第113話 破壊剣

 白き炎の濁流は、魔王の半身を持っていき、炎が止んだ後には体の半分がなくなった、哀れな魔王が姿を現した。


「まさか、貴様が、コルナの剣を隠し持っているとはな…!」


 魔王の胸の中心にある、割れた巨大な水晶の球の中、ライジェル王が右腕を抑えながら言う。


「だが、この程度では私は殺せんぞ!2000年前の時のようにな!」


 肩で息をしながら、ライジェル王は、未だに闘志を燃やして叫ぶ。そんな王にマリデは、不敵な笑みを浮かべる。


「たしかに今の僕でも君を殺しきることはできないだろうね、何せ不死の力を持っていることに違いはない」


「だが」とマリデは続ける。


「君を再封印することならできる」


 笑みを消し、指を鳴らしたマリデは、黒い水でできた結界を解く。


「フッ……再封印か」


 ライジェル王は、ひとりごちて、水晶の中から空を見上げた。


「なるべくなら、こんな策をとりたくなかったが…」


 そう王は呟くと、魔王の光の翼を急に動かし、光の羽を散らした、それは光の剣と化し、マリデに襲いかかる。

 魔王は、マリデか光の剣を蹴散らしている間に距離を取った。


「距離を取っても無駄だ……!」


 マリデは襲いかかる光の剣を右手に持っている、聖剣ゼーヴェリオンで払いのけながら言った。


「君の肉体にはすでに封印の魔法がかかっている!!」


 マリデのその言葉と共に、魔王は突如現れた複数の光輪の輪の中に囚われる。

 その複数の光輪は輪の内側に電撃を走らせ、魔王に浴びせていた。このまま順調にいけば弱った魔王は封印されるだろう。

 だが魔王は最後のあがきなのか指先をマリデに向ける。


 そして指先に赤い光球が発生した。先ほどの戦場一つを消し去ったであろう、一撃をマリデに食らわせるつもりだ。


 ―― 一矢報いるつもりか?


 そうマリデは考えて、ふたたびその身を混沌の化身の姿へと変えた。戦場一つを消し飛ばすほどの一撃だ、手こずるだろうが防げないほどではない。

 マリデは魔法障壁の準備をしつつ、封印の魔法を唱える。


 そしてついに魔王の指先から光線が放たれる。しかしマリデに向かってではなかった。


「なに?!」


 思わず、マリデは目を疑う、魔王はマリデにではなくソール国の領地に向かって光線を発射した。


 おそらく光線が向かう方角は、王都エポロ。


 マリデは、魔法障壁を張るのを止める。そして咄嗟にテレポートの魔法で空間を飛び、赤い光線の射線に飛び込んだ。


「ぐっ……!」


 全てはエポロにこの光線を届かせないため、マリデと光線はぶつかり大爆発を起こした。





 剣と剣がぶつかり合い、塔の床を振動させる。ここは塔の頂上より一個下の階層、そこでドンキホーテとグレン卿は剣を交えていた。


「オラァァ!」


 野蛮な叫び声と共にドンキホーテはグレン卿を斬撃で吹き飛ばす。しかしグレン卿は斬撃を剣の峰でガードしていた。

 吹き飛ばされつつもグレン卿は、冷静に着地し、剣を横一閃に振るう。剣は虚空を切り裂くと同時に、刃から三日月型の光を発射する。

 それはドンキホーテに向かっていく。


「そんなもん!」


 ドンキホーテは咄嗟に腕に巻いた魔法の布を触り、盾に変形させ、その光を防いだ。盾と光がぶつかり爆発を起こす。

 完全に防げたものの、煙が起こりドンキホーテの視界は塞がれる。剣を使い空気をなぎ払い、煙を散らす。

 しかし煙が晴れた先にはグレン卿の姿はなかった。

 ドンキホーテは、五感を使い、周囲に警戒を払う、いったいどこにグレン卿は隠れたのか。


 すると突如、床の隙間から光が差し込む。


「おいおい、まじかよ!」


 その光はそのフロア全面の床を破壊しドンキホーテをも巻き込んだ。


 いつのまにか下の階にいた、グレン卿は自身が破壊した天井から降ってくる、少量の瓦礫を剣で砕きながら呟く。


「全く、上の階ごと貴様を吹き飛ばしたつもりなのだがな?」


 グレン卿の目の先には、一切外傷を負っていないドンキホーテがいた。


「チッ、痛かったぜテメェ…」


 ドンキホーテは悪態をつきながら剣を構える。


「やはり、小手先では通用しないな貴様は。四肢狩りの名は伊達ではないようだ」


 ―― 階一つ吹き飛ばしておいて小手先だぁ?冗談じゃねぇぜ!


