第115話 天空で

 魔王に相対す、少女エイダは、まっすぐと魔王を見据えた。


「あれが、魔王!確かに感じるヨータの気配を!」


 エイダはそう言って、戦闘態勢に入る。


「どうやらそのようじゃのう、しかし落ち着くのじゃエイダ、あやつは見ればわかる通りとてつもない魔力の持ち主じゃ、まずは防御重視!相手の持ち札を探るぞ!」


 エイダの肩に乗ったアレン先生は、エイダ諭す。あくまでも真正面から戦わせない、慎重な作戦をたてた。


「うん、わかった!アレン先生!」


 そんな一人と一匹を見つめ、魔王は驚愕していた。


「エイダ…と確か、アレンとか言ったか。なぜだ、あの牢獄から抜け出したのか、それにその背中の羽は……」


 魔王はそこまで言って理解する、同じ力だと、自分と同じ力をこの少女は持っているのだと。だとすれば懸念が一つ魔王の頭の中に思い浮かぶ。

 この少女は、自分と同じ力を持ち、明らかに敵意を持って相対している。するとこの少女は自分にとって唯一の天敵となりうるのではないかと。


 ――消すか…!


 もはや魔王はその決断になんの躊躇もなかった。あと少しで自分の思い描いてきた未来があるのだ、そう思えば目の前の障害がたとえ、年端のいかない少女と言えどもなんの感情も抱かずに実行に移すことができる。

 そう感じた魔王は、人差し指を少女に向ける。すると人差し指の先に赤い閃光が灯る、エイダはそれを見ると咄嗟に、自身の周囲に魔法障壁を張った。


「受け止めるつもりか…!」


 魔王は笑みを浮かべた、この一撃は戦場を一つ吹き飛ばすほどのエネルギーを持っている。それを正面から受けるとは、余程の自信を持っているのだなと。


 ならばその自信を打ち崩し、勝利を掴み取ってやろうではないかと魔王は指先の閃光をより一層輝かせる。


 今度はマリデの時のように、わざとソール国領地内にこの閃光を打ち込むような真似はしない、あれはいわばマリデを誘い込むための罠のようなものだ。

 確実にマリデを仕留めるための、ソール国を人質に取った、最悪の戦法だ。あのような真似は二度とすまい。魔王はそう思い、真正面からエイダを打ち負かそうと閃光に力を注ぐ。


 そして赤い閃光がエイダに向かって発射された。


「くるぞエイダ!」

「うん!」


 アレン先生の呼びかけとともにエイダは魔法障壁にさらに魔力を注ぎ、魔法障壁越しに、魔王の赤い閃光を受け止める。


「エイダ行くぞ!ワシに魔力を合わせるのじゃ!」


 アレン先生もまた魔力をエイダの魔法障壁に流し込む。


「わかったアレン先生!」

「良いか!一、二の三で行くぞ!」

「了解!いつでもいいよ!アレン先生!」

「よし!行くぞエイダ!」


 アレン先生のカウントダウンが終わると同時に、アレン先生とエイダは力を合わせ、赤い閃光を上空へと弾いた。


「何?!」


 魔王は驚愕を隠せない、マリデとの戦いのダメージが残っているとはいえ、とてつもないエネルギーを保有していた、あの閃光を完全に防御してしまった。

 それは許されないことだった、唯一無二の絶対的な力を持つはずのこの魔王の力に対抗できるものなどこの世にいてはならない。

 これではまるで…


「勇者ではないか……!!」


 目の前のエイダを魔王は見据え、話しかける。


「今のを防ぐか!エイダ!その力いったいどこで手に入れた!」

「その声まさかライジェル王!?」

 

 エイダは驚愕し、おもむろに水晶のような魔王のコアを見る。その中にはエイダの見覚えのある男の姿があった。


「なるほどのう!黒幕は貴様じゃったか!」


 アレン先生も水晶の中を視認したのだろう、忌々しそうに言う。


「どうしてあなたが!」


 エイダの悲痛な叫びが響く。魔王は答える。


「しれたこと…!この力は世界を征することができる。その力を持ってして私は人々を導く、さあ…私は答えたぞ、答えてもらおう、なぜその力を持っている!」


 エイダは覚悟を決めたように、語る。


「ヨータの解放を望む女神から、この力を授かった!だから私はあなたを止めなくちゃならない!ヨータのためにも、世界のためにも!」

「ヨータと世界のためにだと…?」


 魔王は訝しむ。そして言った。


「エイダ、君は英雄ヨータの魂を解放しようと言うのか?それが世界のためだと?愚かな!そんな同情心で世界を救えるものか!!君は何も知らない!知らなさすぎる!いいか!私はこの力で世界を統べる!人々を導き、平和を作る!そうしなければならないのだ!この世界はもはや病んでいるからな!!」


「あなたには」とエイダは言い、つづけた。


「声が聞こえないの?」

「なんだと……?」

「私には、あなたには聞こえない、声が聞こえる。ヨータの、もう解放してほしいって声が聞こえるの」

「それを、同情と――」

「私は――!!」


 エイダは力強く魔王の言葉を遮る。


「私は!誰かの犠牲の上で成り立つ平和なんて興味はない!」

「誰かの犠牲がなければ!平和は成り立たない!」

「だったら私が!私たちが!初めてになる!誰も犠牲にならない平和を築く始めての人に!!」


「やはりわかりあえないな貴様らとは」そう吐き捨て魔王は左手に巨大な光の剣を構築する。


「その甘い考えが通用するかどうか試してみろ!エイダ!!」


 魔王はその巨体に見合わない速度でエイダとの彼我の距離を詰める。


「魔王よ、しかしお主はその甘い考えの持ち主に負けるのじゃよ」


 アレン先生が皮肉げに笑った。すると突如魔王の周囲に光球が浮かび爆発する。


「魔法の地雷か!!こんなもの!」


 しかし爆発に惑わされるがしかし、この程度では魔王はダメージに入らない。だかその戸惑いを隙を突かれ、魔王はエイダの姿を見逃す。


「おのれ!」


 自身の五感を駆使して、エイダを探す。すると、視界の端にエイダを捉える。


「そこか!」


 魔王は光の大剣を振り払い、エイダの体を切り裂いた。しかし切り裂いた体は瞬間、霧となり、宙に消えた。

 魔王は瞬間に理解した、これは幻影の魔法だと、気がつけば周囲には、多数のエイダの幻影ができていた。


「ちっ、あの化け猫め、魔法の補助をしているな…!」


 この魔法の練度、そうとしか考えられない、おそらく自身の体にエイダの魔力を流させ、アレン自体が杖の役割をしているのだろう。そう魔王は推測した。


「しかし!」


 魔王は羽をを散らし、光の剣を生成、周囲の幻影を一斉に貫いた。


 幻影を一網打尽にした、魔王はその幻影の中に本物がいるか確認するしかし、本物はいないどれもが霞となって霧散していく。


 ふと魔王は上空を見た、なぜ見たのかはわからないそれは、偶然とでも言うべきなのかそれとも何か魔王が気づかない、無意識に感じるものがあったのか。

 そこには、エイダが妖精から承った剣の切っ先を向け魔王に突進していこうとする姿があった。


「エイダァァァァァ!!」

「魔王…いえ、ライジェル王!」


 妖精の剣と、魔王の左手の剣が激突し、衝撃波が雲を裂いた。

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