第111話 混沌の力

「ほう、もう来たのか、もうすこし時間が稼げると思ったが」


 魔王の声が響き渡る。


「そのものいいだと、やはり君達が裏で僕の気を引くために、工作していたのか、お陰でまんまと騙されたよ、こんな重要な案件を分身に任せてしまうほどにね」


 そう言って、マリデは自分の片足に、分身であるへビを巻きつかせる。ヘビは巻きつくと同時にマリデの黒いズボンに溶けるように消えていった。


「ボス、事情は話さなくても大丈夫か?」


 ドンキホーテの問いにマリデは振り向き答える。


「ああ、さっき分身から情報をもらったよ、随分と苦労をかけてしまったね、すまない、ここからは僕がやる、下がっていてくれ」


 マリデはそういうと、背中から無数の触手を展開させる。


「やはり、そうかヴァルデ、貴様、混沌の神の力を取り込んでいるな?」


 魔王はマリデを見て言う。


「どうやら、魔力の性質までみれるようになったようだね」


「だが」とマリデは、言葉を続けることなく宙を飛び、魔王にとてつもない速さで突進していった。狙うは魔王のちょうどコアにあたるであろう部分、巨大な水晶の球の中にいる、ライジェル王だ。

 しかし、そんな狙いは王もわかっている、魔王の巨体を操作し右腕を払いマリデを迎撃しようとする。


 そして魔王の右手とマリデの複数の触手がぶつかり合い、衝撃波が生まれる。


 さらにマリデの触手は伸縮し、右腕を絡めとりつつ、そのままコアを貫こうと、弾丸のようなスピードで伸びていく。

 その伸縮自在な触手を、魔王は左手の掌で巨体の割に素早く防ぎ、そのまま触手を握りしめると、上空にマリデは投げ飛ばした。

 マリデは上空に飛ばされながら、魔法を詠唱し叫んだ。


「ドラゴンブレス!!」


 それは、もはや光線と見紛うほどの、手のひらから出る、火炎放射の魔法だった。

 しかしその恐ろしき魔法を魔王は難なく魔法障壁で防ぎマリデに追撃を加えるべく、彼に近づいていく。


 魔王は遥か上空にいるマリデに向かいながら、左手に光を収束させる。その光は形を変え、魔王の体格に見合う巨大な剣となった。

 その剣を使い、マリデに向かって魔王は突きを繰り出す。

 マリデは両手でその剣を挟み、体に突き刺さるの一歩手前で止めた。そして複数の触手の切っ先を魔王に向ける。

 今度は自分の番だとでも言うように、触手の先端が光り輝いた。次の瞬間、その光は何本もの線となり魔王の体に直撃しいくつもの爆発を起こした。




 このような激しい戦闘をドンキホーテは、マリデの言う通り戦いに出しゃばらず見ていた、いや正確には、援護や支援ができないほどの強大な戦いなのだ。

 何より空の戦いであるため、ドンキホーテのもつ技の有効射程の範囲を大きく超えていたのも関係していた。



「そうだ!エイダと先生をさがさねぇと!」


 しかしこの状況下でもでもドンキホーテは自分のやれることを探した、そこで一つ思い立ったのがエイダ達の捜索であった。


 しかしその考えをドンキホーテが実行に移すことはできなかった。


「貴様の相手は私だ、四肢狩り」


 突如、床に光る魔法陣が浮かび上がったかと思うと、グレン卿が現れドンキホーテに斬りかかってきたからである。

 おまけに切り落としたはずのグレン卿の左手は再生されていた。


「チッ!邪魔すんな!グレン卿!」


 ドンキホーテはグレン卿の剣を自身の剣で防ぐ、だがこれが間違いだった。


 グレン卿はニヤリと笑い鍔迫り合いにある自身の聖剣の力を解放する。


 グレン卿の聖剣、破壊剣から光が溢れドンキホーテを飲み込んだ、光はそのまま床を貫き、頂上の一個下の階層の床に直撃したのだった。




「ドンキホーテ!」


 マリデはドンキホーテの異変に気づき叫ぶも援護には行けない、目の前にいる魔王がそれを阻んだ。

 魔王は、光の剣を再び振るい、休む暇なく斬撃を繰り返してくる。

 その斬撃に対してマリデは、魔法障壁や、触手による防御で攻撃を逸らす。

 光の剣の攻撃が防御されると知るや、魔王は次は背中の羽を散らし、その羽から無数の小型の光の剣を生成した。


「行け!」


 その魔王の号令とともに無数の、光の剣がマリデに襲いかかる、マリデは避けるが、光の剣はただ、一直線に飛ぶわけではなかった。

 光の剣は、まるで餌に群がる魚の群れのように、マリデを追い回すのである。

 自身に対して誘導してくる光の剣に対してマリデは、空間を縦横無尽に動き回ることで避けようと画策した。


 だがマリデがとてつもない速度で変則的に動くと、それに合わせるように、光の剣も変則的にマリデを追い回した。


 やがてマリデはただ回避するだけでは無理だと感じ、背中の触手や魔法を使い光の剣を破壊することにした。

 背中の触手を振るい、電撃の魔法を放って、剣を破壊するも、魔王はさらに無数の光の剣を量産していく。

 そうしてマリデは、ついに数の差に負け光の剣の濁流に飲まれていった。


 光の剣はマリデの体にあたるごとに小爆発を起こしていく。


 その光景を見て魔王は思った。あっけないものだな、と。

 しかし広がる爆炎の中、魔王は見た、黒い影を。

 思わず魔王は言葉を漏らす。


「何…!?」


 その黒い影は主は爆炎のを自身の触手で払いのけ姿を見せた。

 それは異様な姿だった、人の姿を形をとっているが、全身の肌は黒一色で肋骨が透けて見え。

 そして顔もないのっぺらぼうだ。頭にはまるで長髪のように複数の触手が棚引いていた。そしてその体躯は魔王よりも一回り小さいものの巨大であった。


 ライジェル王はその姿を見て、思わず呟く。


「混沌の化身か…!!」


 そうそれはマリデが変身した姿、混沌の神の力を具現化したものであった。

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