 今度こそ勝った、その達成感に魔王は浸る。先ほどマリデにやられたダメージも回復してきている、そのことを実感した魔王は宣言する。


「世界を、この力で統一する…!今の私を止められるものは誰1人としていない!世界を平和をもたらすのはこの私だ…!!」


 その時だ、雲を貫き何者かが、魔王と相対した。その者の背中には光り輝く五対の翼、つまり計十枚の翼をその身に備えており、肩には白い猫がいついていた。

 そして何より特徴的なのは、その白き髪、まだ幼さが残る顔立ち、一目見てわかるだろうその者が少女だということが。



 時は少し遡り冥界、エイダは今、女神リナトリオンに手を引かれ、リナトリオン曰く、安全な場所にたどり着いたところだった。


「ここなら大丈夫です」


 女神リナトリオンが言う。そこは薄暗い冥界の中でなぜか、天から光が差している場所だった。

 その陽だまりの中でリナトリオンとエイダは座り込む。

 先に口を開いたのはエイダの方だった。


「あの…なぜ私を知っていたんですか?」

「ああ、そうでしたね、歩くのに夢中になって忘れてしまいそうでした」


 薄く女神は微笑み、訳を話す。


「その前に、私はヨータのことを話さなければなりません」

「ヨータのことですか?」


 エイダは不思議に思うなぜヨータが出てくるのだろうか?

 そうして、リナトリオンは話し始めたヨータのことを彼が魔王を討伐したこと、そのあと、人が作り出した魔王のコアなったことも。


「そんな……ことが…」


 エイダは思わず言葉を詰まらせる、ヨータの真実、それはあまりに大きく、そして悲しい真実だった。リナトリオンはさらに話し続ける。


「ヨータは地球で生きていた時も善良な子だったのです。困っている人がいたら助ける。それを当たり前だと思っているような優しく善良な子、だから私は彼が不慮の事故で死んでしまった時、この子を生きかえらせてあげたい、と思ったのです」


「思えばそれが全ての間違いでした」とリナトリオンは顔を曇らせる。そして続けた。


「そして私は、魔王のコアとなり魂が囚われている、ヨータをなんとかして助けてあげたいと思いました、だからもう何人かの転生者を地上に送ったのです。いずれ英雄ヨータを解き放ち、彼に真の安らぎを与えるために」、


 リナトリオンはエイダを見つめいった


「ここまで長くかかりました、ここ冥界から転生者を送るたびに、私の力は弱くなっていき、ついに私はこの冥界から出ることすらかなわなくなり、地上のことすらわからなくなったのです」

「リナトリオン、じゃあ、あなたはずっとここにいるのですか?!」


 エイダの問いにリナトリオンは頷く。


「ええ、そして、たった今送り出した最後の転生者が、死んだのを感じ、泣いていたと言う訳なのです、ついにヨータもそして何より、その転生者も死なせてしまったと悲しかった……」


「でも」とリナトリオンは続ける。


「まだ希望は失われてはいなかった」

「…どういう事ですか?リナトリオン」


 リナトリオンはエイダに向かって微笑む。


「送り出した最後の転生者とはあなたのことなのですよ、エイダ」

「え…?!」


 リナトリオンはエイダの困惑を無視して続ける。


「あなたを私の最後の力で生き返らせます、エイダ、今再び魔王が復活しているのを感じました。きっとあなたの力が必要になる…」

「待ってください!そんなことしたら、貴女は!」

「いいのですエイダ」


 リナトリオンはエイダに向かっていう。


「これは、私が始めてしまったこと、それを結局は貴方達、人々になんとかしてもらうしかない、これはせめてもの償いなのです。エイダどうか、身勝手な願いですか、どうか世界を、ヨータを救ってあげてください…!」


 エイダの体は光に包まれる。そして徐々に視界も白に染まっていった。




 エイダは目を覚ます、冷たい床の上で。周囲に目をやると巨大な鉄格子が目に入るどうやら、ここは牢屋のようだ。


「エイダ目が覚めたか!!」


 いつのまにか近くにいた、白猫のアレン先生が歓喜した。


「アレン先生、私行かなくちゃいけない」


 おもむろにそういった、エイダに、アレン先生は首を傾げる。


「どうしたのじゃエイダ急に、行くと言ってもここは、強力な魔法障壁が張られて――」


 エイダが鉄格子に手をかざすと、大きな音を立てて、魔法障壁は鉄格子ごと破壊された。


「な――!」

「行こうアレン先生!」


 エイダの背中にはいつのまにか。黄金の光の羽が十枚輝き放ち、存在していた。


 今ならエイダはこの力の意味がわかる。この力はリナトリオンが最後の力を振り絞り目覚めさせてくれた自分の中に眠っていた力なのだと。


 これが本当の神の使者の力なのだと。

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