 心中でそう叫びながらドンキホーテは群青のマントをたなびかせ突撃した。グレン卿の剣とドンキホーテの剣がぶつかり合う。

 グレン卿の剣は既に吸魂の剣から、聖剣、破壊剣に変わっている。破壊剣の光線が発動され、直撃でもしたらドンキホーテといえど無事では済まない。

 そこで彼がとった作戦は一つだ、単純なたった一つの作戦だ。


 ―― 息もつかせねぇほど攻撃しまくってやる!


 それは破壊剣の能力を発動させる暇がないほどの手数で押し切る、というもの、幸いそれだけの方法がドンキホーテにはあった。


 早速ドンキホーテはその作戦を実行するべく剣を、打ち合いながら盾が装着された、左手で、足にくくりつけてあるポーチを探る。

 そのポーチの中から、ルーン文字と言われる魔法が込められた、文字が刻み込んである石を取り出し、グレン卿に剣で斬りかかるフェイントを交え投げつけた。


 投げつけたその石にはルーン文字で「光」と書かれていた。


 石は弾け、中から太陽かと思わんばかりの閃光を吐き出した。ドンキホーテは光る瞬間にテレポートをしその閃光を見ずにすんだ。

 だがグレン卿は目を潰されてしまう。テレポートでグレン卿の背後に飛んだドンキホーテはそのまま剣による突きを繰り出す。

 空気を裂き、音すら越えるその突きをグレン卿は目が潰されたまま、いなし、逆にドンキホーテに一撃を加えようと剣を縦に一閃、振り払う。

 ドンキホーテは、まさかの反撃に驚いたものの、その一撃を剣の刃で受け防いだ。

 そしてそのまま右腰にあるホルスターにしまっている、リボルバー銃を左手で抜きグレン卿の体勢を崩す目的で、3発、至近距離で発射する。


 しかしグレン卿はそれをも、咄嗟に横に跳びのき回避する。


 目が見えていないというのによくやるものだとドンキホーテは内心、感心をしつつ、次は点ではなく面での攻撃をすることにした。


 ふたたびポーチを探り今度は「嵐、火」とルーン文字で書かれた。石を投げつけた。

 ルーン文字は砕け、大爆発を起こした。

 流石のグレン卿もこれには避けられず、魔法障壁を張り防いだ。


 だが強力な爆発であったため即席で貼った魔法障壁では完全に防ぎきることができず、グレン卿は衝撃と火をまともにくらい爆煙のなか、体勢を崩す。

 それを予期していたドンキホーテは剣でふたたび煙をなぎ払い、グレン卿の姿を確認すると。

 グレン卿を倒す絶好の機会だと確信し、弾丸のように突進し、グレン卿を無力化すべく彼の利き手である右腕を狙い剣を振るう。


 だがドンキホーテの剣がグレン卿に届くことはなかった。


 グレン卿は突如、魔法を詠唱したかと思うと、グレン卿の体は光とともに消える。


 ―― テレポートの魔法か!


 ドンキホーテは瞬時に理解してあたりを見回すグレンの姿を確認するために、するとグレン卿はドンキホーテから既に距離をとった場所に佇んでおり、剣を掲げていた。


「破壊剣、ディセメンド!我が怨敵を八つ裂け!!」


 グレン卿のかけ声と共に、掲げられた聖剣は紫色の光を放ち、振り降ろされると同時に三日月型の光線となって、ドンキホーテに向かっていく。


 ドンキホーテはその光線に直撃、大爆発がその階層で響き渡った。

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