第110話 本体
ドンキホーテは目の前の王を見て思った、この男は、今も自分の正義を貫いているのだと。そしてそれ故にもはやこの男を止めるすべはないと感じていた。
殺す以外では。
かつての友人を殺す想像をして、思わず身が震える思いをする、ドンキホーテ。そんな彼の気持ちを知らずにおもむろに王は呟く。
「時間か…」
ドンキホーテは訝しむいったい何の話なのだろうかと。すると王は言う。
「今、ロウル国軍が、ロウル国とソール国の国境で戦闘を始めたという報告が入った、今、戦闘を行っているのは第13騎士団と、現地にて国境を見張っていたソール国軍だ」
第13騎士団、オークの騎士レーデンスが所属している騎士団だ。
しかしなぜ、王が急にそのような、情報を知ることができたのか、長距離のテレパシーか何かだとマリデは推測した。
そこからわかるのは王の思想に協力するものがソール国内にいると言うことだけだ。
それが宰相か元老院にいる貴族か、定かではないが。
しかし、それを知って何をするのか、ここから何をしようと言うのか、マリデとドンキホーテのその疑問に答え合せをするように、王は口を開いた。
「では今から見せようと魔王の力を…方角はあちらか?」
すると急に、王の体を中心に光が弧を描きながら放出される。そして、王の体は巨大な水晶のような球に包まれた。
そして、その水晶の球は浮かび上がり、それを中心に白い物質が広がり始めた、その物質はやがて巨大な人の形を成していき、巨人へと形を変えた。
その巨人の顔は、中性的で男か女かもわからない、しかし体つきは男性的である。
さらになによりも、象徴的だったのが、背中に現れた3対の羽だった。それは神の使者の象徴だ。ドンキホーテは実感した。これが魔王の真の姿なのだと。しかし。
その姿は魔王というにはあまりにも神々しいものであった。
王の声が塔の頂上に響く。
「これが封印されていた、魔王の肉体そのものだ、今や私の意のままに操ることができる。私は魔王の魂そのものとなったのだ」
ドンキホーテは思わずその姿を呆然と眺めてしまう。しかし、すぐに、剣を引き抜き、あの巨人に勝てる方法を頭の中の知識と経験から考える。
そんなドンキホーテを横目に魔王は、ある方角を指差す。するとその指先に赤い光球が生み出される。一目見てドンキホーテはわかった。
その光球はとんでもないエネルギーを秘めていると。
光球は、やがて光線となり放たれた。ドンキホーテは放たれた方角を見る。光線は雲海を突き抜け、恐らく大地に直撃したのだろう。雲が下から照らされた。
ドンキホーテは気がつく、まさかあの方角は、と。
「ロウル国、国境か!」
同時刻、ソール国とロウル国の国境、ソール国軍とロウル国軍が入り乱れ、魔法が飛び交い、剣は血に濡れていた。その凄惨な戦場の空が突如、赤く照らされた。
その光は天より、流星の如く降り注ぎ、戦場の中心にちょうど直撃した。やがてその光は大地をえぐりながら広がっていった。
そして塔の頂上。
あの光線がどのような結果をもたらしたのか、ドンキホーテは嫌でも想像ができた。
「クッソ…!」
ドンキホーテは拳を握りしめる。そして魔王に強い眼差しを向けた。
「消したのか戦場ごと…!」
ドンキホーテの問いにライジェル王は答える。
「そうだ」
その返答はどこまでも淡々としていた
「ならばライジェル!お前は俺を裏切った!!」
そう叫ぶドンキホーテをライジェル王は冷たい眼差しで見つめていた。
「あの戦場には、レーデンスもいた!それだけじゃねぇ!ソール国の兵士だっていたんだぞ!それをお前は!!」
王は、言い放つ。
「致し方ない犠牲さ…ドンキホーテ、これでロウル国の魔王級の軍事兵器ごと、消滅させるためにはこうするしかなかった」
致し方ない犠牲、またそれか、とドンキホーテはライジェル王を睨む。そして言った。
「俺は…俺はお前の元には行けない、ライジェル、お前をここで倒す。ボス協力してくれるか?」
「もちろんだよドンキホーテ、僕はそのために来た」
ドンキホーテの答えは、絶交の言葉であった。一瞬ライジェル王の目は歪みを見せ、そして目を瞑った。
再び目を開けた時には、どこまでも冷徹な目をドンキホーテに浴びせた。
「そうか…ならば、お前たちは私の敵というわけだ」
魔王が、指先をドンキホーテに向ける。再び赤い光球が形成される。戦場に向けた時のエネルギーよりも、若干低いようだが、それでもドンキホーテ達を消すのは容易なものだった。
ドンキホーテはマリデを抱えテレポートの準備をする、しかしマリデはこの状況で、ドンキホーテを止めた。
早くこの場所から動かなければ、再び光線にやられるというのにである。マリデは言う。
「大丈夫だ、ドンキホーテ、あの光線は僕が防げる」
その蛇の体で何を、とドンキホーテが言いかけた時、光線がドンキホーテ達に向かって放たれる。
しかし光線がドンキホーテの体を焼くことはなかった。目の前に突如現れた、黒づくめの太った男が強力な魔法障壁を張ったのだ。
男は言う。
「すまない、おまたせしたね、来るのに時間がかかってしまったよ」
「お前…まさか!」
ドンキホーテは驚愕とともに黒づくめの男の正体を言い当てる。
「本体のボス!?」
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